特集:技術研究所50周年 技術開発を支える若き研究者たち
「コンクリートが水に浮く」衝撃的な見出しが新聞に踊った。1998年,比重1以下の軽量コンクリートの開発に成功したのが桜本主管研究員だ。 「阪神・淡路大震災以後,既存建物の耐震補強壁をできるだけ『軽く』作りたいというのがきっかけだったんです」重量と強度のバランスをどう取っていくか,その配合に時間が費やされた。そしてついに水に浮くコンクリートの開発に成功。今後の課題は建物にどう応用していくかだ。 「研究開発には『ニーズがあってそれに応えるための研究』と『究極を求める研究』の2種類ある。コンクリートでも1400kg/cm2まで研究しているからこそ600kg/cm2が安心して使える。当面の課題をクリアしつつ新しい夢を求める。そのバランスをとっていけたらいいと思います。レールのある道を進むのは簡単ですが,何もないところを『切り拓いていく』,そう言う気持ちを持ち続ける研究者でありたいですね」
水産加工会社の研究所から技研に転職したという経歴の持ち主。大学時代の専攻は植物の組織培養だそう。鹿島に入ってからは屋上緑化関連技術の開発に携わる。「価格は手頃で良く育つ」培養土のブレンドに日夜取り組んだ。 「もっと生物(植物や微生物)の能力を活かしたゼネコンならではの建築があっていいと思うんです。そのためには生物の能力や効果を定量的に評価する技術も必要になってきます」 「建設業も時代のニーズを先取りした技術開発をしていかないと生き残れない。中でも環境は21世紀のキーワード。土木,建築という垣根を取り払う先鞭がつけられれば,と思っています」
橋脚等のコンクリート構造物の耐震性能について研究を重ねてきた。昨年2月にはこれまでのコンクリート構造物の崩壊挙動モデルに関する研究成果をまとめた論文で博士号を取得した。最近では日本一の高さを誇る鷲見橋の橋脚の部材開発にも携わった。 女性の土木技術者のパイオニアとして業界では有名人。ご家庭では二人のお子さんのお母さんでもある。 「社内外のいろいろな部門の橋渡しをするのが我々の年代に課せられた役割です。自分の専門を大切にしながら,これを活かすためには他の分野の技術を理解する心が必要です。横のつながりを増やす中で他の分野との『通訳』ができる技術者になりたいと思います」
入社以来,コンサートホールなどの音響の研究に携わってきた。現在は主に集合住宅の音環境の研究に専念している。「集合住宅はオフィスなどよりも音に関してはずっとシビアです。子供の飛びはね等を想定した試験を行ったりします」音の試験は工事の音や周辺の音に影響されない夜間に行われることがほとんどだ。 音の発生には必ず理由があり,その音が人の心に及ぼす効果は定量的に図ることができない。文化や生活習慣の違いにも関わってくるという。 「モノを造るということは環境を造るということ。そして環境は生活の裏返しでしかないと思います。音の問題からもっと横へテーマを広げて,”暮らす”ということを考えていきたいですね」
技研には「超電導」の専門家がいる。超電導とは,金属や合金を冷やすと電気抵抗がゼロになるというもの。交通,医療,エネルギー,情報など世界のあらゆる分野が注目する革新的な技術である。 超電導の専門家がなぜ建設会社に?「理論や数式を机上で展開しているだけでなく,人間社会の基本要素の一つ,建設分野で物理学の知識や発想を試してみたいと思ったんです」現在は超電導技術の実用化に向けた研究の一方,電磁波関連の仕事に忙しい。 これからの夢は?「KAJIMAタウンを造ってみたい。街のコンセプト作りから設計・施工をすべてやる。美しい景観はもちろん,街がトータルに効率よく機能し,ゆとりのある生活ができる。そんな街を自分たちで実際に造れるとしたら,それこそ建設会社で働く醍醐味だと思いませんか」
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