特集:鹿島イズムを受け継ぐ戸建免震

1 安全と安心を普及する技術力


精密機器を守る技術
 さきほどの戸建免震の実験にみられるように,当社のシステムではボールベアリングが大きな働きを担っている。通常のビル免震での積層ゴムを用いた装置とは様相が異なる。
 システムのベースとなったのは,金融機関のコンピュータセンター向けに当社が開発した「床免震システム」で,1987年に技術研究所が中心となって開発したものだ。積層ゴムは建物の重さを「面」で受け止めるため,ビルのように一定の重量がなければ免震効果を発揮しにくい。ボールという「点」で重さを受け止めることで摩擦係数を小さくし,軽いものでも免震効果を発揮できるシステムが開発されたのである。
 摩擦係数を小さくした結果,中小規模の地震にもすばやく反応する特徴が生まれた。実験・研究施設や美術館など,デリケートな地震対策が要求される建物のフロアにも採用されており,10年以上の実績を積んでいる。また,フロア全体を免震するのではなく,個々の精密機器や美術品を載せる「免震台」も開発されている。
 当社の戸建住宅免震システムは,地震エンジニアリングのなかでも,もっとも高精度の性能が要求される条件のもとで生まれたのである。


床免震システム公開実験の模様


多様な利点をもつシンプルな原理
 当社の戸建住宅免震システムは,ボールベアリングと受皿,そしてオイルダンパで構成されるシンプルな構造である。基本的にはメンテナンスフリーで,数々の試験と実績によって高い耐久性も確認されている。
 ボールベアリングは,受皿がすり鉢状になっているため,360゜全方向にムラなく動き,地震が収まると自重で自然に元の位置に戻る。また,小さな揺れにも敏感に反応するボールベアリングを採用したことで,震度3程度の小さな地震から震度7クラスの大地震まで安定した効果を発揮できる。このため,想定されるすべての地震に対応できる設計が実現した。
 一方,ボールベアリングと同時に稼動するオイルダンパは,台風などの強風に際して油圧ロック機構が働いて建物を固定し,風揺れを防止する。
 そして,基礎と鉄骨製の床梁の間に免震装置を設置するだけのシンプルな機構のため,ボールベアリング支承のサイズ・個数や設置位置を変えることで,荷重や柱の位置などが異なるさまざまな構造形式の住宅に対応できる。


美術品や精密機器の保護に用いられる免震台


安心感とリスクマネジメント
 当社は,戸建免震の開発・普及活動にあたって,建物や機械・装置に関する技術的な検討にとどまらず,地震リスクマネジメントも含めた総合的な視野をもって取り組んでいる。
 地震リスクを確実に評価するためには,地震の大きさだけでなく,発生率も含めて考える必要がある。震度7クラスの大地震に比べるとはるかに頻度の高い震度4〜5弱程度の地震では,戸建住宅が倒壊することはほとんどないものの,室内の家財が転倒し,損壊する危険性がある。地震リスクマネジメントは,地震の規模と発生率の関係から,そのときに発生する被害の大きさを定量的に算定する。つまり,大地震に限らず,高い確率で起こりうる中規模地震の被害の大きさを計ることができるのだ。
 戸建住宅免震システムは,地面と住宅を切り離すことで,発生率の高い中小規模の地震リスクからも生活を守ることができる。当社の戸建免震は,大地震発生時の恐怖だけでなく,日常生活における不安を解消することを目指して,地震リスクという観点から「日常の安心感」を立証していく姿勢で取り組んでいるのである。


鹿島の戸建住宅免震システムの特徴
●360゜全方向に免震効果を発揮
●地震収束後は完全に元の位置に復帰
●30ガル程度の中小地震から免震効果を発揮
●耐震要素を減らした自由な建築設計が可能
●木造・鉄骨・軽量コンクリートなど幅広い構造形式に対応

ボールベアリング-アップ

※写真は免震実験のためにカバーを外した状態


戸建住宅免震システムの原理


地震リスクと資産価値
 地震リスクの評価が,不動産価値に大きな影響を及ぼす時代になった。不動産の売買や証券化を行うために不可欠なデュー・デリジェンス(適正評価手続き)において,地震などの自然災害によって建物が受ける被害を予測して定量化した評価値が,不動産価値の格付けの際の重要なファクターとなっている。
 こうした地震リスクの評価・対策には,不動産の開発事業でも業界をリードしてきた当社の力が発揮されることになる。伝統的に培ってきた建物の地震エンジニアリングと,地震リスクマネジメントの2本柱をもとに,総合的なサービスを提供しているのだ。
 前者は,建物に関する総合コンサルタント「7つの診断」の一環でもあり,ホームページを通じた簡易診断も実施している。後者では,耐震補強や重要施設の分散といったリスク低減だけでなく,保険加入や証券化などのリスク転嫁などの,より高度なリスクマネジメント手法も視野に入っている。
 当社の地震リスクマネジメントは,建物のライフサイクルマネジメント/エンジニアリングの観点や,開発事業における事業計画力や資産マネジメントなど,多種多様な職能で構成される。顧客企業の資産価値向上のために,あるいは「都市再生」の舞台でも活かされる地震エンジニアリングのノウハウが,当社の戸建住宅免震システムを強力に支援しているのである。

HP
 当ホームページ上での「建物・不動産相談」。地震リスク(左)の基礎  知識はもちろん,建物の簡易耐震診断(右)を受けることができる




0 「壊れない家」から「揺れない家」へ
1 安全と安心を普及する技術力
2 「真の安心感」を広めるかたち
3 「地震エンジニアリングの鹿島」の伝統と継承