特集:舞台への招待
Stage 3 物語の楽しみ 都市文化の演出サンケイホールブリーゼ
呼吸する乳白色のタワー
 サンケイホールブリーゼが入る超高層ビル「BREEZÉ TOWER(ブリーゼタワー)」は,JR大阪駅や地下鉄と地下道で直結する至便のアクセスだ。ホールのほかに,オフィス,ショッピング,カンファレンス施設で構成され,乳白色のスレンダーな外観が,西梅田の街並みに気品を与えている。
 建物の最大の特徴は,超高層ビルでありながら,フロアに外気が自由に取り込める自然換気と自然採光。ダブルスキンファサードによる外装構造の技術によって,自然エネルギーを活用する環境共生型のビルとなっている。デザインアーキテクトとして白羽の矢が立ったクリストフ・インゲンホーフェン氏は,環境先進国ドイツを代表する気鋭の建築家として,環境と人間に対する意識を高めた建築哲学で世界に知られている。
 英語の「BREEZÉ(そよ風)」の末尾を強調して「É」としたのは,エコロジーとエンターテインメントの新しい価値の創生をめざす姿勢の表れでもある。
  
透明なシークエンス
 ビルの外観に見られる硬質で柔らかな白色のデザインは,エントランスホールや劇場のホワイエでも基調となっている。
 7層のショッピングゾーンで囲まれるビル低層部のエントランスホールは,白や透明のガラスで包まれ,化粧品の容器のような清潔感と華やかさで満たされている。その上部にあたる劇場のホワイエは,シルバーメタルと白木で構成される吹き抜け空間で,優美な曲線を描く。
 こうした空間は,ホール内部の漆黒とのギャップを際立たせ,観劇という非日常性を強調する。ビルの外観,エントランスホール,ホワイエとつながる白く透明なシークエンスは,環境共生型ビルを爽やかにイメージさせる演出なのであり,大阪駅に降り立って「BREEZÉ TOWER」の佇まいを目にしたときから,舞台の幕は上がっているのである。
サンケイホールブリーゼのホワイエ(下2点)とブリーゼタワー全景。スレンダーなビルは街のなかで際立ち,低層部で円弧を描く白いホールがさらに異彩を放っている photo:Kawasumi Architectural Photograph Office
サンケイホールブリーゼのホワイエ photo:Nacasa & Partners サンケイホールブリーゼのホワイエ
自然との調和 軽井沢大賀ホール
池の畔のコンサートホール
 軽井沢大賀ホールはJR軽井沢駅にほど近い矢ヶ崎公園内にある。背後に浅間山と離山(はなれやま),目前には公園の池と芝生広場が広がっている。自然に調和し,地域に根差す文化拠点としてこれ以上の条件はないほど,静謐な環境に囲まれた美しいロケーションだ。
 建物の周辺には,芝生の庭が公園に連続するかのようなランドスケープが展開され,ホール内のカフェ,ホワイエとつながる散策路が池の畔に設けられるなど,公園と一体となった空間づくりが行われている。コンサートに訪れる人はもちろん,公園として日々くつろぎ,憩うための場所としてもホールはデザインされている。

平面の五角形をモチーフにしたトップライトから自然光が注ぐ photo:Sadamu Saito
公園の景色も眺めることができるホワイエ photo:Sadamu Saito光の注ぎ込むなかで
 ホール内部の照明デザインも舞台の演出の大事な要素である。五角形の音響反射板と一体となった舞台照明によって照度1,000ルクスを確保するとともに,演奏者や楽器が熱をもつのを抑える光源を採用した。客席照明はベース照明と立体的な天井面を照らし上げる照明やブラケット照明を併用。もちろん音響効果を妨げないようデザインされている。
 外の自然光はホールの平面の形である五角形をモチーフとしたトップライトからホールに差し込み,光に包まれる。一方,夜になればエントランスがライトアップされ,逆にホールの中の柔らかい照明が公園の池に映り込み,ホールは幻想的な光のデザインに満たされている。
 都市型ホールとは異なり,自然との調和の中で音楽をゆっくりと楽しめる,至福のひとときを過ごすための空間だ。
   
池に映り込む軽井沢大賀ホールの照明が幻想的な風景をつくり出す photo:Takeshi Taira

 Stage 1  舞台の楽しみ
 Stage 2  音響の楽しみ

 Stage 3  物語の楽しみ
 Stage 4  人と人の縁が育む文化