特集:鹿島イズムを受け継ぐ戸建免震

2 「真の安心感」を広めるかたち


R&D成果の商品化で身近になる技術
 当社はこれまで,「B to B(企業間取り引き)」を主体とした単品受注・建設方式で事業を展開してきた。そこで開発した多様な技術のなかには,一般消費者向けを含む建設事業全般,あるいは異分野の事業でも活用できる技術も多くみられる。そこで当社では,R&Dの成果を,さまざまな事業スタイルを通じて,さらに広く一般社会へ普及していくことに取り組んでおり,戸建免震はその申し子といえる。
 戸建住宅という一般消費者市場に参入することで,ひとりでも多くの人々に安全と安心を提供したい──当社の戸建免震システムは,R&D成果の商品化と販売を手掛けるグループ会社・テクノウェーブが中心となって普及活動を行っている。
 ここで不可欠なのは,エンドユーザーのニーズを熟知するハウスメーカーとの連携である。現在,複数のメーカーと提携しているが,今回は,三井ホームと積水ハウスに,当社の戸建免震システムへの思いを伺った。


顧客志向のコラボレーション
──複数のメーカーが戸建免震の技術を考案しているなかで,なぜ当社のシステムを選ばれたのでしょうか?


太田氏 太田  やはり床免震システムでの実績と技術性能が決め手です。三井ホームでも1987年から積層ゴムでの免震を研究していたものの,戸建住宅にみあう性能とコストの実現に悩んでいました。毎日使うシス テムキッチンとは違い,「万が一の備え」のために免震という性能を買っていただくのですから,信頼性が高くないとお薦めできませんよね。その点で,転がり支承という技術は非常に魅力的で,実際の性 能も申し分ありませんでした。それから,鹿島という名前を聞くと,超高層ビルと同じ技術というイメージで,お客様も安心感をお持ちになりますね。このブランドイメージも理由のひとつです。

小谷氏 小谷  採用の理由は大きく3つあります。まず,「効き目」が高いことです。発生率の高い震度4程度の地震にも免震効・が確実に得られる今回の装置は,積水ハウスの目標とするレベルにも一致し,強風時 の揺れ対策の点でもオイルダンパの性能で理想のスペックが実現されています。2番目に挙げられるのは,やはり鹿島建設の技術力への信頼ですね。免震は地盤の状態なども含めて考えるので,広範な地震 関連技術を蓄積してきた鹿島さんの実績に安心できますから。3番目は,装置の生みの親であり,テクノウェーブさんで担当となっている 箭野(やの)憲一さんの真摯で気さくな人柄を信用したからです。


F邸(神奈川県足柄上郡)

──お客様の反応はいかがでしょうか?


岡部氏 岡部  この装置を使った積水ハウス第1号のお客様は,複数のメーカーをご検討された結果,当社の住宅そのものを気に入ってくださり,さらに免震システムの性能を非常に正確に理解し,高く評価してく ださりました。いまも定期検診などでお邪魔するたびに感謝の言葉をいただいています。2棟目のお客様も機械に詳しい方で,他社の技術も勉強されていたのです。今回のシステムについて,「ビルトイン ガレージも可能で,中小規模の地震や風の揺れまで考慮しているなんて,すごい技術だ」と評価をいただきました。

太田  いまはお客様の方が地震の知識が詳しいこともあるほどで,地震リスクへの意識は確実に高まっています。先日引き渡しの済んだお客様は,その土地の断層の状況や大地震の危険度といった詳細な情 報をご存じでした。「いずれ来るのが分かっているのに,悶々と不安を抱えながら暮らしたくない」と言われて免震システムを採用してくださったのです。シンプルな装置は,お客様にとっても理解しやす いですよね。

──今後の課題と展望をお聞かせください。


小谷  課題は何といってもコストです。免震が,公庫や税制の優遇措置の対象となれば,経済的にも意識的にもお客様のご理解が得やすいのですが,現状の制度の対象は耐震技術にとどまっています。もっ とも,地域によって温度差があり,自治体が熱心な静岡県や神奈川県などではお客様の意識が高く,積水ハウスでも第1号は静岡県内でした。

岡部  第1号のときは,積水ハウスとして社会に提供できる完全な技術確証を得ていない段階で,そのことをお客様に正直に伝えたところ,半年間も待ってくださったのです。今後,高齢社会を迎えるにあ たって,地震から身を守ることの難しい高齢者が増えてきますので,お客様の免震への関心はより高まることでしょう。

S邸(静岡県静岡市)

小谷  積水ハウスではバリアフリーの研究を約20年前にいち早く開始し,「福祉住宅」への探求を地道につづけてきました。戸建免震は,福祉高齢社会の時代に適応するものであり,「人間愛」を社訓とす る当社の風土にも合致するものです。

太田  最近は鹿島さんとテクノウェーブさんのご協力もあって,目標の「国産車一台程度の価格」を実現しつつあります。高性能を前提として,手の届く価格を目指す意味では,これからが本当の意味でのスタートなのでしょう。
 三井ホームでは,お客様に対して,確約できないことは正直にお伝えします。想定できる範囲の地震に対応し,考えられる限りのあらゆる努力をしていますが,自然が相手では「100%の安心」といったこと は言えませんと──それが真の意味での「お客様のため」になりましょうし,長期的には当社のためにもなると信じています。ですから,技術に真摯な鹿島さんの姿勢にも共感を覚えます。それから,我々 ハウスメーカーからみると,鹿島さんの裾野の広い技術のなかには外部に出してほしい商品がまだまだありますよ。免震だけでなく,「真の安心感」という快適性を戸建住宅で一緒に追求していきたいですね。


多様なノウハウのシナジー
 ニーズを熟知し,ユーザーへの対応やメンテナンスに豊富な経験をもつハウスメーカー。免震において建物の技術とともに重要となる地盤の解析など,地震エンジニアリングの多様な実績をもつ鹿島。両者のノウハウを結集することで,真の安全性と快適性を実現した住まいが,エンドユーザーのもとに届けられるのである。
 戸建住宅の地震対策では,「壊れない」ための耐震構造の工夫が重ねられてきた。しかし,地震エネルギーを受け流す戸建免震技術の登場は,住宅の躯体自体の耐震性能が軽減され,平・計画の自由度をより高める可能性を生むことになる。それは,ライフスタイルの多様化に対応するとともに,住まいを リニューアルしながら使いつづける選択肢を増やすことにもなろう。「揺れない住宅」は,福祉高齢時代,「個」の時代において,さまざまな可能性を秘めているのである。




0 「壊れない家」から「揺れない家」へ
1 安全と安心を普及する技術力
2 「真の安心感」を広めるかたち
3 「地震エンジニアリングの鹿島」の伝統と継承