特集:ワークプレイス――デザイン&エンジニアリング
Phase 1 「建築・設備・構造」三位一体でデザインした「デジタル・コンテンツ・ファクトリー」 フジテレビ湾岸スタジオ
我が国のメディアをリードする総合スタジオ
 フジテレビ開局50周年記念事業の一環として東京都江東区青海に誕生した「フジテレビ湾岸スタジオ」。8つの大型スタジオと最新のデジタル技術を駆使した放送設備で,ドラマ・バラエティ番組から,映画,モバイルコンテンツなど多様化するメディアに対応する。
  ここでは,企画・収録・編集・仕上げまでの一貫制作が可能だ。これまで社外に分散していた制作スタッフ,スタジオ,編集室などを本施設に集約することで,制作効率や収益性を高めると同時に,コンテンツの創造性を広げ,高品質な映像制作を実現した。
  さらに,総合情報産業のリーディングカンパニーとして,日本初の映像データのオンライン化に着手。スタジオで撮った映像はリアルタイムに巨大サーバーへと蓄積され,各種編集作業をサーバー上でシステマチックに行っていく。ここは映像を生産する「デジタル・コンテンツ・ファクトリー」なのだ。

フジテレビ湾岸スタジオ
場所:東京都江東区
発注者:フジテレビジョン
設計・監理:当社建築設計本部
規模:SRC造 B1,7F,PH3F 延べ 71,061m2
2007年3月竣工(東京建築支店施工)

 レストラン内のアトリウム空間「エアーチューブ」
外観
エントランスロビー
大型スタジオ
副調整室
Column 第50回BCS賞・本賞を受賞

 建築業協会(BCS)主催のBCS賞。わが国の良好な建築資産の創出を図り,文化の進展と地球環境保全に寄与することを目的に,毎年国内の優秀な建築作品を表彰している。
  本年度のBCS賞・本賞に「フジテレビ湾岸スタジオ」が選ばれた。都市形成や地球環境づくりに理解を示す建築主,設計者の豊かな創造力,高い技術の施工者の総合力が評価される名誉ある賞の受賞となった。

WORKPLACE――DESIGN & ENGINEERING
「デジタル・コンテンツ・ファクトリー」の実現「デジタル・コンテンツ・ファクトリー」の実現
スタジオを映像生産の工場と捉えたこの施設では,多様なコンテンツ制作にフレキシブルに対応できる機能性を重視した設計が求められた。バラエティとドラマという対照的な番組づくり,「制作・技術・美術・出演者」の共存といった複雑な要素を明快に整理し,統合することで,「デジタル・コンテンツ・ファクトリー」は創り上げられた。
「デジタル・コンテンツ・ファクトリー」を実現した様々なエンジニアリング
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バラエティ/ドラマ――スタジオの複層化
  バラエティとドラマの制作を目的に計画された当スタジオ。計2,000坪におよぶ8つの大規模スタジオは,バラエティスタジオとドラマスタジオ(各4)を完全に分離し,2層に積み重ねるコンプレックス(積層複合化施設)とした。
  スタッフの出入りや大型セットの搬入出が激しいバラエティ番組のスタジオを1階に,出演者と制作者が緊密な関係で番組づくりをするドラマスタジオを上層階に配置している。

「制作・技術・美術・出演者」の効率的・合理的活動空間
  フロアのレイアウトは,動線の効率化,円滑な制作コミュニケーション,各種サポート施設の合理的関連性を主眼に設計した。
  建物の中心にスタジオを配置し,これを美術倉庫とオフィスやタレント控室が取り囲み,内側から制作・技術,そして出演者がアプローチする「カプセル(内包)型」のレイアウトとした。
  長時間にわたる撮影が多いドラマ制作を考慮し,ドラマ系フロアにはスタジオ・副調整室・タレント控室を同一階に配置。スタッフ動線の効率性を考慮した。一方,番組セットの入れ替え率の高いバラエティ系は,付帯設備の充実を図り,副調整室・タレント控室は複層化とした。
  建物3面を使用した大型美術倉庫は,番組単位でのセット管理や種類別の資材管理が行え,安全性と機能性が向上。道路から資機材を直接搬入でき,6t積載可能なエレベータ2基の設置で,大型セットを直接スタジオへ搬入することも可能だ。これもスタジオと倉庫が隣接するカプセル型プランの利点なのである。

バラエティ/ドラマ――スタジオの複層化
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人にやさしい環境デザイン
 
24時間快適なアトリウム型レストラン
  長時間にわたる撮影や個室にこもっての編集作業など,24時間制作活動を繰り広げるワーカーたちの心の拠りどころとなる空間も必要だ。ドラマ系とバラエティ系のスタジオ統合に相応しい,相互の交流が発生する刺激的な出会いを創出する場も欲しい。そのために,中間層(4階)にアトリウム型レストランを配置した。
  そして,高さ18mの吹抜け,全面ガラス張りの開放感溢れるレストランの一部には,自然の風を肌で感じ,心身ともにリフレッシュできる外部的空間「エアーチューブ」を配置した。この天井部を開放した円筒型のテラスは,対面する「エアールーバー」と一体的に制御され,レストラン全体の空気循環を誘発する省エネルギー自然換気システムとしての役割も果す。
  贅沢なパノラマと自然の空気に包まれたワーカーたちの安らぎ空間ができ上がった。
レストランの自然換気システム[エアーチューブ&エアールーパー]
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「エアーチューブ」見上げ。天井部に開いた穴から自然換気を行う
レストラン。左奥に見えるのが「エアーチューブ」

ダブルスキンの新たな可能性
  シンボリックな意匠効果をもたらしたプリーツ状のカーテンウォールは,「ダブルスキン」とよばれる二重構造のガラス外壁。従来,主に省エネなど環境配慮設計の技術として適用されてきた。
  本施設では,アウタースキンで強風を遮るとともにインナーサッシュ(Low-eガラス)の自由な開閉を可能にし,控室の換気など,利用者が自由に居室環境を設定することができる。中間空気層(キャビティ)に設けた外部ブラインドは,西日負荷軽減,外部からの視線を遮蔽するプライバシー保護の役割を果す。

ダブルスキンのカーテンウォール
タレント控室の窓は自由に開閉できる
ダブルスキン外装システム

効率性の高い空調システム
 天井高さ15.6m,グリッド天井高さ12.5m(バラエティ系)を誇る大空間スタジオをいかに効率よく空調するか。
  浴槽へ端からゆっくりと水を補給すると急激に混ざり合わないという現象を利用したのが「大空間温度成層形成空調システム」。人々が活動を繰り広げる下層部のみを快適温度に保ち,空調効率を向上,省エネルギーを実現した。

高さ12mを超える大型スタジオ
「大空間温度成層形成空調システム」の温度分布シミュレーション
いかに複眼的設計プロセスを構築するか 
建築設計本部 建築設計統括グループ 澤田英行グループリーダー

澤田英行グループリーダー 「デジタルコンテンツ収録のためのスタジオ」を「使う側の立場」から徹底検証して作り上げることが第一に求められました。これを具体化するには,様々な情報を立体的・包括的に捉えなければなりません。お客様と一体化した複眼的設計プロセスの構築が必要でした。
  大規模スタジオの積層複合化に始まり,諸機能の空間化とそれを支える技術システム,全体の動線計画とセキュリティ。あらゆる局面でフジテレビ様の建設委員会と併走しながら作り上げていきました。設計者としては,お客様とのやりとりの中で結晶化した「わかりやすさ」「やさしさ」「先進性とオリジナリティ」などのキーワードをミクロ・マクロに視点を変えながら,沢山の人が関わるプロジェクトの旗印とするべくデザインワークに取り組みました。異なる目を持った多くの人が関わるやり取りには,情報の可視化が不可欠であり,CGなどのデジタルツールをフル活用しています。
  情報を可視化し広く伝達するプロであるフジテレビ様との併走で学んだのは,複雑に変化する情報を常にリアルに複眼的に捉え,視覚化し,分かりやすく伝達することでした。
  デザインや技術が独り歩きすることなく,目的のために柔軟に関わりあう構想が,日常的に誘発されるフィールドーー。鹿島ならではの「ものづくりの現場」を意識したプロジェクトでした。

 Phase 1 「建築・設備・構造」三位一体でデザインした「デジタル・コンテンツ・ファクトリー」
 Phase 2 創造力を誘発するワークプレイス
 Phase 3 人とマシンが協働するワークプレイス
 Phase 4 次世代ワークプレイス