特集:カラーコーディネートの探求

鹿島ケーススタディ1
代官山人道橋

〜風景に溶け込む色彩計画〜
土木構造物の色彩は,構造物の機能的特徴を明確に表すと同時に,風景との調和を図る上で,極めて重要なデザイン要素である。東京・代官山にかかる「代官山人道橋」は,周辺景観に調和し,人々に好感を持たれる土木構造物のカラーコーディネーションを,見事に実現している。
鈴木 圭
土木設計本部 設計技術部
景観デザイングループ長
鈴木 圭

“透明感”を表現する色彩を求めて
  代官山人道橋は,2000年8月にオープンした代官山アドレスと東横線代官山駅を結ぶ橋長47.7mの吊り橋(1号橋)と,代官山駅跨線橋とセントラルプラザを結ぶ橋長30.2mの箱桁橋(2号橋)からなる。この橋の建設は,旧同潤会代官山アパート開発の条件として計画され,代官山アドレスへのアプローチ橋として利便性の向上と,魅力ある商業空間にふさわしいデザイン性が要求された。そしてそのコンセプトに沿ってカラーコーディネーションも展開されている。1号橋は,代官山駅と区道の間は狭い私道の上空を通過することから,桁下への採光性を高めること,さらに,緑豊かな旧同潤会の面影を残す代官山公園の上空を通過することを考慮した色彩計画が求められた。
  「周辺の風景を主役とし,橋は脇役と位置付けられています。デザインコンセプトは“透明感”。色彩面から言えば,風景に溶け込むようなカラーコーディネートが志向されています」(鈴木)。
  構造的には,橋のスケール感を抑え,渡橋時の圧迫感を軽減するために,箱桁橋ではなく鋼管構造の“吊り橋”が採用されている。さらに桁下の採光性を確保するため,床板を強化ガラスとすることで透明感を表現し,そしてその透明感を一層確かなものとするため,全体の色彩計画が綿密に検討されていったのである。
  「端的に言えば,橋を風景に溶け込ませるためには,目立たない色彩であればいいわけです。誰でも想起するものはグレーでしょうが,一口にグレーといっても多種多様なグレーがある。薄いグレーでも濃いグレーでも,目立ってしまう。グレーを基調としつつ,他にどの色が混っているかで,微妙に橋の表情は変わってくるのです」(同)。
周辺景観と調和した「代官山人道橋(1号橋)」 周辺景観と調和した「代官山人道橋(1号橋)」
周辺景観と調和した「代官山人道橋(1号橋)」

  そして現場での試行錯誤の結果,グレーにブルーとパープルが少量混入されている色彩が採用されたのである。さらに床板には透明なグリーンの2枚重ねの強化ガラスの間に,乳白色のフィルムを挟み込ませることで,“マイルド感”が演出された。

光の演出効果を高めるカラーコーディネーション
 一方,2号橋は,桁橋の自重を建物,跨線橋に作用させないことが条件であったため,中央の橋桁自体で主桁の自重を支持する構造が必要であり,そのため採用されたのがワイン立てにヒントを得た,橋桁一本で桁の全自重を支持する独特な構造。1号橋との対比を考慮し,“存在感”を示すことがデザインコンセプトとされた。
  「主桁や橋脚には多面体の美しさが演出されています。主桁断面は6角断面となっていますが,この形状の面白さは,昼は太陽光を浴びて桁の上面が明るくなり,夜になれば桁下のライトアップによって,橋脚の面と桁下が浮かび上がる効果が得られることです」(同)。
  この面と光の関係を効果的に見せる色としては高明度な色彩が望まれるが,それでは周りの景観から橋だけが浮いてしまう。周辺の建物となじむ色合いを,実際に現場で確認しつつ決定されたのが,低彩度の茶色系であるベージュ。太陽光を受けてホワイトの印象を残す色彩だった。

2号橋の構造デザインのコンセプト
2号橋の構造デザインのコンセプト
   
光の演出効果を高めた多面体の2号橋 光の演出効果を高めた多面体の2号橋
光の演出効果を高めた多面体の2号橋


色彩が生み出す美しさとゆとりの空間

  「代官山人道橋」で見られたように,当社の景観デザインにおけるカラーコーディネートは,施設単体の景観だけでなく,周辺環境やあるいは将来の環境整備計画との関係を明確にして,人々に美しく,ゆとりある空間を提供することを基本に展開されている。過去においては,例えば東横線多摩川橋梁の色彩計画では,橋梁の圧迫感を軽減するため,桁を2色のグレーで塗り分け,さらに張り出し部にグリーンのラインを施すことで,直線部を強調,周辺景観に溶け込む色彩を実現している。また群馬県上野村の峡谷にかかる吊り橋では,山々の緑の中でデッキのラインが映えるように整流板にイエローを塗装,床板は自然の風景を楽しめるように目立たないグレーを施した。
  「土木構造物というのは,常にその場所との“調和”が求められます。カラーコーディネートは,その実現のために重要なデザイン要素。私たちは,色彩も含めていい景観を創造することが使命。そしていい風景の中で,人も文化も育っていくのだと思います」(同)。
人道橋により駅と結ばれている代官山アドレス
人道橋により駅と結ばれている代官山アドレス
 
風景に溶け込む東横線多摩川橋梁
風景に溶け込む東横線多摩川橋梁



色と心理
|鹿島ケーススタディ1:代官山人道橋
鹿島ケーススタディ2:フジテレビ
鹿島ケーススタディ3:ホテルモントレ
“癒し”と色環境