特集:生物多様性と鹿島の取組み
社有林を守り育てる取組み 自社の森林で維持管理を続ける
当社は北海道から九州までの11ヵ所に,約1,000haの社有林を保有している。
企業が自社林を維持管理する例はそう多くはないが,当社は鹿島守之助社長(当時)が「太平洋戦争で荒れ果てた森林を再建することこそ,国家再興の基礎である」との信念のもとに森林を所有。
植林を実施したのが始まりである。
その後,半世紀以上にわたり守ってきた社有林をさらに豊かにするために,地道な維持管理活動を続けている。
【かたばみ興業】
当社関係会社のかたばみ興業は,山林管理業務をはじめ,緑化造園,保険業務まで多角的に経営を進めている。創立要因となった山林管理においては,当社の社有林をはじめ,全国約70ヵ所,約6,000haの山林を受託管理している。その面積は,山手線内に相当する。
日影山地図
陽がさす森
管理によって豊かになる自然
 社有林のひとつ,福島県猪苗代町にある猪苗代社有林を,当社関係会社「かたばみ興業」事業本部の高野充部長と緑化造園部の馬場崇課長代理と一緒に訪れた。猪苗代湖の北東約12kmの日影山,母成の山林は112haあり,社有林の中でも屈指の広さを誇る。「天然林・人工林・原野それぞれの特性を活かす管理がなされています」。高野さんの話を聞きながら,山中に分け入った。
 夏の強い日差しを受けながらのトレッキングも,爽やかな空気に救われる。深い山中のイメージから鬱蒼とした森林を想像していたが,林道の周辺はきれいに間引きされ,林の中は意外に明るい。「山林管理の第一は,間伐や下刈作業で不良樹木や余分な下草を調整し,適正な樹木量の中で幼少期樹木の育成を促進することです」と,馬場さんが説明してくれる。林床に日光が差し込むことで,草木樹の共生が図られ,豊かな森林が形成されるという。
 ブナの林に日の光が差し込み,小川の岸辺には薬用ニンジンやきのこが成育していた。飛び交うトンボの種類も豊かで,草木樹と昆虫の共生場所になっているのが分かる。カラマツとクリの混交林までの道には,野イチゴやエゾアジサイが観察できた。「植生の育成状況のモニタリングも重要な管理業務のひとつです」と馬場さん。こうして適正な森林の姿を追求しているのだ。
日影山全景
豊かな緑がおいしい水を育む
 やがて,中ノ沢ポンプ場に着いた。湧水をポンプで汲み上げて,1kmほど離れた猪苗代町の中ノ沢温泉に無償で提供している。同町の中心部は上水道が完備しているが,周辺地域では湧水による簡易水道で生活しているという。豊かな山林は自然の循環機能によって,ミネラル分を含んだおいしい水を作り出してくれる。躍動感溢れる水の鼓動を目の当たりにして,改めて万物の生命を育む豊かな森林の役割を知った。
 下山後に立ち寄った猪苗代町役場で,上下水道課の熊谷喜一課長と神義明主任主査に話を聞いた。「これからも地元の財産である森林管理を続けて,安全でおいしい水を供給したいですね」。都会ではペットボトル入りの高原や森林の湧水を買って飲むことが普通の風景になったが,こうした水も自然の恵みと管理する人たちの努力で維持されている。
つる切りの様子 中の沢ポンプ場
社有林のこれから
 1933年から「かたばみ興業」の管理のもと,全国各地で守ってきた当社の社有林。定期的に高齢林の収穫伐採を行うほか,緑の再生事業にも取り組んでいる。国内の山林荒廃が指摘されるなか,これからも,持続可能な森林経営を目指して景観維持や生物多様性を考慮した森林施業を連綿と続けていく方針だという。
 「山づくりは時間と努力が大切です。先人の先見性を心に,これからもしっかりと社有林の維持管理を続けます」「将来を見通した山林保護による国土保全に努め,生物多様性に寄与したい」。高野さんと馬場さんはそう話してくれた。日本人の原風景ともいうべき里山もまた,洪水や渇水から田畑を守るために,長い歴史の中で連綿と山に木を植え,手入れをして育ててきた。それによって持続可能なサイクルが保たれる。
 多くの生命を支え,育む森。エコロジーの宝庫であり,二酸化炭素を吸収・固定して温暖化防止にも貢献してくれる。それを実感した快い汗の一日だった。

猪苗代社有林で見つけた生き物

さまざまな取組み
ハワイフアラライ・リゾート
 当社が開発を手掛けた米国ハワイのフアラライ・リゾートで利用するため,敷地内の池で魚やエビ,カキなどを養殖している。植物でできた浮島と微生物,小石の自然フィルターを用いて,汚染物や余分な栄養素を除去するため,水質維持用の消費電力は通常の25分の1で済むという。2005年米国環境保護局長賞を受けた。
ハワイフアラライ・リゾート
 
鹿島KIビル
 大規模建築物の緑化を義務付ける自治体も増えているが,屋上緑化の先駆けとなったのが1989年竣工の鹿島KIビル(東京都港区)。低層棟(5階)の屋上にルーフガーデンを設け,オフィス環境のモデルを示した。フジなどの低木やハギ,ススキ,リンドウなどの草花を植え,小さな水辺も設けられた。20年近くが経過した今では,トンボやハチなども飛来。水生動物なども棲みついて,成熟した都市部のビオトープを形成している。
鹿島KIビル
 
羽田空港D滑走路
 東京国際空港(羽田空港)の沖合海域に4本目の滑走路(D滑走路)を新設している。当社JVは環境に配慮して埋立構造と桟橋構造を組み合わせたハイブリッド構造を採用した。D滑走路の一部が多摩川河口域にかかるため,桟橋構造で河川水の流れをせき止めないようにする一方,埋立部は護岸を傾斜させることで多様な生物が生息できるようにした。環境への影響を把握するためモニタリングを行っている。
羽田空港D滑走路

 これまでの鹿島の取組み
 地域の生態系保全に貢献する

 社有林を守り育てる取組み
 都市部の自然を活かす取組み