特集:多様化するNATM

当社のトンネル技術と地下空間の可能性
土木設計本部 第三設計部長
岩田 充功

(いわたみつのり)1975年入社。東京土木本部(当時)にてトンネル現場支援を行い,下郷地下発電所建設工事に従事。1981年より土木設計本部の第一設計部,設計技術部を経て現職に至る。なお日本トンネル技術協会の研究開発委員会や大深度地下利用調査小委員会の委員などでも活躍


岩田 充功


●本社との連携で進める都市NATM
 トンネルは,都市にしろ,山岳にしろ自然の地山を対象にしているので,切羽前方の地山がどのような状態かを事前に把握することが非常に重要となります。予測外の地質や断層に遭遇すると,多量の湧水が出たりすることがあるので非常に危険です。そこで当社では,切羽から100m先の地山の状態を予測することができる「削孔検層システム」を始めとする様々な前方予測システムを開発し,実用化しています。 都市NATMのトンネルに絞りますと,最も重要なのは地表沈下による構造物への影響です。施工中の新神戸トンネルを始め,当社の実績を見れば明らかなように,他社と比べて表面沈下が少ないことで,技術的な優勢が証明されています。
 ここで当社が成功している要因は二つあります。一つは,施工する前の事前検討で,FEM解析等(※)を用いて沈下要因を分析,対応策を現場と一体となって検討していることです。
 二つ目は,設計部門を中心とした本社関連部門の支援体制。都市NATMでは,一瞬の判断ミスが取り返しのつかない事態にもなりかねません。「3次元地盤変位管理システム」等により現場での計測データをリアルタイムで見られるようなネットワークを構築し,現場だけの管理でなく,あたかも各分野の専門家も常時現場を管理しているような二重の監視体制をとっています。そして,現場で必要な時に即時適切な判断ができるのです。これからは現場でトンネルをうまく掘るだけではなく,設計も関わらなければならない新しいステージが始まっているのです。

イメージ図


●日本発の新しいトンネル技術を
 本年5月に「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法案」が制定されました。これで40m以深の地下を有効利用する可能性が広がったわけです。バブルの頃には,大深度で夢のある構想が幾つも立てられました。しかし,今のところ盛り上がりに欠けるようです。その原因は,やはり公共事業の縮小傾向や景気の不透明感によるところが大きいのではないでしょうか。
 しかし,地下では自然景観を壊すことなく,構造物をつくることができ,土地を最大限に有効利用することができるので,潜在的なニーズは高いと思います。しかも,できるだけ安くつくりたいという要求も高い。昨今,都市部において,今までならシールド工法が選択されていたところを,最新の技術開発によって,コストで有利なNATMに適用できる範囲で変更されてきているのです。
 NATMが日本にきてから約25年。今までトンネル工事は,海外から採り入れた技術を日本なりに取り組み改善してきました。そろそろ,日本で最も実績の多い当社が中心となって「日本発の新しいトンネル技術」を世界に発信しなければならいないと意気込んでいます。
(※)FEM解析とは構造物の力や変形をシミュレートする代表的な数値解析手法

図面




NATMの概要
最小土被り4mの都市トンネル
地底500mの巨大な大空洞
膨張性地山における山岳トンネル
3連NATMでつくる地下駅
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