特集:アップデートされる交通インフラ

CASE-1 運行路線直下の工事

電車を振れない工事
 都市部における鉄道の更新工事は,ダイヤへの影響が一分一秒たりとも許されない。このため,地上工事では「電車を振る」などの措置が一般的だ。
 「電車を振る」とは,新たな構造物の建設に際して,既存の軌道を一時的に迂回させ,空いたスペースを利用して構造物を完成させる方法だ。地上部では,営業線に影響することなく工事を進められる。
 しかし,地下鉄工事などでは電車を振れないことがほとんどだ。みなとみらい線との相互接続にともない,東急東横線の横浜・反町両駅の地下化が計画された。そのなかで当社JVは,反町駅地下化を担当した。しかし,この現場は工事開始以前から超難工事との呼び声が高かった。営業線をダイヤ通り運行するという条件の下での工事だったからである。

営業線軌道直下のNATMトンネル
 反町駅の地下化にあたっては,営業線の直下で3連のNATM(New Austrian Tunnelling Method)でトンネルを掘進するというそれまで例を見ない工法が採用された。先行工事で施工した軌道仮受け直下の立坑を発進基地として,渋谷側に40m,横浜側に140mのトンネルを3径間NATMで施工した。
 山岳トンネルの施工で一般化しているNATMは,都市部での採用が増加しつつある。当工事では営業線直下に沿って,平均土被り約20mの地中に,平行に3径間の“めがね形状”のトンネルを掘削していった世界的にも前例のない作業が進行した。工事にあたっては,地上路線の安全を何よりも重視した厳密な施工管理体制が敷かれた。地上部や地中には多くの重要構造物があることから,周辺構造物に対し沈下などの影響が生じないような配慮が不可欠となった。地質に適した補助工法の活用はもとより,地上路線の地盤沈下をチェックする「軌道沈下自動計測」を行い,許容範囲を長さ10mに対して上下3.5mmに設定したのだ。これは通常の工事の半分以下の値である。
 非常に狭隘な場所でのトンネル掘削は地上の営業線運行に支障をきたすことなく完了。2004年2月1日,みなとみらい線開業の日,反町駅は新たに地下駅としてスタートを切ったのである。
反町の掘削現場。機械のすれ違いが不可能な坑内では,掘削機に様々な工夫が施された。写真はツインヘッドを装着したシャフローダーの掘削状況
開業前の反町駅
地下へ移動した現在の反町駅プラットホーム
みなとみらい線との相互直通運転にともない更新された路線図。東急東横線は東白楽駅〜反町駅間で地下に潜る



INTRODUCTION-0 ネットワークの拡張
CASE-1 運行路線直下の工事
CASE-2 地盤との闘い
CASE-3 深夜の架け替え工事
CASE-4 道路ネットワークのアップデート
CASE-5 網の目をつらぬく新設工事