特集:高まる景気回復への期待

3 梅田社長に聞く
当社は9月30日に2004年度期央経営総合会議を開催したが,それに先立って梅田社長に,国内景気と建設業の現況,並びに当社の今後の取組みやビジョンを聞いた。

聞き手:本吉広報室長
国内景気の現状と今後をどのように見ていますか

 経済指標を見る限り,わが国の景気は回復基調が続いていると見ていい。輸出と設備投資は増加傾向にあり,個人消費も伸びてきた。雇用環境も改善されてきていると思います。
 しかし景気の先行きには一抹の不安が残ります。イラク情勢は依然混迷を深めているし,北オセチアで悲惨な事件が起きたロシアは内政問題を抱えている。中東和平もいまだ遠く,各地の紛争は世界経済に大きな影響を与えかねません。
 また11月の米国大統領選挙の結果も大きな関心事です。海外,特に米国経済の失速が,わが国の景気の減速につながる懸念もあります。
 一方,国内景気は良くなっているとはいえ,地域別・企業別には大きなバラツキがある。これを解消しない限り本格的な回復にはつながらないのではないか,そう見ています。
梅田社長
建設業の現況についてはいかがでしょうか

 中長期的に見て,国内の建設市場の縮小は不可避だと思います。今,堅調なのはデジタル家電,電子デバイスなどを中心とする民間設備投資ですが,公共投資の削減は今後も続くでしょうし,公共事業に依存している地方圏は大変厳しい状況にある。その一方で首都圏など大都市には大型プロジェクトが集中しています。当社の受注も5割以上が首都圏に集中しており,この地域格差が問題と考えています。
 しかし,高い技術力と信用力がある大手ゼネコンの受注シェアは向上しています。建設業は業者数が過剰で,今後も淘汰・再編はありうると思いますが,技術力・信用力を高める努力を続けている企業の優位性は変わらない。むしろ大手のビジネスチャンスは拡大しているといえます。
中期経営計画の達成状況について伺います

 建設事業での収益力強化,収益源の多様化,経営基盤の強化の3つを柱とする現行の中期経営計画は,皆さんの努力もあって順調に推移しています。単体の経常利益目標320億円は,1年前倒しで実現できる見通しとなりました。最大のターゲットである建設受注の質と量の確保,固定費と原価の削減が達成できたことが大きいと思います。工事の総利益率も改善傾向にあります。
 一方で,こうした縮小する建設市場にあって,収益源の多様化をめざした開発事業,エンジニアリング事業,PFI事業強化の効果が徐々に上がってきました。
 企業収益力を強化する一方で,バブル崩壊後の負の遺産処理や有利子負債の削減についても,年金基金の解散や減損対応で財務体質の健全化を進めてきました。その結果,後向きの処理は今年度で全て終了,再び成長を目指す基盤は整ったと見ています。
梅田社長
今後,経営資源をどのような分野に投入すべきだとお考えですか

 中核である建設事業の一層の収益強化を図ることに変わりはありません。そのためには先ず市場性豊かな首都圏での対応を強化する必要がある。人員などの経営資源を重点的に配置していくつもりです。同時に,開発事業,PFI事業,エンジニアリング事業,環境事業などの分野の拡充強化を図り,収益機会の多様化を進めます。
 それには高度な技術力,専門的なノウハウ,マネジメント力の強化がますます重要になると認識しています。
当社が進むべき道についてお示しください

 当社は長い伝統を持つ企業です。戦後の高度成長期には,産業・生産基盤を構築する牽引車として,そして国民が安全で安心して生活できる国土造りを通じて,わが国の経済発展に寄与してきました。21世紀を迎えて,少子高齢化,都市化の進展といった社会の変革,サービス産業や情報通信産業などへの産業構造の転換が進む時代にあっても,品質の高いサービスを顧客に提供したいという鹿島の伝統を継承しつつ,新しい経済社会に貢献する企業へと脱皮を図っていきたいと考えています。
 当社の長期的な将来像について私のコンセプトは,「社会・経済のニーズに対して,マーケット・インの姿勢から,ハード,ソフト両面の統合的なソリューションを顧客へ提供する企業グループ」でありたい,ということです。
 その一つの例は,今鹿島が中心となって推進している秋葉原ITセンター構想です。これは開発事業として土地を取得し,ビルを建築して民間に賃貸するビジネスモデルに加えて,ITを軸に秋葉原の再活性化を図ろうとする東京都の政策に協力し,大学や公的研究機関を誘致して,産学連携拠点の形成を図っているものなのです。
これはハードの技術,開発事業のソフトのノウハウに加え,コンテンツを創造するという新しいビジネスモデルであり,今後の当社のあり方を示唆するものであるということができます。

 また最近は生産施設のエンジニアリングの例として,製造プロセスまで含めたサービスを行っていく例も増加しています。そのためには顧客の事業に精通し,一体となって問題解決にあたる必要があります。
 こうした背景となっているのは,我々の顧客がコア・プロセスに資源を集中し,それ以外はアウトソーシングするという動きが出てきたためです。さらに従来は官製市場であったものが民間へ移行する動きも出つつあります。これからは財政の逼迫や規制改革,納税者の意識の変化などを背景とした,行政サービスのアウトソーシングや民間移転が進展して行くものと予想され,その具体例として昨今のPFI事業にその萌芽が見られるわけです。こうしたPFI事業を業態変革,意識変革の挺子としてとらえていかねばなりません。

 このようなハードとソフトの統合的なソリューションを顧客に提供する企業となるためには,その核となる建設事業に加えさらに二つの分野に力を入れて育てていきたいと思っています。
 その第一は開発事業です。当社の開発事業については,専業ディベロッパーに引けをとらないノウハウを持つ社員が育ってきていますが,リスク管理を徹底させ,当社の事業の柱に育てていきたいと思っています。当社は大手ゼネコンの中で唯一継続的に開発事業に取り組んできましたが,安全で快適な都市づくり,地域再生などは当社のミッションに相応しい事業であり,建設に関わる企画・設計・施工・建物管理など,私たちのコアのスキルを活かすことのできる事業だと考えています。
 第二は土木・建築の中核事業に加えて,エンジニアリング事業に注力したいと思っています。今後顧客のニーズは,施設と建屋を一体のものとして,求める機能が一層高度化してくるものと想定されます。また安全や環境問題など,社会的課題解決のための要請も一段と高まっており,我々は従来の知識や技術にこだわらず,新しい分野にも積極的に挑戦し,顧客のニーズを先取りしていきたいと思うのです。
梅田社長
そうした当社の将来像に向かって,社員へのメッセージをいただきたいのですが

 いままで述べました将来像を実現するためには,顧客の事業や関係分野に対する専門性や理解力が必要であり,そのためには社員個々の能力の深耕が極めて重要となってくるということです。
 組織面でも,業種別ノウハウの蓄積や水平展開などのためのインフラ整備を進めることが必要になります。さらには技術のイノベーションが求められます。
 その際,先ず社員の皆さんに求められる資質は「技術を使う技術」を素養として持つことであり,次いで数多くの技術のうちで,どのような技術をコアコンピタンスとして開発し,どのような技術を外部との連携によって共有するのかという戦略が重要になります。社員の皆さんには,社会の動きと顧客のニーズに対して感受性を高め,そしてマーケット・インの実行を図って欲しいと思います。
 当社の社会的存在意義を充分に意識しつつ,「ビジネス・モデルのイノベーション」と「業務プロセスのイノベーション」を通じて,付加価値の高いサービスを顧客へ提供し,それによって高収益を得る企業グループを目指す。それが私の期待する当社の将来像なのです。



1 回復するわが国の景況感
2 建設業の現況
3 梅田社長に聞く
4 地方からの視点