特集:土木構造物のライフサイクルエンジニアリング

Interview
 インタビュー 
当社のLCEプロジェクトに携わる社員を代表して,技術研究・設計・施工の立場から,LCEにおけるそれぞれの役割について語ってもらった。

「建設という土俵を守るために」

土木技術本部 リニューアル室 室長
金氏 眞 (かねうじ まこと)

金氏眞

 今まで土木構造物はメンテナンスフリーだと信じられていました。しかし,そういう神話は崩れ,適切な維持・管理により長寿命化を図りたい,というニーズへ変わってきています。実際,公共工事についても新設の計画より,維持・管理の計画が増えてくると言われています。そういう意味でもリニューアルはこれからの新しい社会のキーワードになるでしょう。我々は,新設と同じようにリニューアルの建設技術についても積極的に取り組んでいます。材料,工法の選定の段階から,もっとさかのぼって計画・設計の段階から,さらに点検,調査・診断,評価の段階から,全てについて取り組もうと考えています。

 土木構造物のLCEが従来の“Civil Engineering”と違う点は,「時間」というファクターが加わって,それを定量的に評価する必要に迫られていることです。確かに以前から「耐久性」は評価されてきましたが,それはたとえば「50年間の耐久性=耐用年数」といった漠然としたものだった。現在直面している課題は,供用期間中に構造物の安全性,使用性,景観などのファクターがどのように変化するかを定量的に評価することだと思います。構造物の諸性能は一般的に時間とともに劣化しますが,これを時間軸に沿って定量的に評価するためにまず必要なことは「劣化の将来予測」です。構造物の劣化メカニズムについてはそのほとんどが解明されていますが,定量的な評価技術についてはまだ十分とは言えません。その次に必要なことは,「劣化の将来予測」の定量的な評価を「コスト情報に置き換える」ことです。つまり時間の経過とともに劣化する構造物を,要求された性能を満たすために補修・補強あるいは更新する場合にどれだけのコストがかかるかを評価します。これが「LCC評価技術」です。当社では,この「劣化の将来予測」と「LCC評価技術」がLCEの重要な部分であると考え,技術研究所,土木設計本部,ITソリューション部等と連携を取って,研究・開発を進めています。

 当社はあくまでも建設会社です。そしてリニューアルも建設ですから,建設の分野ではやはり100点満点を目指さなければいけません。建設の部分は自分たちの大事な土俵ですよね。しかし,その部分だけではだめだと思うのです。その前工程の計画・設計であるとか,後工程の調査・診断であるとか,そういった段階においてノウハウを取り揃えておかなければならない。そのためにもLCEというのは非常に重要なことではないかと思います。しかも,それが実際にできる技術スタッフもいるし,そういう能力も当社は持っています。ですから,建設の部分だけではなく,構造物の一生を通して総合的に勉強しておかないと建設という自分の土俵で何が必要なのかということが的確に判断できないと思うのです。自分の土俵をしっかり守るために,計画・設計や調査・診断などについてもしっかりやりたいと思いながら取り組んでいます。定期的に開いているLCE連絡会では,各部署の技術スタッフから色々面白いものが出てくるんです。ああ,さすがだなと思う。ですから,やはりこういうものがあったらいいなあという発想をどこかでしないといけないし,そういうのが一つでもできてお客様に持っていくと,ああこんなこともやっているんだったらということで,次はこんなものがあったらいいなと問合せが来ますよね。やはり実際維持・管理をしているのは施設の持ち主ですから,相手の懐に飛び込むという気概をもってLCEに取り組んでいます。




「より精度の高いツールをめざして」

技術研究所 LCEプロジェクトチーム
チームリーダー 
村山 八洲雄 (むらやま やすお)

村山八洲雄

 技術研究所ではこの分野の研究開発をLCEプロジェクトチームと土木技術研究部でやっています。LCEに関するシステム構築などソフト面の開発を前者で,補修材料・補強工法など主にハード面の開発を後者で担当しています。私の属するLCEプロジェクトチームは短期決着型チームとして一昨年秋に発足しました。異なる研究部の材料,構造,リスクアセスメントなど5人の専門家で成る集団です。各々の持つポテンシャルを最大限出し合い,新しいニーズに応えようと取り組んでいます。開発成果のいくつかは,既に実務に対応できる段階に達したと思います。主な活動はLCC評価技術の開発で,これには「純技術的な面」と「費用面」という二つの要素があります。純技術的な面は点検・診断技術,劣化の現状評価技術,劣化の進行予測技術,傷んだ構造物の耐力評価技術などがこれにあたります。一方,費用の面は新設から維持・管理,補修・補強,解体に至るトータル費用最小化のため,それぞれの費用がどのくらいかかるかということを評価する部分をいいます。そして,お客様に納得して頂くためには,“短期間に精度の高いものを提供すること”だと思います。このため純技術的な面では,予測技術から得た評価などを実際の構造物の状態に即して修正できる柔軟さが大切で,構造物のモニター技術及び経験の集約化と豊富なデータベースが要になると思います。費用の面ではデータベースの構築に加え,施設の機能がストップした時の損失や社会活動への影響などは,施設を管理するお客様や社会経済を専門とする大学の先生方のご指導が不可欠となります。より精度の高いツールの実現をめざして,今後も研究開発に取り組んでいきたいと思います。



「構造物の一生をデザインする」

土木設計本部設計技術部 次長
高橋 祐治 (たかはし ゆうじ)

高橋祐治

 今までは土木構造物というと,設計があって,それにしたがって建設会社が施工して引き渡し,その後の運用・管理はお客様が行うというのがほとんどでした。今「性能設計」という言葉が使われていますが,これからは,お客様が必要としている機能を充足する構造物を設計の段階から考えてほしいという要望が出てくると思います。それに応えるには,やはりゼネコンが一番ポテンシャルを持っているのではないでしょうか。というのは,造る技術も持っていますし,維持・管理の技術にも取り組んでいます。例えば構造物はどういう傷み方をするのか?いつ頃傷むのか?どのような補修をやったらよいか?そういうトータルで構造物を把握する技術に一番近いところにいるのがゼネコンだと思うのです。構造物の一生が最初の計画や設計通りいけばよいのですが,思っている通りにならないこともあるでしょう。そのため随時健康診断を行い,見直しながら,構造物が一生をまっとうできるようサポートをしていく。この技術がLCEだと思います。例えば,ある構造物の100年という一生のシナリオを作るわけです。人間でいえば人生プラン,設計図ですよね。100年もつものを造るなんてとても不可能なので,何年かおきに補修なり補強なりすることを考えてデザインしましょうとか。あるいは,100年間メンテナンスフリーでいくのが一番良いでしょうとか。劣化もそれほど進まない環境だし,構造的に丈夫なものにして,できるだけメンテナンスしなくて済むような設計にしましょうとか。様々なアドバイスをする。そういうふうに100年という期間の機能を保証することがLCEにおける設計の役割ではないかと思っています。



ライフサイクルエンジニアリングとは?
劣化を予測する
劣化を防止する
既設構造物を診断・評価する
リニューアル
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