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Episode 1 街の骨格をつくる─土地区整理事業

津波被害を受けた蒲生北部では,防災集団移転によって地権者の多くが居を転じることとなった。
しかし,一部の地権者はもともとの場所で事業を再建し,また,住み続けることを決断した。
そのため土地区画整理事業では,複雑に絡み合う条件下で工程管理に細心の注意を払いながら
工事が進められている。

一般的な土地区画整理事業

民間が行う業務代行方式の土地区画整理事業とは通常,民間事業者が保留地の取得を条件として,土地区画整理組合の設立から事業の終了までの複雑な業務(組合の運営や換地,設計,造成工事など)を,組合からの委託を請けて責任をもって実施するものである。保留地とは,土地区画整理事業により新しく生み出される土地で,売却し,事業費の一部に充てられる土地を指す。

蒲生北部の包括委託方式は,仙台市施行の土地区画整理事業であり,当社JVによる保留地の引き取りはなく,地権者との協議は仙台市が行うものの,当社JVは市有地の利活用促進業務も含め,土地区画整理事業の業務の相当部分を包括的に受託している。地権者の事業再建や移転の状況などと,工事の進捗とが複雑に絡み合うなか,事業を進めていくことが重要となる。

写真:蒲生北部地区唯一の小学校があった中野小学校の跡地にはモニュメントが設けられた

蒲生北部地区唯一の小学校があった中野小学校の跡地にはモニュメントが設けられた。津波で亡くなった方の慰霊碑であり,災害危険区域指定にともない2016年春に閉校した同校の記憶が刻まれている。今年3月には七回忌の合同慰霊祭がここで行われた

地権者の存在とインフラ機能の維持

「地権者が震災に遭われ,努力して事業再建されていたり,住み続けているなかで,土地区画整理事業を進めていることが最大の特徴」と,開発事業本部プロジェクト開発部にも所属する当社JVの安永臣吾副所長は語る。

土地区画整理事業に際して行われる工事は,インフラ整備,道路敷設,土地造成に大別される。これらを一定規模,面的に効率よく進めることが,本来理想的な工事である。しかし,安永副所長によれば「地権者の方々の事業や生活を継続させることが最も優先されなければならない」。そのため事業者は上下水道などのインフラ整備や,道路敷設を行う過程で既設部分の機能を維持したまま,仮設または新設の工事を進める必要がある。

写真:安永臣吾副所長

安永臣吾副所長

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写真:地区内幹線道路直下に敷設されるインフラ工事の様子

地区内幹線道路直下に敷設されるインフラ工事の様子。工区内では次第に重機の数が増え,再生の機運が高まる

写真:最盛期を迎えている当社JV工事事務所

最盛期を迎えている当社JV工事事務所

工程を日々更新する

道路やインフラ設備の“付け替え”工事は,これに接したり共用したりする地権者や工区内外の関係者とコミュニケーションをとりながら進めるのが常(つね)だ。生活上の利便性をできるかぎり損なわないために,工夫して工事を進める。そのため現場では,細かな工程調整が日々発生することになる。

仮にA地点の地権者をB地点に移す場合は,先にB地点の工事を終えなければならない。また,A地点からB地点に移ってから,A地点の工事に着手できることになる。その後,C地点からA地点に移転したりするケースも起こる。まさに,現場では玉突きで土地区画整理事業が進められている。

「こうした工程調整が毎週行われる」と語るのは工事事務所の松本英也工事課長だ。区画整理の設計は最終形が描かれるのみで,その過程までは盛り込まれていない。そのため,工事の内容や位置が変われば,その後のすべての工程が都度見直される。当社JVでは,数多くの設計変更協議と関係者間の調整を行っている。

松本工事課長は横浜支店の京急大師線連続立体交差事業で,鉄道工事特有の施工体制や綿密な工程管理による施工を経験していた。当社JVでも工事の複雑かつ綿密な工程管理は,その松本工事課長をして「都市土木並み」との実感を与えている。

写真:松本英也工事課長

松本英也工事課長

現場マンが地域のフロントマン

工程の頻繁な変更は,そのぶん地権者や近隣住民への説明回数が増すことにもつながる。道路の付け替えによる交通規制のお知らせなど,当社JV職員が地域住民や地元事業者と接点をもつのは日常茶飯事だ。また,工事の内容によって担当の職員も異なるため,当社JVのメンバーはつねに最新の工程を把握しておく必要がある。全職員が地権者と親しくコミュニケーションが図れるよう,徹底した情報共有が行われている。

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急ピッチで進む調整池の建設

2017年10月現在,区画整理の工事は最盛期を迎えている。当社JV職員25名,協力会社150名の現場を率いるのが当社JV工事事務所の南敏文所長である。南所長はこれ以前,陸前高田の防潮堤建設に携わってきた。

地区の東側では,雨水を集める調整池のコンクリート躯体の打設工事が大詰めだ。「土地区画整理事業全体の工程に追随するには,こちらの工程を大幅に短縮しなければならなかった」と南所長は語る。現場では躯体の底版をなす鉄筋架台を地組するほか,高さ5.1mのコンクリート壁面を,大型鋼製型枠を用いて水平方向の打継ぎなしで打設するなど,工程短縮にさまざまな工夫を凝らしている。

日々変化する現場の状況に緊張感が漂うが,地元の協力会社が安定的に人を集めてくれており,「徐々に工程も軌道に乗りつつある」(南所長)と実感している。

写真:南敏文所長

南敏文所長

写真:地区の東側では11月初旬の打設完了をめざして,調整池の躯体コンクリート工事が進んでいる

地区の東側では11月初旬の打設完了をめざして,調整池の躯体コンクリート工事が進んでいる。蒲生北部地区は海抜0mのため,雨水をここに一旦集め,ポンプで排水する仕組みだ。高さ5.1mのコンクリート壁面を水平方向の打継ぎなしで打設するなど,工程短縮にさまざまな工夫を凝らしている

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