特集:地震―事前防災の最新技術

3 menu 事前対策技術のメニュー

ここでは事前対策技術のメニューを各フェーズで紹介しよう。
どこに対策が必要なのか,どんな対策が必要か,どうやって対策を講じるかといった地震発生の時間軸に沿って当社の最新メニューを見てみたい。
menu-2 どんな対策が必要か
ここでは,おもに建物を中心とした地震対策として具体的な耐震診断の方法を紹介する。
1995年,阪神・淡路大震災で倒壊・大破した建物の多くが,1981年5月以前の旧耐震設計基準で設計されたものだったことを受け,「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が施行された。
また既存建物の耐震性能を向上させるため耐震診断・補強に対しては,公的な助成制度もある。
耐震診断は,建物の健康診断にあたる。
建物の耐震性能を現地調査や設計図書に基づき診察し,耐震性能が不足すると判定された場合は,処方箋を提示する。
健康診断にも集団診断から人間ドックなどの種類があるように,耐震診断にも目視調査あるいは建物情報のみで行う「簡単耐震診断」から,検査・測定を含む詳細な動的解析といった種類に分かれている。
自己診断からモデル診断まで――3つの簡単耐震診断メニュー
 「簡単耐震診断」には,鹿島オリジナルの3つのメニューがある。いずれも正式な耐震診断を行う前に,概略の判定を行うことで,補強の可能性や概算費用を検討するものだ。
 診断を行いたい建物を簡略なモデルに置き換えて,耐震性能,補強方法,概算工事費を知るのが簡単耐震診断である。
 すぐに診断結果を知りたいならば,26項目にわたるインタビューによって,敷地状況や建物形状,劣化状況を診断,耐震基準が目で見て分かるようにレーダーチャートとコメントで評価するもっと簡単耐震診断がある。必要に応じて概略的なコストを知ることもできる。
 まずは自分で診断してみたいという場合には,建物構造,階数,竣工年,建物形状などの情報だけで耐震性能を知るもっとも簡単耐震診断がある。これは,当社ホームページから申し込んで,簡易に自己診断ができるツールだ。
 超高層建物から低層住宅まで,建物の規模や,築年数,用途など,条件がさまざま異なるところで,耐震診断にもメニューがいろいろ用意されている。
「もっと簡単耐震診断」のインタビュー項目の例。このような簡単な質問に答えていくと下のようなレーダーチャートで耐震性評価を把握することができる
「建物Aの耐震性の評価・補強工事費の算定――総合評価:2.0」
建物の精密診断――詳細な耐震診断と地震リスク評価
 耐震改修促進法で定めている耐震性能は,守るべき最低ラインであり,大地震時において建物が損傷を生じたとしても,人命の安全確保を図ることを目標にしている。
 しかしながら,建物によってはこの耐震改修促進法をクリアすればよいだけではなく,重要度や用途に応じてより高い耐震性能が必要となる。詳細な耐震診断は,(財)日本建築防災協会などが定めている各種耐震診断法に基づき,現地調査を含めて綿密に行い,求められる耐震性能のレベルに応じて詳細な耐震補強計画が検討される。
 現地調査では,躯体寸法,建物の変形,ひびわれ,コンクリート強度,コンクリートの中性化,鉄筋・鉄骨の腐食,配筋,鉄筋・鉄骨の強度,地盤,基礎のなかから,建物に必要な調査を選択する。
 診断は,建物の用途などを考慮し,過去の地震被害例との関係から,その建物にふさわしい耐震性能を定めるのである。
 一方,地震リスク評価では「建物がどの程度丈夫につくられているか」ではなく,「建物にどの程度の被害が予測されるか」を,コスト(予想最大損失PML:建物の物的被害予想額)と時間(営業中断期間BI:建物使用や営業が満足にできなくなる日数)で評価する。こうした数値で,より具体的な被害の程度がイメージできる。
躯体コンクリートの調査例
耐震診断の流れ
focus電子デバイス工場の地震リスク簡易評価
 設備投資金額が巨大であり,またガスや薬品を使用する電子デバイス工場では,地震にあった場合の被害が巨額となり,企業にとっては人命とともに大きな損失となる。
 当社では,これまで蓄積してきた地震に関する知見と,電子デバイス施設の設計施工の経験に基づき,建物,生産装置,ユーティリティを含めた生産施設全体の地震リスクを簡易に算定している。これは地震時の予想最大損失(PML),操業中断期間(BI),操業中断営業損失といった数値を簡易的に算定評価するシステムで,耐震グレードや所在地の違いによる地震リスクの比較を通じて,リスクを軽減させる対策の概略的な検討ができる。
 また,精密機器を扱ううえでの耐震技術も保有しており,地震時の操業停止のリスクをハード面からも軽減するメニューを備えている。
地震リスク簡易評価システムの画面イメージ。生産品目・耐震グレード・層数・建物規模の4項目を入力するだけで,簡易評価を行う
column地震発生前後の対応技術――RDMS(次世代リアルタイム防災システム)
 地震に対して事前の対処が大切であるのはもちろんだが,いざ地震が起こったときには災害を少しでも軽減する(減災),あるいは災害後早急に日常生活を取り戻すため,どこから復旧するかという判断をする必要が出てくる。その際に対応するのが「次世代リアルタイム防災システム(RDMS)」だ。
 RDMSは,地震直前/最中/直後のそれぞれの時点で得られた情報を減災や早期復旧に結びつけるトータルな防災システムである。
 地震の主要動を起こすS波(横波)と,初期微動を起こすP波(縦波)の速さの違いを利用した,緊急地震速報(2004年2月から気象庁が試験的配信をはじめている)を受け,地震直前に警報を発し,警戒を促すことができる。また,数十秒〜数分程度の地震最中には,振動センサーにより建物や地盤の加速度を計測,変形などをシミュレートして建物の異常監視や設備の機能をコントロールする。
 そして地震直後には,損傷や異常検知の結果を関係者に伝達し,どの建物から直していけばよいか,など初期の復旧体制をサポートするのだ。
 防災拠点となる施設や病院,あるいは生産施設や情報通信施設など業務の継続が優先すべき施設,また2次災害に注意しなければならないエネルギー施設など,被害をいかに減らし,どこから復旧するかを知る――事前対策と合わせてこうした視点も重要であり,現在当社でも研究が進められている。
RDMSの構成。インターネットや携帯電話を利用し,建物利用者へ情報をリアルタイムに届ける



1 introduction
2 interview
3 事前対策技術のメニューい策技術

いつでも,どこでも起こりうる地震
いま、すべきこと
menu-1 どこに対策が必要か
menu-2 どんな対策が必要か
menu-3 対策はどうやって行うか