特集:生物多様性と鹿島の取組み
これまでの鹿島の取組み
当社が業界に先駆けて制定した「鹿島生態系保全行動指針」は下記の通りである。
また,生物多様性の保全に関する国内外のネットワークに参加して積極的な活動を展開しているほか,生態系に関する解析技術や設計・施工技術を融合させ,生態系の維持・修復のための工法や資材の開発に努めている。
鹿島生態系保全行動指針(2005年8月制定)
基本理念

 鹿島は,人々の暮らしと産業発展を支える良質な社会基盤の整備を目指し,「人間にとって真に快適な環境」の実現を社会的使命として建設事業に取り組んできた。
 21世紀を迎え,自然との共生に基づく持続可能な社会の形成が人類最大の課題となりつつある。日本でも,2002年に「新・生物多様性国家戦略」が策定され,生物多様性・生態系保全の重要性が広く社会共通の認識となっている。
 これらの状況をふまえ,鹿島は生態系保全をその社会的使命を実現していくための重要な課題と位置付け,以下の行動指針に基づき,生態系保全への戦略的な取組みを通して社会・顧客及び当社の持続的な発展を目指す。

行動指針

1.マネジメントシステム

鹿島は,生態系保全を環境マネジメントの重要な課題と位置付け,事業活動における生態系への配慮を推進する。

2.コンプライアンス
鹿島は,生態系保全に関する法令を順守するとともに,関連政策や社会的要請を把握し,その知見を事業活動に反映させるよう努める。

3.教育
鹿島は,生態系保全活動のために必要な基礎知識,法令,対応技術,対応事例等の情報を,社内教育等を通じて普及展開し,生態系の価値に対する社員の認識を高める。

4.建設事業における取組み
鹿島は,生態系に関する情報,技術を活用した顧客への提案や工事における環境配慮,ならびに顧客と地域・社会とのコミュニケーションを支援することで,建設事業を通じて良好な生態系の保全・創出を目指す。

5.研究開発
鹿島は,生態系に関する情報や技術的知見の集積を行い,関連する研究・技術開発を積極的に推進する。

6.社会貢献
鹿島は,生態系保全のために市民活動や社員ボランティア活動の支援,学協会への協力等に積極的に取り組む。
生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)
「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」リーダーシップ宣言に署名

 
当社は,2008年5月にドイツで開催されたCOP9の閣僚級会議で,企業が生物多様性の保全に取り組むことを目標にした「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」のリーダーシップ宣言に署名した。毎年4万種の生物が絶滅し,環境破壊が加速していることを踏まえ,環境に配慮した先駆的な行動をとる企業を評価し,世界全体への波及を促すのがねらい。
 署名したのは,日本企業9社を含むドイツ,ブラジル,スイス,アメリカなどの34社。建設業では当社が唯一の署名企業となった。署名企業は,自社活動が生物多様性に与える影響を分析し,環境マネジメントシステムに生物多様性の保全を組み込む指標を作成する――などの活動に取り組む。次回COP10は2010年10月,名古屋市で開催される。
生物多様性条約
生物多様性条約 生物の多様性を保全し,生物資源の持続的な利用を進める国際的枠組み。開発や温暖化による環境悪化で,種の絶滅が進む状況を背景に,1992年の地球サミットで採択され,93年に発効した。地球上の多様な生き物と生息域の保護,生物資源の持続的利用,遺伝資源の利用から得られる利益の公平な分配などを目的とする。日本など190カ国が締約。2年に1度締約国会議を開く。
企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)にも参加
 国内でも,生物多様性の保全を目指して行動する企業のネットワーク「企業と生物多様性イニシアティブ」(JBIB)が2008年4月に発足。当社も設立メンバーとして参加した。参加企業は当社のほか,三井住友海上火災保険,リコー,INAX,大和証券グループ本社,帝人,積水ハウス,富士ゼロックスなど企業17社(2008年5月末現在)で構成されている。
 JBIBは,国際的な視点から生物多様性の保全に関する共同研究を実施し,その成果を元に他の企業やステークホルダーとの対話を図ることで,生物多様性の保全に貢献する活動を進める。
JBIB
社内教育資料「鹿島の生物多様性・生態系保全入門」を作成
 建設工事に携わる社員が,生物多様性や生態系について考えるきっかけとなるよう,全社環境委員会生物多様性部会が教育資料を作成した。調整池のビオトープ化を事例に,生物多様性に配慮した整備などを紹介している。ダム,トンネル,造成など主に土木系工事の研修で活用する。
社内教育資料「鹿島の生物多様性・生態系保全入門」を作成
エコロジカルネットワーク評価技術
 都市開発の分野でも生態系配慮に関心が集まり,質の高い緑地創造が求められている。当社が開発した「エコロジカルネットワーク評価技術」は,キツツキ科の野鳥であるコゲラを指標として地域内の緑地を評価,各種計画・設計に活用できる。
 コゲラは日本全土の多様な森林に生息し樹洞を作ることから,都市緑地の成熟度を示す指標種と認識されている。広域を短期間で把握できるリモートセンシング技術や地理情報システム技術を用いて,コゲラの生息可能性評価モデルを開発。現地モニタリングにより精度向上を図った。この技術によって,環境に配慮した建物の配置検討や街路樹の選定,人工地盤緑化による地域生態系への寄与度把握が可能となった。
コゲラの利用エリアを示したシナリオ
出前講座
当社は全国の学校や市民講座で環境保全に関する出前講座を行っている。
多様な生物の生態や生物への人間活動の影響を,当社の第一線で活躍する技術者が,実際の生物観察や簡単な実験などで分かりやすく説明する総合学習だ。
活動の一例を紹介する。
カニが棲める護岸
 当社JVが設計・施工した東京・芝浦アイランドの運河の一部に,カニ護岸と潮溜まりが設けられた。護岸工事中は運河に生息するクロベンケイガニを守るために,地域の小学生らの協力でカニを一時保護し,完成後に“放流式”を行った。再現された潮溜まりでは,当社環境本部の柵瀬信夫担当部長の指導で地元小学校の課外授業が行われた。
 当社が開発したカニ護岸パネルは,コンクリートの表面をカニが歩行しやすい粗面にし,貫通穴を講じたパネル裏には石土砂を充填,カニの好む湿度と冬眠場所を設けた。またこの護岸パネルと潮溜まりを人工的に組み合わせることで,多様な小動物が棲み付く水辺再生が可能になる。
アマモ場の再生
 神奈川・葉山町立一色小学校で,当社技術研究所の山木克則主任研究員らが4年生に海草のアマモの授業を行った。児童は地元葉山のアマモ場から採取したアマモの花穂から3mmほどの種をピンセットで拾い上げ,アマモの葉についている様々な生物も見つけることでアマモの役割を勉強した。
 東京・青梅市立第五小学校でもアマモをテーマに山木主任研究員が講義した。同校は海から離れているが,学校近くの山も海とつながっていること,森を大事にすれば海もきれいになることなどを学習した。
 内湾域の穏やかな浅瀬にあるアマモ場は,魚の産卵場所や稚魚の生育場になっている。しかし開発や水質汚染で多くが消滅,漁業資源にも影響が出るようになった。当社は北里大学と共同でアマモ種苗生産技術を開発し,葉山町で採取した種子から得たアマモ苗を移植する実証実験にも成功した。現在,水産庁の「環境・生態系保全活動支援調査・実証委託事業」として推進中。
都市緑化
 東京・板橋区立板橋第七小学校では,当社技術研究所の高山晴夫上席研究員が講師を務め,同校ベランダでキュウリやヘチマなどの「緑のカーテン」を育てている6年生に授業を行った。緑化の効果や「快適」と感じるには温度や湿度以外の要素も影響することなどを学習した。
 ヒートアイランド現象の緩和などを目的に,当社は屋上や壁面緑化技術の開発に取り組んでいる。安全で容易に管理できる壁面緑化システム,屋上緑化用の軽量培養土,緑地の環境機能評価システムなど,多彩な環境技術を実用化している。

 これまでの鹿島の取組み
 地域の生態系保全に貢献する

 社有林を守り育てる取組み
 都市部の自然を活かす取組み