特集:ワークプレイス――デザイン&エンジニアリング
Phase 3 人とマシンが協働するワークプレイス 北日本新聞 創造の森 越中座
地域に密着した地方新聞社の生産拠点
 発行部数約25万部,富山県内の普及率67%を誇る北日本新聞社。創造の森 越中座は,「環境と情報技術の共生をめざす,緑のITパーク」をコンセプトに2006年7月,富山市中心部の本社から南へ約6km離れた同市の田園地帯に誕生した。新聞印刷工場と新聞博物館を核に,地域開放型の諸施設を有する北日本新聞社の情報発信拠点である。
  この印刷工場には,1時間に18万部の印刷が可能な高速輪転機2セットとITを駆使した最新鋭の印刷機器を導入。生産性向上とともに,魅力ある紙面づくりによる競争力強化が図られた。
ネイチャーガーデンからの外観
オペレーションエリアを見下ろす。右のマシンは輪転機
1階エントランスと見学窓(右)

北日本新聞 創造の森 越中座
場所:富山県富山市
発注者:北日本新聞社
設計:当社建築設計本部
規模:SRC(柱)・S(梁)造 4F 延べ 9,140m2
2006年6月竣工(北陸支店JV施工)

施設配置図
WORKPLACE――DESIGN & ENGINEERING
人とマシンの快適環境の創出
高速輪転機をはじめとする最新鋭マシンは,高性能だからこその細心の管理と丁寧なメンテナンスが要求される。それを行うのはすべて“人”――。
この最先端の新聞印刷工場には,人の知恵とマシンのポテンシャルとの相乗効果を生み出すワークプレイスの創出が求められた。
東西方向断面図
南北方向断面図

ONE WAYの生産フロー
 印刷設備のポテンシャルを生かし,生産能力の向上を図るには,<製版(紙面を記した印刷版)>→<輪転・印刷>→<梱包>→<発送>という一連の生産プロセスを分析し,機械の特性を考慮した合理的な建築・設備計画が欠かせない。そのために,3層吹抜けの大空間を有効に活かし,一筆書きのような一方向のシンプルな生産フローがデザインされた。
  また,印刷時の紙の破損防止には,温度22℃±2℃,湿度50%±5%という高レベルの環境設定が求められる。空調機室を生産ゾーンに隣接して配置し,空調のメインダクトを生産プロセスに沿って立体的に無駄なく展開するよう計画して,その条件を満たした。
  輪転機は稼動時に膨大な電力を必要とするが,省エネ対応として,輪転機の稼動状況に応じた運転を可能にした空調システムを構築した。通常時は紙質を維持する低負荷空調モードとし,印刷時には高発熱に対応する運転モードに切り替えることができる。

製版
輪転・印刷 梱包 発送

人がマシンをコントロールする環境工程管理室
 自動化された生産プロセスだが,機械にはトラブルが避けられない。1秒を争う印刷現場でトラブル発生の早期発見と迅速な対応が図れるよう,生産エリアの全域が見渡せる位置にガラス張りの工程管理室を設置した。
  さらに,輪転機の目視による作動チェックと日常のメンテナンスのために,2セットの輪転機の間にオペレーションエリアを配置。片方の輪転機を反転した設計とし,オペレーションに必要な部分を中心部に合わせることにより,効率的な管理・運用を可能にした。

明確な動線でセキュリティを確保
 工場見学施設と新聞博物館からなる「メディアプラザ」を併設することから,セキュリティ面からの設計も考慮された。1階エントランスから見学専用エレベータで3階の「メディアプラザ」へ直結する明確な動線でセキュリティを確保している。

見学者専用エスカレータ
3階メディアプラザへの直通エスカレータ

ワーカーを労わる快適環境
 オペレーションエリア・工程管理室がある2階フロアに,印刷局(オフィス)・仮眠室・食堂・浴室などからなる管理厚生ゾーンを配置した。生産エリアに寄り添うかたちでのゾーニングは,ワーカーたちのストレス軽減と,人の動きがスムーズに流れる動線効果を狙ったものだ。
  ガラス張りのルーフテラスは,立山連峰の眺望やビオトープを楽しむことができる。印刷現場を離れて外の気配や時間の変化を感じることで気分転換を図り,新たな労働意欲を掻き立てる環境創りを目指した。
  また,見学者用に1階の生産エリアに設置した巨大な見学窓は,閉ざされていた現場に開放感をもたらし,ワーカーたちの疲れを癒す効果にも繋がった。

ルーフテラスからの眺め
ビオトープ 印刷局
働く人にやさしい環境創出 
建築設計本部 建築設計統括グループ 米田浩二グループリーダー

米田浩二グループリーダー 当プロジェクトは,5社による企画提案コンペで入手しました。読者との文化的・精神的繋がりという地方紙のニーズを意識した設計でした。北日本新聞社様の新聞制作に対する思い,越中座立上げへの熱意,地元に対する愛情などが私の心に響き,コンペ提案よりさらに良いかたちでの設計にまとまったと思っています。
  機械配置の工夫などで機能性・効率性を目指しましたが,常に緊張感をもって働いている人々のほっとできる瞬間,オン・オフの切替えのできるやさしい環境作りという点も大切にしたかった。印刷工場の中から見学窓を通して,外の豊かな緑が見えるという細工もその思いのひとつです。設計・施工段階でのチームワークは完璧で,当社の総合力を改めて感じました。
  これまでの数社の新聞印刷工場の実績を活かしたプロジェクトです。竣工後も,お客様に愛され,大切に使用して頂き,多くの見学者にも楽しんで頂いています。日本建築学会作品選奨をはじめ数多くの賞も頂き,感慨深い作品となりました。この経験を,これからの仕事に生かしていきたいと思います。

Column 創造の森 越中座の由来

 新聞の歴史や制作の中にある無数の創造文化に「ふれあえる場(座)」を「越中」(富山県)に創出したい――。そんな気持ちを込めて,約6,500坪の敷地には,新聞印刷工場と新聞博物館のほか,ゲストハウス(地域交流施設),屋上ガーデン,芝生広場,ビオトープ空間など地域に開かれた施設が整備されている。

 Phase 1 「建築・設備・構造」三位一体でデザインした「デジタル・コンテンツ・ファクトリー」
 Phase 2 創造力を誘発するワークプレイス
 Phase 3 人とマシンが協働するワークプレイス
 Phase 4 次世代ワークプレイス