特集:舞台への招待
Stage 1 舞台の楽しみ 都市文化への“そよ風”サンケイホールブリーゼ
息づかいの伝わる桟敷
 サンケイホールブリーゼは,半世紀の歴史をもつ名劇場を,新たに建て替えた多目的型のホールである。
 1952年完成の旧ホールは,大阪で戦後はじめての“文化の殿堂”として,戦災復興のシンボルとなり,多くの人々に愛された。故・朝比奈隆氏が関西交響楽団を率いてクラシック音楽を世に広め,上方芸能の再興にも大きく寄与するなど,数えきれない名場面を生んできた。
 そのホールが2008年11月,生まれ変わった。同じ西梅田の地で,つぎの半世紀への新しいエンターテインメントを育て,芸術と文化の爽やかな「ブリーゼ(そよ風)」を立ちあげようとしている。
 新たなホールは「ブラックボックス」と名づけられた漆黒の空間。壁,椅子,手すりなどのすべてが黒で統一され,不要な光の反射や映り込みを抑え,演者も観客もその意識が舞台へと集中できる。大ホールの客席はあえて900席ほどの中規模に抑え,演者と観客がお互いの息づかいを感じられる密度にこだわった。
 こうした空間のコンセプトは,日本の伝統的な芝居小屋に発想を得ている。1階の客席が「平場」にあたり,3層のコの字型バルコニー席が「桟敷」として囲む。こうした空間構成による“囲まれる感覚”が,日本の伝統芸能から現代演劇まで多様な演目を包み込み,その熱気を一層に高めるのである。
舞台と客席の一体感を求めたサンケイホールブリーゼ。平面図と断面図が示すように,日本の芝居小屋を空間構成のコンセプトとし,1階客席を3層のバルコニー席がコの字型に包み込む photo:Nacasa & Partners
舞台と客席の一体感を求めたサンケイホールブリーゼ。平面図と断面図が示すように,日本の芝居小屋を空間構成のコンセプトとし,1階客席を3層のバルコニー席がコの字型に包み込む 舞台と客席の一体感を求めたサンケイホールブリーゼ。平面図と断面図が示すように,日本の芝居小屋を空間構成のコンセプトとし,1階客席を3層のバルコニー席がコの字型に包み込む
サンケイホールブリーゼ/ブリーゼタワー7〜8F
(以下はタワー全体の建物概要)
場所:大阪市北区/事業者:サンケイビル,島津商会/設計・監理:三菱地所設計/デザインアーキテクト:クリストフ・インゲンホーフェン(インゲンホーフェン アーキテクツ)/ホール設計協力:当社建築設計本部/規模:S(地上)・SRC(地下)造 B3,34F,PH1F 延べ 84,790m2/工期:2006年3月〜2008年7月(関西支店施工)
理想的な音響の追求 軽井沢大賀ホール
五角形平面での“よい響き”
 軽井沢大賀ホールは,リゾート地として有名な軽井沢からの音楽文化の発信を願い,ソニー顧問・大賀典雄氏(元社長,会長)が軽井沢町に寄付した音楽専用のホールである。660席および立ち見140席の客席をもち,静かで美しい周辺環境に囲まれたサラウンド型コンサートホールだ。2005年4月にオープン以来,これまで数々の国際的演奏家がその舞台を飾っている。
 軽井沢大賀ホールの特徴は世界的にも珍しい正五角形の平面形状である。これは音楽家としても知られる大賀氏が「(箱型のシュ−ボックスタイプと異なる)平行壁面がないホールを」望んだ意向による。そのため,音響設計を担当した当社技術研究所と永田音響設計とが,数々の試行錯誤の末,コンサートに適した音響空間をつくり上げた。
平行壁面をもたない平面が音響に最適との大賀氏の提案で設計された photo:Sadamu Saito
軽井沢大賀ホール
場所:長野県北佐久郡軽井沢町/発注者:大賀典雄/設計:当社建築設計本部/規模:RC造一部S造 1F 延べ 2,813m2/工期:2003年12月〜2004年11月(関東支店施工)

 Stage 1  舞台の楽しみ
 Stage 2  音響の楽しみ

 Stage 3  物語の楽しみ
 Stage 4  人と人の縁が育む文化