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ものづくりへの飽くなき探求が
既成概念を越えてゆく

阪神なんば線淀川橋梁改築工事の内
土木関係主体工事(第4工区)

阪神なんば線淀川橋梁は1924年の架橋からまもなく100年を迎え,
近年増加する記録的豪雨,大型台風来襲により発生する洪水や
高潮被害への懸念から,現在架け替え工事が進んでいる。
工事は特有の地形,工程など,制約条件が多い。当社が長年培ってきた技術力を背景に,
様々なチャレンジを続ける現場の様子を追った。

【工事概要】

阪神なんば線淀川橋梁改築工事の内
土木関係主体工事(第4工区)

  • 場所:大阪市此花区
  • 発注者:阪神電気鉄道
  • 設計:日本交通技術
  • 規模:高水敷盛土1万5,000m3
    鋼管井筒基礎・橋脚5基
    ケーソン基礎・橋脚2基(河1基,陸1基)
    場所打基礎・橋脚1基
  • 工期:2018年7月~2024年3月

(関西支店JV施工)

地図
図版:完成イメージ

完成イメージ

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図版

建設作業が進む(2022年12月)

photo:takuya omura

橋脚を減らし桁下を7m嵩上げ

大阪市西部を流れる淀川は「新淀川」とも呼ばれる放水路で,1910年に完成した。その川幅は約800m。河口から約3kmの位置に架かる阪神なんば線の淀川橋梁は,今から約100年前,同線が1924年に開通した際に建設された橋である。

本事業の契機となったのが2018年9月,大阪湾から関西地方に上陸し,広範囲に大きな被害をもたらした台風21号だ。現在の淀川橋梁は橋脚数が39本と多く,淀川にかかる橋梁の中で最も桁下が低い。桁下高が計画高潮位を下回っているため,洪水の流れを阻害し,河川整備計画で懸念されている洪水が発生した場合,上流で堤防が決壊する恐れがある。また,「陸閘(りっこう)」を備える鉄道橋としても知られる。陸閘とは,堤防を締め切るためのゲートのことだ。線路が堤防の天端よりも約1.8m低いため,淀川が増水した際は,線路を塞ぐように陸閘を閉じる必要がある。すなわち,増水時,鉄道は運行できない。

図版:2018年の台風21号で水位が上昇した既存の淀川橋梁

2018年の台風21号で水位が上昇した既存の淀川橋梁

図版:「陸閘」を備える鉄道橋

「陸閘」を備える鉄道橋

photo:takuya omura
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こうした課題を解消するため,橋脚数を現在の4分の1に減らし,桁下を7m嵩上げする。このうち,当社JVが淀川橋梁の左岸側半分,延長約490mの区間を手掛ける。

河川内で橋脚を施工できるのは,基本的に非出水期に限られる。工事を指揮する向弘晴所長は,「当現場付近は低い橋梁に挟まれた上に水深が浅く,搬入できる作業船が限られるために通常の機械が使用できません。また,河川内施工は台風シーズンなどを除く年間8カ月の非出水期に限られるなど工程が非常に厳しい工事です。これら施工上の課題解決のため,本社部門の支援も受けながら様々な新技術投入などのチャレンジを続け工事を進めています」と語る。

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向弘晴所長

photo:takuya omura

図版:全体図(断面)

全体図(断面)

極力船を使わない施工方法を採用

厳密な品質管理が求められることから,現場では,品質上のリスクを抽出し,それらを回避する方法の検討に取り組んだ。中でも,橋脚施工用のコンクリートを最大約504m圧送するために配管橋を設置するアイデアは,品質管理に大きく貢献した。

図版:配管橋。既設の橋脚に沿わせて設置した

配管橋。既設の橋脚に沿わせて設置した

今回,川の中で施工する橋脚・基礎は,鋼管井筒基礎5基と,ケーソン基礎1基の合計6基。このうち,護岸から離れたところにある鋼管井筒基礎5基については,当初,使用するコンクリート合計約330m3を現場内の河川敷から台船でピストン輸送する計画だった。しかし,台船の場合,波の影響で輸送が不安定になることが予想された。さらに,打設直前にコンクリートを再度攪拌する必要があるなど,品質管理も複雑になる。「現場付近の水域は,潮の満ち引きや波の影響を大きく受けます。私を含めベテラン現場社員の多くは長年にわたり鉄道工事に携わってきましたが,河川工事を経験したことがありません。そのため,川の状態に左右される作業船をなるべく使用しないで済む方法を検討しました」と,向所長は明かす。この河川や海の工事未経験者こそのアイデアは,のちに特許を取得。早速,淀川で施工する他事業の工事にも採用されたという。

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図版:頂版コンクリート打設計画平面図

頂版コンクリート打設計画平面図

本社支援のもと新技術を導入

現場の創意工夫とともに,当社が開発した新技術も積極的に活用している。その一つがケーソン基礎をオープンケーソン工法で施工する際に使用した硬質地盤対応水中掘削機だ。

オープンケーソン工法は,筒状のコンクリート躯体(ケーソン)を打設し,筒の内側の地盤を掘削しながら,ケーソンを沈下させて基礎を構築する。掘削中,筒の内部は地下水位に応じて水で満たされるので,地上からグラブバケットを落下させて,水中掘削するのが一般的だ。ただし,この方法では,ケーソン先端で接する地山を直接掘削できない。地盤が硬いと,ケーソンを押し込んでも,ケーソンの刃口の歯が立たず,それ以上沈められなくなる。

硬質地盤対応水中掘削機はこのオープンケーソン工法の弱点を補うために開発された。ケーソン底部に吊り下ろした架台からアームを傾斜・伸縮・旋回し,その先端に取り付けた直径約95cmのカッターヘッドを回転させることで,刃口部直下の地山を斜めから直接掘削する仕組みだ。硬質地盤対応水中掘削機の開発は本社土木管理本部・機械部が,施工管理のための計測方法の開発は技術研究所が進めた。ケーソンの沈下が完了し,計画通り支持地盤に到達したことを直接確認するために地上から地盤の支持力を測定する坑内水平載荷試験も本社と連携し実施したものの一つ。このほか,ケーソンを地上で構築する際,躯体内部に光ファイバセンサを埋め込み,沈設中の躯体に生じるひずみを鉛直方向を連続にリアルタイムでモニタリングできるようにした。施工管理だけでなく,維持管理面での活用も期待されている。

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図版:硬質地盤対応水中掘削機
図版:光ファイバによる計測画面

光ファイバによる計測画面

図版:光ファイバセンサの設置状況

光ファイバセンサの設置状況

ケーソン基礎は,2020年に河川内のP56橋脚,2022年に陸上部のP57橋脚を施工した。P57橋脚の施工を担当している松井貴志工事主任は,次のように話す。「硬質地盤対応水中掘削機を使用した期間は約1週間でした。掘削機のケーソン内への投入には,新たに100tクレーンが必要となり,限られたヤードと時間の中でのやりくりに苦労することもありましたが,掘削自体はとてもスムーズに進み,掘削機の性能を十分に発揮させることができました」。

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松井貴志工事主任

photo:takuya omura

CIMを活用した事業全体の進捗管理

本事業では,橋梁前後の区間の立体交差化も同時に進められ,事業延長は2.4kmに及ぶ。工事は5工区に分かれ,当社JVは第4工区を担当している。事業主体である国土交通省は,大規模かつ長期間に及ぶ一連の工事を効率的に管理するため,着工段階から3次元データを用いたCIMの活用に取り組んでいる。実現には,国土交通省だけでなく,工事発注者である阪神電鉄や,建設コンサルタント,そして,各工区の施工者による連携が欠かせない。

「一口にCIMモデルと言っても,多種多様です。使用するソフトやバージョン,さらにモデルのパーツの名称の付け方も,事業全体で統一しなければなりませんでした」と,各工区の調整役を担う岡直彦副所長は話す。工事は,ともに河川内の工事を担う他社施工の第3工区と,当社JVの第4工区が他工区に先駆けて着手した。そこで,当社CIM推進室の全面協力のもと,まずCIMモデルを制作し,それをたたき台に,両施工者が中心となって検討を重ねた。モデルの方向性や特徴を国交省と阪神電鉄に提示し,承認を得た後,具体的な仕様は,CIMモデル管理取りまとめ役のコンサルタントと,両施工者の本社専門部署が協力して構築していった。「これまでにあまり例がない調整業務でしたが,阪神電鉄を中心に他工区とも連携して円滑に進めることができました」と岡副所長は振り返る。

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岡直彦副所長

photo:takuya omura

作成したCIMモデルは3Dスキャンによる点群データを取り込むことで,さらに活用の幅を広げた。「施工中に既存橋梁に干渉することは絶対に許されません。桁下のデータ収集のために船上からの3Dスキャンも試行するなどしてつくりあげた3次元モデルは,その後の施工計画にも大いに効果を発揮しました」。

図版:CIMモデル(上)とそれを活用し作成した3次元モデル(下)

CIMモデル(上)とそれを活用し作成した3次元モデル(下)

全員が同じ思いでつくりあげる

向所長は,「現場社員に河川工事の経験者がいないという中で,どうやって工事を進めていくかの模索からスタートしました。過去の施工事例を取り寄せ,橋梁現場へもヒアリングし,動画サイトにアップされている施工事例なども参考にさせてもらいました」と試行錯誤を重ねたことを感慨深く語る。未経験者だけだったことで,かえって既成概念に捉われることなく貪欲に様々なチャレンジができたのかもしれない。現場にWi-Fi環境を完備したサテライトオフィスを2棟設置するという判断も工夫の1つ。事務所から1km以上離れた現場の河川ヤードと陸上ヤードそれぞれに設置することで,無駄な移動を省き業務効率化を図った。サテライトオフィスは工事が中断する出水期にはいったん撤去し,工事再開とともに再度設置される。その都度Wi-Fi環境の整備,調整などを行う現場事務担当の苦労も影ながらの大きな下支えとなっている。

図版:Wi-Fi環境を整備したサテライトオフィス

Wi-Fi環境を整備したサテライトオフィスン

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「100年をつくる会社として,品質には徹底的にこだわり,妥協したくありません。そのために常に先手管理で,これはと思ったものには貪欲に取り組んでいます。そして,若手社員にいかにやる気を出させ活躍してもらうか。自主性を重んじつつ,締めるところは締める。現場全員が同じ思いでより良いものをつくりあげていきたいと思っています」(向所長)。

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鋼管井筒基礎の施工状況(2022年12月)

photo:takuya omura
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任せることで躍動する若い力

主力として現場を引っ張る若い力,その代表格が早田侑平工事係,佐藤優介工事係,北村光法工事係だ。「現場は潮の満ち引きひとつで作業予定がガラっと変わってしまうなど,戸惑うこともありました。その時は若手同士でも話し合い,分からないことは互いに聞き合っています。考え教え合うことが,自分自身の勉強にもつながっています」と3人は話す。

「この現場は工事ができない出水期に計画を練り直すことができます。その分工期はタイトですが,若手社員にとって,都度仕事の仕方を見つめ直すチャンスになっていると思います」と文村昌史工事課長は話す。工事全般を掌握し,協力会社を含めて広大な現場各所に適切な指示を送る工事の司令塔の役割を担う文村工事課長は,若手社員に対して,特別な場合を除き手出しも口出しもしない。一人ひとりを担当分けして役割を持たせ,工程の管理をはじめとして自分たちの判断で進めていくように任せる。その方針が,若手一人ひとりの確実なスキルアップにつながっているようだ。

「自分たちが時間をかけて苦労し,つくった構造物が今後50年,100年と使われていくのかと思うと感慨もひとしおです。ここでの貴重な経験を財産としてさらなるステップアップを目指します」(若手3人)。

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文村昌史工事課長

photo:takuya omura

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左から,北村工事係,佐藤工事係,早田工事係

photo:takuya omura

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