特集:大切に護り伝えたい〜日本の歴史的建造物
Close-up――東京駅丸の内駅舎保存・復原工事 時を越えて〜創建時の東京駅丸の内駅舎が甦る
歴史と未来をつなぐ技術
東京駅は,1日の乗車人員数約40万人,運行本数は約3,000本にのぼる巨大ターミナル駅だ。
この駅機能を維持し,利用者の安全を確保しながら,大復原工事は行われている。
創建当時の姿に忠実に復原するには,現代では珍しくなった技法も必要になる。
免震化工事では,既存駅舎全体を仮受けして免震装置を挟み込む作業など,技術の難易度も極めて高い。
建築技術においても「歴史と未来をつなぐ」プロジェクトなのである。
歴史保存・復原工事
 保存・復原工事の概要は,1.赤レンガ駅舎のレンガ壁や鉄骨梁等の主要構造部は,傷みの激しい箇所を補強・修理しながら,出来るだけ現存の躯体を活かして保存する。2.復原する3階部分は現代工法によりSRC造で増築する。3.3階部外壁と現在モルタル仕様の線路側外壁は,化粧レンガなどで復原する。4.2階部の屋根に使用されている天然スレートは採取して3階屋根へ極力再利用する。5.駅舎のシンボルである南北ドームはかつてのドーム型に改修する。ドーム内部見上げ部分は当時の写真や図面,現存するレリーフ跡を基に,創建時の姿に復原する――などである。
 創建当時,駅舎は杭打ちや鉄骨建方に建設機械を使用した以外,ほとんどが職人による手作業で建設された。今回の工事では,専門家や伝統職人の知恵と技で,当時の仕様・工法を可能な限り採用し,保存・復原していく。
 手間と時間をかけ,歴史的建造物の価値を維持し,伝統技術の保存・継承に努めていくこともまた,このプロジェクトの大切なコンセプトになっている。
復原前   ドーム内部も華麗な装飾が甦る
現在の八角形の屋根(上)はドーム型(下)に復原される。
既存屋根の天然スレートは新設する屋根に再利用される。外壁のレンガ,既存建具のガラス,中央御車寄の花崗岩なども再利用される 残存する銅板葺は解体調査のうえ復原される 戦災で傷んだ漆喰塗を調査のうえ,復原
内部図
クリックすると大きくなります
完成予想パース
未来仮受け・地下躯体構築・免震化工事
 現代の最先端技術のハイライトは,延長およそ335m,総重量約70,000tにおよぶ巨大駅舎の荷重を一時“仮受ける”というダイナミックな発想のもと,地下に大空間を構築し,日本最大規模の「居ながら免震工事」を行うことである。
 仮受け工事は,駅舎の構造レンガ壁直下に「縦梁」と「つなぎ梁」を構築し,予め設置した仮受け用支柱で駅舎の荷重を仮受ける。
 駅舎を仮受けした後,地下躯体を逆打工法で施工。地下躯体構築完了後,駅舎全体に配された約350基の免震装置(アイソレータ)に荷重を移し,免震化工事を完了する。
 現在,現場は仮受け工事の最盛期を迎えている。乗降客の通行範囲や隣接する箇所での作業は,終電後の短い時間を縫って行われている。駅舎内の狭い場所での作業など厳しい条件の下で,壮大なプロジェクトは着々と進行している。
現場の様子
昼間(左)と夜間(右)の駅状況。運行時間帯は掘削部分を覆工板とゴムマットで養生し通路を確保。終電後取り外し作業する
免震装置配置図
免震装置(アイソレータ)
仮受け・地下躯体構築・免震化工事の流れ
1.杭打ち 仮受け支柱を打ち込んだ本設杭と,建物外周の山留め杭を施工する 仮受け工事で「縦梁」と「つなぎ梁」を構築する様子 2.仮受け 構造レンガ壁直下を5〜6mスパンで開口し,「縦梁」を構築。「縦梁」から仮受け支柱まで伸びる「つなぎ梁」を構築し,支柱上に設置したジャッキで仮受けする
「縦梁」と「つなぎ梁」のイメージ。仮受け完了後,創建時の松杭は撤去される
3.地下躯体構築 仮受け工事は,駅舎に大きな変形等が生じないよう,変形計測と制御管理を行いながら進行。仮受け完了後,地下躯体は逆打工法で構築する4.免震化 仮受けした駅舎は,地下躯体構築完了後,アイソレータに荷重を移す。荷重移行後は,仮受け支柱を撤去し,地下部の内装・設備工事がスタートする

 Close-up――東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
   時を越えて〜創建時の東京駅丸の内駅舎が甦る(1)
 Close-up――東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
   時を越えて〜創建時の東京駅丸の内駅舎が甦る(2)
 日本の伝統・文化を未来へ生かす―― 鹿島の保存・再生技術
 人々の記憶を未来へ伝える―― 鹿島の保存・再生技術