特集:高まる景気回復への期待

4 地方からの視点
インタビューの中で梅田社長は「公共事業に依存している地方圏の建設市場は非常に厳しい」と語った。
地方支店の景気に対する実感はどのようなものなのか。
活況を呈する首都圏,ヒト・モノ・カネが集中する首都圏とは異なる日本経済の別の表情がある。
九州支店と東北支店の2支店長が地域経済の現状と見通し,社員への期待等について語った。
九州支店平田支店長が語る
九州経済の現況
 最近の九州経済の動向は,デジタル関連企業の大型投資が相次ぎ,民間設備投資が増勢に転じるなど,緩やかながら景気回復の兆しが見受けられるようになってきました。
 その一方で,九州管内の地方自治体の財政は逼迫し,国の予算縮減の方針とも相まって,公共投資は全国平均を上回る大幅な削減が続き,公共事業に大きく依存する九州経済にとっては大きな打撃となっています。
工事が進む大分キヤノン工場の全景。デジタル関連投資の一服の後は,景気の失速も懸念されている
実感は「限定的景気回復」
 また,景気回復を示す各種指標では,多少の広がりは見せつつあるものの,依然デジタル関連分野での大企業による設備投資が牽引しているに過ぎず,地場産業や他産業への波及という点ではその力強さに欠け,九州経済全体が浮揚に向けた動きを見せているとはまだまだ考えにくい。比較的元気だと言われる福岡の街を歩いてみても,人が集まり賑わいをみせているのは都心の一部地域に限られる。つまり,現在の九州経済を一言で称するなら,“限定的景気回復”というのが実感です。
景気失速のおそれも
 このまま公共投資削減基調が続き,現在の景気を支える大型投資が一服すれば,代替需要が勃興しない限り九州経済は一気に失速するとの危惧を感じざるを得ません。
 九州支店としても,デジタル関連投資の恩恵を受け,短期的には受注面・利益面でもそれなりの結果を残せる見通しではありますが,半年先の受注案件が数える程しかない状況では,数年先には支店経営そのものが成り立つのかという不安が拭えません。
平田支店長
九州という枠を超えて
 こうした環境下では,新しい需要動向に対し社員一人一人が情報に対するアンテナを広げ,感度を高めることが求められる。首都圏で主流になりつつあるSPCや証券化といった新しい手法を用いた不動産投資はこれまで九州であまり例はありませんが,外資系企業を中心に九州の市場に注目する動きも見せ始めている。また,九州は東アジア経済圏の日本の玄関口に立地し,日本国内のみならず東アジア諸国の動向にも左右される地域でもあります。
 九州という狭い枠にとらわれず,日本全体やアジアを見据えた広い視野で物事をとらえ,新たな需要を掘り起こす,また,自らが需要を創出していくとの気概を持たなければ,この不透明な時代を乗り切っていけないと感じています。
東北支店赤沼支店長が語る
東北経済の現況
 今年度の東北地方の民間設備投資計画では,前年度比20%を超えるデータもあるが,この数字のような実感はまだまだ乏しい。機械などを中心にした設備投資が景気全体を押し上げるまでには至っておらず,今後,建設投資が拡大しないと景気回復にもつながらないと考えています。
 安全・安心のための社会資本整備やエネルギーの確保は着実に行っていくべきであり,国際競争力のある分野や医療福祉・教育研究などの分野は,今後の投資拡大も期待されるので,東北支店としては,視野を広げた営業活動を行い,受注につなげていきたい。
東北新幹線・八甲田トンネルの現場。公共工事の削減は続いているが,インフラ整備の必要性は高い
士気の高い支店運営を目指して
 現行の中期経営計画における東北支店の売上と利益を過去10年間の平均値と比較すると,売上は4割減,利益はそれを上回る大幅な減少となっています。
 こうした苦しい時期に,東北支店としては組織のあり方,仕事のやり方を見直し,適正規模で鹿島ブランドの品質と利益を最大限に生み出せる体制をつくり上げたい。東北地方には潜在的にはエネルギー関連などの大型プロジェクトが控えている。大きな夢を持ち,士気の高い支店運営を進めたいと考えています。
支店独自の経営基盤確立のための取組み
 我々の課題は,「総力を結集し,品質・利益を確保しながら,受注量をいかに伸ばすか」であり,信頼される組織・コスト競争力・総合的判断力が求められています。プロジェクトごとに,営業時・入札時・入手後・施工時・竣工引渡し時・引渡し後までの各ステップにおける取組みがバラバラに機能するのではなく,有機的な連携が図られ,スパイラルアップするように独自の活動を展開しています。
赤沼支店長
社員へのメッセージ
 また,東北支店では,組織横断的に結成した多数のワーキンググループが「気軽にまじめな議論の場」を設け,支店が抱える多くの問題点を解決してきた実績があります。視野を広げて問題を顕在化させ,「鹿島のあるべき姿,支店のあるべき姿」をグループ全員で議論し,結論を追及してきました。
 支店の社員全員が意識改革に取り組み,知恵と力を結集して苦しい時期を乗り切って欲しいのです。
知恵と技術力とノウハウの結集。 顧客にトータル・ソリューションを提供するために,総合力を発揮する時

 景気の現況に対する地方支店からの見方は厳しい。現在九州支店はデジタル関連投資の恩恵に浴しているが,平田支店長はそれを「限定的景気回復」と表現し,数年先には支店経営が成り立たなくなる可能性に不安を示す。その上で,九州という地域の枠組みを超えて,新たに需要を掘り起こす=創出することで不透明な時代から脱却するように,と社員へ語りかける。
 一方の東北支店の基盤は東北のインフラ整備の一翼を担うことで築かれてきた。しかし公共投資削減が進む今,即効性のある業績回復策は期待できない。民間投資の動きも鈍い。そうした中で赤沼支店長は東北支店が独自に進める経営基盤確立のための取組みについて語り,視野を広げよう,自ら進んでこの難局を乗り切ろう,と社員へメッセージを伝える。
 二人の支店長が語る社員へのメッセージに共通するのは,視野を広げて発想の転換を図り,従来の枠組みを超えて知恵を結集することである。
 一方で,梅田社長がインタビューの中で語ったように,当社がこれまでに培ってきた技術力とノウハウは極めて高い。中期経営計画の推進によって当社の技術力の優位性が本当の意味で試される時代になり,「攻めの経営」ができる環境が整った。知恵と技術力とノウハウを結びつけ,トータル・ソリューションを顧客に提供するために文字通りの総合力を発揮する時がやってきたのである。



1 回復するわが国の景況感
2 建設業の現況
3 梅田社長に聞く
4 地方からの視点