特集:生物多様性と鹿島の取組み
地域の生態系保全に貢献する サンデンフォレストの6年
JR前橋駅から車で約30分。
サンデン赤城事業所のサンデンフォレストに着いた。
赤城山麓の64haの深い緑に覆われた敷地に,太陽光発電パネルを備えた物流加工センターと2棟の工場建屋があり,それを囲むようにサンデンフォレストが広がっている。
国内では民間で最大級のビオトープ(野生生物の生息域)である。
サンデンフォレスト地図
野生生物 野生生物 野生生物
敷地全景
環境共生の企業経営を目指す
 サンデンフォレストは,「自然環境や地域の人と共存し発展する,そんな環境共生の企業経営を目指したい」という牛久保雅美会長 (当時社長)の提案で,2002年に誕生した。人と自然に優しい創造性豊かな生産拠点「森の中の工場」がコンセプトになった。
 サンデンフォレストの造成に当たっては,自然保護活動家で作家のC.W.ニコル氏や里山の復元など近自然工法の研究者である福留脩文氏をアドバイザーに迎え,ゼロエミッションやビオトープ化などによる環境対応を検討した。施工を担当した当社も,敷地計画の段階から環境調査の実施や敷地全体の自然環境配慮設計などを提案。周囲の自然環境の復元と環境創造を行った。
 こうして,稀少植物など生態系の保持,既存林の保全,散策道の整備,現地の自然石を組んだ水路や2ヵ所の調整池などからなる大規模なビオトープが完成した。

経年優化を遂げる森
 それから6年余。サンデンの関連会社サンデンファシリティが森の管理と活用を委託されているが,施工当時に現場所長をしていた山下英治さんに案内されて周回したサンデンフォレストは,みごとな経年優化を遂げていた。
 「石組みの調整池の堤体は,ほとんどが蔦や草木などで覆われました」といいながら,山下さんは完成当時の写真を見せてくれる。水路や調整池はアサザなどの水草で覆われ,池の中ではメダカやツチガエル,サワガニなどの水生動物が活発に動きまわっていた。既存のアカマツ,コナラなどの樹林は良好な状態を維持し,造成後に移植したオオバギボウシやオクモミジハグマほか多くの山野草が一段と勢力範囲を拡大しているのが分かった。
 草地にはオニヤンマが悠然と飛び交い,林内ではアオスジアゲハなどの蝶類が舞い,シジュウカラなどの鳥たちが小さな昆虫を追っている。間伐材を利用した木道や破砕チップの全周6kmの散策道の感触は柔らかく,足に心地よかった。
ビオトープの経年優化(東ビオト−プ)
ビオトープの経年優化(東ビオト−プ):2002 ビオトープの経年優化(東ビオト−プ):2008
モニタリング調査で効果実証
モニタリング調査で効果実証 サンデンフォレストは,当社が2年に1度モニタリング調査を行っている。訪れた日は4回目の調査の当日だった。委託されたプレック研究所の小俣信一郎さんら3人が森林を回って,観察できた植物,小動物や昆虫の種類をチェックしていく。この日は国蝶のオオムラサキやカブトムシが確認された。これまでの調査でもカワセミやマガモ,キンクロハジロなどのカモ類,ショウジョウトンボなどが確認されたという。
 保全林内や調整池ビオトープでの豊かな自然の形成や,保護・移植されたキンランやエビネなど貴重種の存続,林床植生の発達や菌類の出現といった林内環境の回復なども確認され,地域の生態系保全,環境創造が着実に効果を上げていることを実証した。
守り育てる努力が多様な生態系育む
 こうしたモニタリング結果などから,サンデンファシリティは更に豊かな生態系・生物多様性を目指して,下刈りなどの作業を進めている。ある程度の人の手による管理は必要なのだ。同社の石倉利雪社長によると,今年はホタルが舞い,6月にはキンランやギンランが多く咲いたという。「年々確認される動植物の種類と個体数は増加していますよ」。
 計画段階から10年近く関わってきた山下さんも,「私たちは造ることを生業としていますが,サンデンさんのこの森の成長から,造った後の維持管理の大切さを知りました。これからは『造る』というハード面とともに『守り育てる』というソフトの面でも,もっとお役に立てるよう努力していきたい」と話す。
 サンデンで赤城事業所の計画立ち上げから関わってきた堀越洋志顧問からは,「現在のサンデンフォレストの姿は,土木・建築・環境など鹿島の総合力があってこそのもの」と,嬉しい言葉をいただいた。
 サンデンには,ECOS事業部というユニークな部署がある。事業所内の自然環境の保全を専門に調整する任務を負う。ニコル氏の命名だという。

(*)ECOS= Environmental Coordination Operation Staff
サンデンフォレストで見つけた生き物
サンデンフォレスト
地域の人との共存
 一方で、この豊かな自然環境資源を地域やボランティア団体の活動,環境学習に活用して欲しいとの牛久保会長の願いから,自然体験活動など環境教育への取組みも盛んだ。ここを訪れる人は年間3万人を超えるという。また7年前から群馬県の教員研修の一環として,年間1人の教員をサンデンに受け入れて,環境教育プログラムの作成や実施に携わっている。
 サンデンは今年創立65周年を迎えた。店舗機器,自動車機器や住環境システム事業などを展開する同社は,早くから商品開発や事業展開にも環境に軸足を置き,低炭素社会への取組みに積極的な企業として知られる。同社の実践とビオトープの深化を目の当たりにして,改めて「グローバル力と品質力を軸に,環境をコアとして成長する」という鈴木一行社長の経営方針と企業理念が,着々と実現していることを実感した。

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