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藻場を再生する

藻場は大型の海藻草類が生育している場で,海藻の種類により,アマモ場やアラメ・カジメ場などと
呼ばれている。魚の餌場,産卵場,稚魚の育成場となり,良好な漁場としても重要な働きをする。
しかしながら,近年は地球温暖化による海水温の上昇や食害生物の増加などにより,
藻場の衰退・消失が全国各地で進行し,深刻な問題となっている。

「海のゆりかご」アマモ場を
再生する技術

アマモは日本沿岸の浅瀬に生息する海草類の一種。様々な魚の稚魚などが集まり,沿岸域で生態系維持の役割を果たすことから「海のゆりかご」とも呼ばれる。

当実験場の山木克則上席研究員とリン・ブーンケン上席研究員らは2002年から消失が進むアマモ場再生に取り組んできた。アマモ場再生は市民中心の取組みが全国各地で行われていたが,波浪による流出や海の濁りなどが原因でうまく再生した例は少なかった。大量の種子を蒔いたり,母藻を移植したりする手法が主流の中で「地域固有の遺伝的多様性に配慮する再生技術を探求しました」と山木上席研究員は話す。

はじめに取り組んだのは種子の発芽促進技術だった。遺伝子の拡散を防ぐためにその地に生息する種子を集め発芽させる。「自然界でのアマモの種子の発芽率は5%未満ですが,塩分や温度条件を調整・解明することで現在では短期間に発芽率を90%以上に向上させることが可能になりました」と技術の強みを強調する(リン上席研究員)。

生産したアマモ苗は移植場所に定着させることも重要だ。せっかく移植した種苗が流されることのないよう,現地の波の影響度別に適用できる移植基盤を開発し,移植後の定着率を高めてきた。開発した技術を適用して福岡県,神奈川県,広島県,および岩手県などの沿岸へ移植し,各地でアマモ場の再生活動に貢献している。

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海藻類は光合成により二酸化炭素を吸収し,海藻の生長,枯死の過程で炭素がブルーカーボンとして海底へ隔離・貯留される。
なかでも,全国の沿岸域の藻場を構成するアラメやカジメなどのコンブの仲間は生長が早く,大型化する種類が多いため,ブルーカーボン増加への貢献が期待される

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図版:アマモの移植直後

アマモの移植直後

図版:移植半年後

移植半年後

図版:アマモ場にアオリイカが産卵

アマモ場にアオリイカが産卵

藻場再生の先進技術を開発

全国の沿岸域の藻場を構成するアラメやカジメは生長が早く,大型化する種類が多いことから,近年はブルーカーボンへの貢献が期待される海藻だ。しかし,温暖化による高水温の影響は,アマモ場よりも深い海域に生きる海中林と呼ばれるアラメ・カジメ場にも及んでいる。

自らもダイバーとして海に潜る山木上席研究員は,5年ほど前から当実験場のある葉山沿岸域のアラメ・カジメ場が消失する「磯焼け」に危機感を抱き,藻場の再生・保全技術に関する本格的な研究開発に着手した。

研究を進める中で注目したのが,海藻の種にあたる「配偶体」だ。この配偶体の培養に,フラスコの中で浮遊状態にして増殖させる「フリー配偶体」と呼ばれる種苗生産技術を応用した。これにより,年間を通じて配偶体を成熟させ,海藻の苗をつくる技術を確立することに成功。種のとれる時期に左右されず,いつでも種苗を供給し,海中の藻場を陸上の畑のように管理することで,いつまでも藻場を持続させることが可能となった。

図版:アマモの移植直後
図版:移植半年後

葉山沿岸におけるアラメの衰退状況

図版:フリー配偶体によるカジメの種苗生産

フリー配偶体によるカジメの種苗生産

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消滅したアラメが復活

葉山沿岸域で急速に衰退したアラメは2020年に消滅してしまった。そこで,当地域から事前に採取し,確保してあった配偶体を用いて,アラメの種苗を生産。その後,自然石を詰めたユニット型漁礁にその種苗を取付け,消失した場所に設置したところ,約半年で10cmの幼体が60cm以上に生長した。復活したアラメにはメバル幼魚の蝟集(いしゅう)やイカの卵が産みつけられており,藻場としての役割も果たしていることが確認された。「30年前の藻場の姿を少しでも取り戻すことが目標です。自然と向き合っている以上,人間の力だけではなく,自然の回復力を活かしながら,人間の知恵や研究成果をそこにプラスするかたちで研究を進めたいです」(山木上席研究員)「実験の計画にあわせて先手で準備を進め,海を豊かにする活動を続けていきたいです」(中村華子担当主任)と二人の研究員は今後の研究へ意気込みを見せた。

この技術は今年3月,環境活動で成果を挙げている企業などを表彰する第31回地球環境大賞のフジサンケイグループ賞を受賞した。今後も,藻場の拡大によって,漁業資源の持続的利用とブルーカーボン生態系のさらなる創出を目指していく。

図版:生産したアラメ苗の生育状況

生産したアラメ苗の生育状況

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藻場造成活動が今年2月に
Jブルークレジットを取得

当社がメンバーの一員として参画し,活動を行っている「葉山アマモ協議会」の藻場造成活動が今年2月にJブルークレジットを取得した。

当社は,葉山アマモ協議会のメンバーとして,2006年から地域連携による積極的な藻場再生活動を行ってきた。今回,藻場再生技術を活用し,ワカメ場,カジメ場,海藻養殖の合計で46.6t-CO2/年(スギの木3,300本分に相当)のJブルークレジットの取得に貢献した。

クレジットの公募には多くの購入希望があり,藻場の再生のみならず,地域経済の底上げなどの効果も期待されている。

※ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(以下,JBE)から独立した第三者委員会による審査・意見を経て,JBEが認証・発行・管理する独自のカーボンクレジット

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認証内容

プロジェクト名称:
葉山町の多様な主体が連携した海の森づくり活動
申請者:葉山アマモ協議会
実施者:葉山町漁業協同組合,葉山町立一色小学校,ダイビングショップナナ,鹿島建設
クレジット当初保有者:葉山町漁業協同組合
実施場所:神奈川県三浦郡葉山町
実施期間:2021年7月1日から2022年6月30日まで
認証対象吸収量:46.6〔t-CO2

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