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Tool 1:揺れから建物を守る「制震」

ここからは,建物のサステナビリティを叶える技術を,事例とともに紹介する。
まずはじめは当社が誇る制震技術だ。

高い耐震性能を大型複合施設に実現

東京ミッドタウン日比谷は,都心の大型複合施設として2018年に竣工。低層部には11スクリーン約2,200席の映画館と,約60店舗のショップ&レストランに加えて空中庭園を,地上35階におよぶ高層部にはオフィスを備えている。

構造的難所のひとつは,ショップ&レストランエリアの中心にある優雅な吹抜け空間にあった。S造とRC造の長所を掛け合わせた高強度のCFT(コンクリート充填鋼管)構造を地上階に採用し,6階の中間部から9階にかけて逆V字の巨大架構(トランスファー架構)を設けることで,高層階を支えながら低層階に柱のない吹抜け空間を実現。建物の複合用途を叶える合理的な建築構造となっている。

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図版:東京ミッドタウン日比谷外観

東京ミッドタウン日比谷外観

図版:断面図

断面図

東京ミッドタウン日比谷

場所:
東京都千代田区
発注者:
三井不動産
マスターデザインアーキテクト:
ホプキンス・アーキテクツ
都市計画・基本設計・デザイン監修:
日建設計
実施設計・監理:
当社建築設計本部
用途:
オフィス,商業施設,映画館
規模:
CFT・RC・SRC造(制震構造) B4,35F,PH1F 広場関連施設―RC造 B2,2F
総延べ192,847m2
工期:
2015年1月〜2018年2月
(東京建築支店施工)

地震に対しては,超高層の安全・安心を支える制震技術を導入している。設計用地震動として,レベル1,レベル2**に加え,レベル2地震動より大きな「告示波レベル2の1.5倍の地震動」と「東海・東南海・南海地震の3連動地震を対象とした長周期地震動」を設定した。想定を超えるレベルの大規模地震にも耐えうる,非常に高い耐震性能となっている。

対象の構造物の供用期間中に一度以上は受ける可能性が高い中地震

**対象の構造物の供用期間中に受ける可能性がある大地震

この高耐震を支えているのが,最新の制震オイルダンパ「HiDAX-R®」だ。先行技術である「HiDAX-e®」に,振動エネルギーを振動抑制エネルギーに変換する仕組みを新たに組み込み,振動の吸収効率を飛躍的に高めている。その特徴は,発生頻度の高い震度4~5クラスの揺れにおいて特に大きなエネルギー吸収能力を示す点にある。さらに長周期地震動に対しても,揺れ幅を小さく,揺れを早く収める効果が期待できる。大地震発生時の建物の耐震安全性のみならず,日々の安心性能をも向上し,ウェルネスを高める技術だ。東京ミッドタウン日比谷が初めての適用事例となった。

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図版:高性能オイルダンパHiDAX-Rを初適用

高性能オイルダンパHiDAX-Rを初適用
HiDAX-Rは発生頻度の高い震度4〜5クラスの地震や長周期地震動に強く,一般的な制震構造に比べて揺れ幅を半減,揺れの収束時間も大幅に短縮する。もちろん大地震時にも確実に効果を発揮する。東京ミッドタウン日比谷では階高の大きい1~6階にHiDAX-Rを集約配置。高層部にはフレーム剛性と耐力の向上を主目的に座屈拘束ブレースを設置した

制震構造の仕組み

図版:無対策

建物の地震に対する強さを一般的に「耐震性」というが,耐震性を高める方法には「耐震」「制震」「免震」の3つがある。
耐震構造が建物を硬く頑丈な構造として揺れに耐える考え方であるのに対して,制震構造はオイルダンパやTMDの力で揺れを吸収して小さくする方法で,しなやかに揺れに耐える。制震構造は特に高層ビルの上層階の大きな揺れを抑えるのに適しており,また,長周期振動の抑制に効果が高い

図版:ダンパ

ダンパとは地震の揺れに対して伸び縮みする装置。
オイルダンパは,ダンパ内のオイルが運動エネルギーを吸収し,熱エネルギーに変えて放出することで,効率的に建物の揺れを静める。日本初の本格的構造用オイルダンパ「HiDAM」を皮切りに,「HiDAX」,「HiDAX-e」「HiDAX-R」など,用途に応じた豊富なラインナップが開発されている。
HiDAX-eは従来型から耐力2倍となったモデルが今月プレスリリースとなった

図版:TMD

TMDとはTuned Mass Damperの略。
ダンパなどを介して建物に取りつけた錘(おもり)が,建物の揺れと反対に揺れることを利用して,揺れを打ち消し,建物の揺れを低減させる装置。
建物規模や用途に応じたTMDを取り揃えている

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高持続可能性の大型超高層集合住宅

タワーマンションが建ち並ぶ東京の湾岸エリア。2016年に竣工したKACHIDOKI THE TOWERは,勝どき5丁目地区の第一種市街地再開発事業の中核事業として計画された,高さ179m,地上53階,住戸数1,420戸の大型超高層住宅だ。その特徴的な平面形状は,風車型トライスターと呼ばれる3つのウイングをずらした形で,周辺地域への影響,各住戸の日照,プライバシー確保などの性能を高めるために考案された。

KACHIDOKI THE TOWER外観

KACHIDOKI THE TOWER

場所:
東京都中央区
発注者:
勝どき五丁目地区市街地再開発組合
総合コンサルタント:
都市ぷろ計画事務所
基本計画・工事監理:
佐藤総合計画
基本設計:
佐藤総合計画,当社建築設計本部
実施設計:
当社建築設計本部
用途:
共同住宅,店舗,事務所,公益施設
規模:
RC造一部S造(制震構造) 
B2,53F,PH1F 
延べ164,998m2 総戸数1,420戸
売主:
当社開発事業本部,
三井不動産レジデンシャル,
三菱地所レジデンス,
住友商事,野村不動産
工期:
2013年9月〜2016年12月
(東京建築支店施工)

集合住宅では騒音対策などの観点からRC造が選択されることが一般的だ。しかし,RC造の超高層はS造に比べて柱・梁などの構造部材が太くなる傾向にあり,使いにくい部屋の形を生んでしまうこともある。そこで,このKACHIDOKI THE TOWERでは,柱・梁といった構造架構を風車型トライスターの外周と内周に集約することで,各住戸部分にはほとんど梁の形が見えない空間を実現している。住戸内のみならず,複数住戸をつなげるリノベーションも容易になり,建物が使い続けられていくなかでの多様性を支える構造となっている。

外周フレームと内周フレームの間(スパン)は10m以上。この大スパンを梁なしで支えるのは,プレストレストハーフプレキャスト床版(FR板)である。工場での厳密な生産管理で得られる高強度・高品質と,現場施工の利点を組み合わせた合理的な構法だ。

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図版:図面

スマートな構造設計は地震対策にもいかんなく発揮されている。超高層建物は地震などで揺れる際,横方向に加えて上下方向の変形が発生する。この特徴を利用して,風車型トライスターの各ウイングを構造的に3つの細長い棟に分けるように,フレームを部分的に切り離し,ウイング間に変形のずれをつくり出す。そしてずれの生じる部分にオイルダンパ「HiDAM®」を配置し,効率的に制震効果を生み出す「VDコアフレーム構造®」としているのだ。

建物の部材同士を切り離し,あえて建物を柔らかくすることで,地震に強い建物をつくるという考え方は,国内での超高層ビル第一号となった霞が関ビルディングの構造設計にすでに見られている。制震構造は,建物にとっての脅威である地震に向き合い続けた先に見出した,建築構造の発明である。

図版:VDコアフレーム構造

VDコアフレーム構造
梁をスパン中央部で切断し,周辺スラブとも切り離している。こうしてできた構造の不連続部分を横断するかたちでオイルダンパ「HiDAM」を設置することで,地震や強風時の建物揺れを効率的に制御する合理的な制震構造となっている。
HiDAMは1995年に日本で初めての本格的な構造用オイルダンパとして開発。現在も多くの制震構造に採用されている。シンプルな構造で優れた振動減衰効果を発揮する

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