特集:大切に護り伝えたい〜日本の歴史的建造物
日本の伝統・文化を未来へ生かす―― 鹿島の保存・再生技術
日本の伝統建築は,わが国の風土や文化,そして時代と融合しながら発展してきた。
この美と技がもたらす伝統・文化をどう未来へ生かすか――。
当社は,神社仏閣や文化施設などの保存・再生工事を数多く手掛けてきた。
そのノウハウを新たなプロジェクトへ応用し,進化させている。
伝統建築の保存・再生技術は,伝統技術と現代技術のコラボレーションでもある。
建物を蘇生する過程での宮大工の匠の技とこだわり。それを現代技術が作業の安全性や施工性でサポートし,最適な修理法や補強法を導き出して具現化する。
当社の技術力,施工力,そしてマネジメント力が創出した伝統建築のいくつかを紹介する。
主な伝統建築の保存・再生に関する施工実績
函館ハリストス正教会復活聖堂/日本ハリストス正教会
東京復活大聖堂(ニコライ堂)/仙台城址石垣/亀山本徳寺太鼓楼/正法寺/姫路城/掛川城天守閣/竹駒神社御社殿/旧新橋停車場 ほか
日蓮宗大本山  池上本門寺 大堂
日本最大級の瓦屋根の葺替え
 700年余の歴史をもつ日蓮宗の大本山・池上本門寺(東京都大田区)。日蓮大聖人の御尊像が泰安される大堂(本堂)の瓦屋根の修復と耐震補強工事を行った。戦災により1964年に再建された大堂の約40年ぶりの屋根葺替え工事だった。
 高さ30m,屋根面積686坪(2,067.8m2),最大勾配43度,国内最大級の大屋根に使用した瓦は約11万8,000枚。軒先の丸瓦と棟の先端各所に設置される鬼瓦の顔は,同寺の建築顧問を務める設計者が新たにデザインし,薬師寺西塔,大講堂などの復興工事を手掛けた職人たちの手で製作・葺き替えられた。大屋根の“たるみ”(瓦の葺き上がり)の曲線美は,瓦職人の伝統技と感性で見事に描き出され,新しい寺院の象徴として,これからの歴史を築いていくことになった。
 当工事ではコストダウンを図るため,素屋根(すやね)を設置せず,小屋裏にビニール防水シートなどによる雨水漏水対策を講じた。また,小屋裏に鉄骨柱と鉄骨トラスを設置することで,建物の意匠を損なうことなく耐震補強が施された。
(2006年4月竣工)
改修後の全景
屋根瓦の葺替えの様子 新しくデザインされた降り鬼を設置する
石畳の男坂(左)と池上の自然を散策できる女坂(右) 当社は,参拝者の利便性と快適性を高める寺院施設の提供も行っている。
 参拝客を大堂へと導く「此経難持坂(しきょうなんじざか)」(通称:男坂)の急な石段を迂回する「女坂」を,歩行者に優しい設計と緑に包まれたランドスケープで整備した。設計・計画を(株)ランドスケープデザイン,施工を当社が担当。このほか,合祀墓,休憩所や販売所,寺院内の案内掲示などの整備も行った。
大日本報徳社 大講堂
大屋根を架け報徳の学び舎を守る
 江戸時代後期の農政家・二宮尊徳が,道徳と経済の調和・実践を説き,農民救済を目指す報徳運動の活動拠点としたのが大日本報徳社(静岡県掛川市)。1903(明治36)年に創建された大講堂は,1階が母屋造りの和風寺社建築,2階は当時貴重なガラス窓がはめ込まれた洋風建築という和洋折衷の珍しい建物で,県の文化財に指定されている。
 修復工事は,大講堂創建100周年記念事業として行われた。小屋組みや軸組みは,腐食・破損・変形が確認された箇所を部分的に解体し復元する「半解体修理」とし,同時に,土台を支える基礎石の据え直し,耐震補強,瓦屋根の葺替えを行った。
 3年にわたる修復工事は,建物を守り,工事や調査の作業性向上のため,「素屋根(すやね)」と呼ばれる足場付きの大屋根を設置して施工した。工事のクライマックスとなったのが屋根の葺替え作業で,全て取り外された瓦は,1枚1枚打診して状況を確かめ,可能な限り既存瓦を再利用した。
(2008年1月竣工)
改修後の正面外観
素屋根設置工事の様子 屋根の木組み。雨漏りの酷かった屋根は,下地部分から全て葺き替えられた 葺き戻された瓦屋根
竹駒神社 向唐門
江戸時代以来初の大改修
 842(承和9)年に創建された竹駒神社(宮城県岩沼市)は,日本三稲荷のひとつとして知られる。その社殿前に構えるのが「向唐門」である。1842(天保13)年の建立で,屋根は銅板葺き,各所に施された精緻な彫刻が美しい。県下最大の遺構とされ,岩沼市の指定文化財となっている。
 建立以来,大規模な修理が行われなかったこともあって,柱の傾斜,軒垂れの進行,耐震性などの問題が発生。全解体による組み直し,基礎補強,耐震補強を行った。
 改修に当たっては,文化財の専門家が,躯体の組み方,修理・改修の歴史,腐食・破損部分などを綿密に調査し記録した後,職人の手で一つひとつ丁寧に解体した。各部材は清掃され,変形・割れの修理,腐朽部分の除去・取替え,新規部材による補強が施された後,創建当時の技法を使い出来るだけ忠実に組み戻した。
 耐震補強では,当社独自の立体解析モデルを用いた地震応答解析により,最適な耐震補強法を検討。向唐門西側背面の両側に鉄骨支柱を建て,冠木の両端と支柱頭部を鉄板で接合する補強法を採用した。
(2008年12月竣工)
修理後の向唐門(西側背面)。両側に建つ2本の柱が耐震補強の鉄骨支柱。鉄骨はヒノキ材で化粧し,意匠への影響を最小限に留めている(写真は塗装前)
解体の様子。160年余の歳月を経た部材が姿を見せる 屋根の銅板段葺き前の妻側唐破風,蓑甲の下地曲面が美しい

 Close-up――東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
   時を越えて〜創建時の東京駅丸の内駅舎が甦る(1)
 Close-up――東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
   時を越えて〜創建時の東京駅丸の内駅舎が甦る(2)
 日本の伝統・文化を未来へ生かす―― 鹿島の保存・再生技術
 人々の記憶を未来へ伝える―― 鹿島の保存・再生技術