特集:大切に護り伝えたい〜日本の歴史的建造物
Close-up――東京駅丸の内駅舎保存・復原工事 時を越えて〜創建時の東京駅丸の内駅舎が甦る
“赤レンガ駅舎”の名で知られる「東京駅丸の内駅舎」の復原工事が進んでいる。
国の重要文化財になっている駅舎の主要部分を可能な限り保存・活用して,創建時の姿に甦らせるプロジェクトだ。
一方で,建物機能の拡充を図るため地下躯体を新設し,大地震に耐え得る免震装置を設けるなど,最先端技術の粋を集めることで,貴重な文化遺産を未来に受け継ぐ。
歴史的建造物と現代技術の融合による新たな価値の創出に,当社JVが総力を結集している。
東京駅丸の内駅舎 〜誕生とこれから〜
創建時の東京駅丸の内駅舎(出典:鐵道院東京改良事務所『紀念寫真帖』)
わが国のセントラル・ステーション
 東京都千代田区丸の内。皇居・和田倉門と行幸通り(通称)で一直線に結ばれる東京駅丸の内駅舎は,わが国のセントラル・ステーションに相応しい威風堂々たる佇まいを見せている。JRの在来線18線,新幹線10線,東京メトロ2線(線路数)が乗り入れる日本最大のターミナル駅である。ホテルやレストラン,ギャラリーを併設し,利用者に安らぎを提供する施設としても愛されてきた。

辰野金吾氏設計の名建築
 東京駅丸の内駅舎の創建は,1914(大正3)年。当時,神戸まで全通した国鉄東海道本線の始発・新橋駅と,北の玄関口・日本鉄道の上野駅を結ぶ中央停車場として開業した。
 設計は明治・大正期を代表する建築家・辰野金吾氏による。地上3階建て,南北に広がる鉄骨レンガ造の建物は延長約335m。レンガ造としてはわが国最大規模を誇る。赤レンガに白い石材を配した華やかな西洋建築は「辰野式フリー・クラシック」と称され,辰野氏の建築作品の集大成として高く評価される名建築である。2003年に国の重要文化財に指定された。

戦災復興で現在の姿へ
 東京駅丸の内駅舎が現在の姿になったのは,1947(昭和22)年である。関東大震災にも耐え抜いた強固な躯体を誇る駅舎が,終戦間近の1945年5月25日の東京大空襲で炎上。華麗なドームや屋根は焼け落ち,内装は焼失した。
 戦後直ちに復旧工事が行われ,辰野氏の設計を踏襲しながらも,3階部分は撤去して2階建てとし,ドーム型の南北の屋根は八角形で施工された。早期建直しを目指し,数年間の利用を視野に入れた応急工事だったが,半世紀の時を越えたいまも使い続けることができたのは,当時の優れた建設技術と工事関係者の努力の賜物といえる。

創建時の姿が甦る
 2007年4月,「東京駅丸の内駅舎保存・復原工事」に着手した。事業主のJR東日本の計画概要によると,「駅舎の安全性と利便性の向上を図りながら,駅舎の恒久的な活用を実現するとともに,文化的遺産である歴史的建造物を未来に継承し,首都東京の風格ある都市空間の形成に貢献する」一大プロジェクトである。
 本工事では,現存する駅舎を可能な限り保存・活用するとともに,戦災で焼失した屋根,南北ドームなどを新たに復原し,創建時の姿に戻す。さらに,地下1・2階を新設して,駐車場・機械室などを整備。より充実した建物機能を確保するとともに,既存駅舎の耐震補強策として,免震構造を採用する。
 当社JVは,最先端の施工技術と歴史的建造物の保存・復原に関する経験・実績を活かし,土木・建築が一丸となって,このプロジェクトに取り組んでいる。
 時を越えて,赤レンガ駅舎が甦る。


創建時のドーム内部見上げ(出典:鐵道院東京改良事務所『紀念寫真帖』)
被災した北ドーム(提供:JR東日本)
南ドーム復旧工事の様子(提供:JR東日本)
乗降客の安全と快適を維持した現場を目指す
東京駅丸の内駅舎保存・復原工事共同企業体 谷崎恭嗣 所長 JR東日本のこの壮大なプロジェクトに参画させていただき,身の引き締まる思いです。駅機能を損なうことなく,お客様の安全を第一に工事を行うことが,私たちに課せられた最大の任務です。日々,お客様の目線で現場を管理するよう心掛けています。
 現在,作業員は約250名。現場は2交替制で24時間稼動しています。駅を使用しながらの保存・復原工事は,事前の詳細な調査が難しく,工事に取り掛かって初めて分かることがたくさんあります。問題や課題が生じた場合は,三現主義「現場で,現物を,現実に」で対策にあたっています。乗降者の通行範囲での工事は終電後の数時間に限られ,狭小な場所での作業は大きな重機にも頼れません。厳しい作業条件と工期との戦いでもあります。
 新たに構築する地下躯体と免震化は,ゼネコンの総力を結集しての大工事です。巨大駅舎を仮受けするダイナミックな試みは,駅舎壁面の変形を1/2000以下に保ち続けながらの緻密さも求められます。
 錯綜する現場で,効率よく安全に作業を行うには,JR関係者,JV社員,作業員相互のコミュニケーションが大切。意思疎通・情報共有を図るための定例会議や打合せは勿論,親睦会などでも連帯意識を深めています。5年余にわたる長い工期ですが,社員,作業員が緊張感を持ち続け,この名誉ある工事を完成に導けるよう努力と工夫を重ねます。
東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
場所:東京都千代田区
事業主:東日本旅客鉄道
設計:東日本旅客鉄道 東京工事事務所・ 東京電気システム開発工事事務所, 東京駅丸の内駅舎保存・復原設計共同企業体
監理:東日本旅客鉄道 東京工事事務所・ 東京電気システム開発工事事務所, ジェイアール東日本建築設計事務所
用途:駅施設,ホテル,ギャラリー,駐車場
規模:鉄骨煉瓦造・RC造一部S・SRC造(免震構造) B2,3F(一部4F) 延べ43,000m2
工期:2007年4月〜2012年6月(予定)
(東京建築支店JV施工)
工事が進む東京駅丸の内駅舎

 Close-up――東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
   時を越えて〜創建時の東京駅丸の内駅舎が甦る(1)
 Close-up――東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
   時を越えて〜創建時の東京駅丸の内駅舎が甦る(2)
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