特集:21世紀の社会資本整備

Chapter2 次代に使い継ぐ社会資本


土木構造物の維持・管理・機能向上
 わが国の社会資本ストックは,戦後から高度経済成長期のピークにあった1970年以降急速に増加し,1993年には約617兆円に達した。今後,戦後直後に建設された道路や橋梁,ダムなどの構造物が順次耐用年数を経過することになる。
 一般的に,供用下にある構造物を,その機能を維持しながらつくり替えるには,新設に比べて3倍以上のコストがかかると言われており,耐用年数が経過した構造物をすべてつくり替える訳にはいかない。従って,我々は今ある社会資本ストックを,長期的・計画的に維持・管理・補修を行いながら,使い続けていかなければならない。社会資本は,スクラップ・アンド・ビルドからこれを“使い継ぐ”時代へと着実に変わりつつある。
 このような背景の中,ライフサイクルエンジニアリング(LCE)の考え方・手法が注目されている。LCEは,土木構造物の計画から建設,維持・管理,解体撤去に至るまでのコストの最適化・最小化を図る一連の取組みである。供用期間中に構造物の安全性や性能がどのように変化するかを定量的に把握し,補修にかかるコストをあらかじめ算定する。また新設構造物についても,ライフサイクルを通じたコスト低減を考慮した計画や設計が可能である。
 当社では,計画・設計・建設・維持・管理といった土木構造物の各フェーズに応じて,様々な技術を開発している。計画・設計段階では,コンクリートの劣化を予測するシステムや,地震などの災害リスクを算定するシステムが有用だ。供用下にある段階では,予測のほか,コンクリートの劣化や腐食を防止する技術を有している。さらに,日常の点検や調査・診断の際には,目視点検の結果を入力するだけで,構造物の劣化度を診断するシステムも開発している。こうして診断・評価した結果をもとに,補修や補強などを行う対策技術にも取り組んでいる。
 また最近では,供用下にある土木構造物について,その構造物の機能をリニューアルによって向上・拡張することが積極的に行われるようになってきた。現在,当社が施工中の鬼怒川ダム群の連携事業では,既存の二つのダムをトンネルで結ぶことで,貯水というダムの基本機能を飛躍的に向上させた。このように,今後は社会資本を“使い継ぐ”取組みが活発化するであろう。


CASE3

マジカルリペラーの構造
 今年11月に鳥取県八頭郡智頭町に着工した毛谷高架橋は,「設計・施工一括発注方式」が採用された橋長298m,4径間の箱桁橋である。入札に先立ち、橋の構造安定性や耐久性,品質のほか,初めてトータルコストや維持管理の容易性といった事項に関する技術提案が求められた。当社では,橋梁の壁高欄などにコンクリート内部の鉄筋腐食と劣化を防ぎ,コンクリートの耐久性の向上を図る「マジカルリペラー」という高性能の吸水防止材を提案し採用されている。


完成予想

CASE4

既設ダムの一部取壊し工事
堤体の嵩上げ工事
 広島市の南南西約19km,瀬戸内海に浮かぶ能美島の西部に位置する三高ダムは、1944年以来,飲料水の水源として利用されてきた。地域農業の活性化と安定した水源確保のために,ダムの機能を拡張する堤体嵩上げ工事が1999年に開始された。工事では,重力式コンクリートダムの下流側に新設コンクリートを打設して,堤体の高さを11.4m上げるほか,既設ダムの堤体に穴を開けて止水板を設置,堤体の一部取り壊しなども行った。工事が完成する来春には,総貯水量は21万8,000m3から58万4,000m3に増加し,増加した水が周辺の農業用水として利用される。
既設ダムの下流側にコンクリートを打設して,高さを11.4m嵩上げする

CASE5

ウォータージェットの噴射状況
自走式はつりロボット
 既存の道路橋梁で行われた床版の改良工事では,当社が開発したコリジョンジェット工法が採用された。この工法には,ウォータージェットを二つのノズルから噴射・衝突させることによリ,コンクリートのはつりの深さを高精度に制御する技術が用いられている。工事では,橋梁の中央部のコンクリート上面約10cmを全長157mにわたってはつり作業を行い,鉄筋の裏側に付着したコンクリートを除去した後,補修コンクリートで修復した。
はつり作業を終えたコンクリート床版




|Chapter0 これからの社会資本整備
|Chapter1 民間の力を活用した社会資本整備
|Chapter2 次代に使い継ぐ社会資本
|Chapter3 「都市再生」を促す社会資本
|Chapter4 環境と共生する社会資本