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KAJIMAダイジェスト

ICT施工最前線 大分川ダム建設工事

当社は次世代の建設生産システムの確立を目指し,土木工事におけるICT施工の普及に積極的に取り組んでいる。
その現場のひとつが,大分県大分市で施工中の「大分川ダム建設工事」だ。

ダム建設の各種プロセスにICTを導入・活用することで,生産性のさらなる向上と,品質確保,安全強化を図る。
巨大ダムサイトで展開するICTの数々とその開発・実用化に挑戦する人々に迫る。

CIM・ICT施工の取組みフロー

図版:CIM・ICT施工の取組みフロー

写真:大分川ダム

大分川ダム 写真:大村拓也

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図版:堤体断面図

堤体断面図

工事概要 大分川ダム建設工事

場所:
大分県大分市
発注者:
国土交通省九州地方整備局
設計:
建設技術研究所,八千代エンジニヤリング
用途:
多目的ダム
規模:
中央コア型ロックフィルダム
堤高91.6m 堤頂長496.2m 堤体積3,781,000m3
工期:
2013年9月~2019年3月

(九州支店JV施工)

Ⅰ ICTと鹿島版CIM

3次元による“見える化”

写真:奈須野 恭伸 所長

九州支店
大分川ダム建設JV工事事務所
奈須野 恭伸 所長

国土交通省九州地方整備局が進める「大分川ダム建設工事」は,堤高91.6m,堤頂長496.2m,堤体積378万1,000m3,総貯水容量2,400万m3の中央コア型ロックフィルダムを建設する。当社JV施工により2013年9月に着工。2018年の試験湛水を目標に工事が行われている。

ダムサイトは,約20万m2におよぶ広大な建設地を基点に南西1.5kmに原石山,西南西4kmには材料山とそれに隣接する土捨場やストックヤードが配置され,作業エリアは広範囲にわたる。工事は基礎掘削にはじまり,岩石や土質材料などを盛り立てて造るダム堤体の盛立工事を中心に,監査廊・洪水吐・取水放流設備などのコンクリート構造物の施工,その他工事用道路の整備や仮設備工,法面工など,様々な工種の作業が同時進行で行われている。

「ダムは構造物のスケールが大きいため,それに関わる人や重機の数,資材の量も膨大です。施工・品質・安全の管理,さらに生産性向上を図るためにはICTの活用が不可欠です」。当現場を率いる奈須野恭伸所長は,宮ヶ瀬ダム(神奈川県愛甲郡清川村)・嘉瀬川ダム(佐賀県佐賀市)・第二浜田ダム(島根県浜田市)をはじめ大規模造成工事などで培った豊富な現場経験を活かし,当現場においてICTを駆使した土木の新たな生産システムの確立を目指す。その中枢を担うのがCIMの活用だ。

CIMは,コンピュータ上に作成した構造物の3D(次元)モデルに,工事に関する様々な情報を盛り込み一元管理できるデータベースを構築し,設計・施工から将来の維持管理までのあらゆる工程で情報活用していくソリューションを示す。現在,土木界全体で,その整備・普及に積極的な取組みをスタートさせている。

当現場では,発注者が作成した2次元の設計図面を3次元化し,材料や地質データをはじめ施工で得られた各種情報を追加・更新し,クラウド上で発注者・コンサルタント・施工者が共有している。一元管理された各種データは,〈設計照査・施工計画〉〈施工管理〉〈品質管理〉〈出来形・出来高管理〉〈維持管理〉の各フェーズにおいて迅速にフィードバックでき,ICT施工と相互連携しながら活用されている。

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「20年以上さかのぼる宮ヶ瀬ダム建設の時代から,当社は業界に先駆け3D-CADを活用し,ダムの設計・施工情報を管理しています。構造物などの情報が3次元で可視化できるため,構造物の相互干渉や2次元の設計図面では表現困難な箇所の確認が容易で,施工計画の精度が格段に向上し,省力化にもつながります。3次元のバーチャルな世界は,発注者との検討業務においても説得力のある説明ができ,近隣への工事説明や作業員への指示出しにも非常に有効なツールです」。

CIM-設計照査・施工計画シミュレーション

着工前に設計情報をもとに3Dモデルを構築。堤体内の構造物を3次元で可視化することで,相互干渉や2次元では表現困難な箇所の確認が容易になる。3次元的位置関係を事前確認することで,施工待ちや作業の手戻りが解消される。施工段階では施工方法・施工結果の妥当性確認に有効。

図版:CIM-設計照査・施工計画シミュレーション

CIM-数量算出(材料別土量調査)

原石山の地質図を3Dモデル化し任意断面でスライスすると,設計と現地との乖離が瞬時に把握できる。このデータをもとに材料採取・廃棄量をシミュレーションし,無駄のない材料別土量算出を行う。

図版:CIM-数量算出(材料別土量調査)

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フィルダム版カルテシステム

当現場では,CIMのデータベースに蓄積された情報を活用し,「品質カルテシステム(盛立版・構造物版)」を構築した。このカルテは,堤体盛立とコンクリート構造物両者の日々の施工管理記録,打設・盛立情報,気象情報,品質管理記録などのデータを,Excelをベースにしたシステムで一括管理する。竣工後の維持管理への活用を前提に,発注者へデータを引き渡す予定となっている。

「あえて3次元情報をExcelで管理するのは,誰でも簡単に情報を閲覧できるようにするためです。土木界では3D-CADの環境整備・教育はまだまだこれからの状況にあります。CIMの普及が進めば,このカルテの可能性も格段に広がると思います。今後,施工動画や作業工程,コストなどの情報も有するシステムへと改良することで,維持管理用のツールとしてだけでなく,施工情報を集約したダム工事のマニュアルを蓄積するアーカイブ機能をもたせることも視野に入れています」。

品質カルテシステム(盛立版・構造物版)

CIMと連動させたExcelをベースに構築したシステムで維持管理に有効なカルテ内容。日々の施工管理記録,打設・盛立情報,気象情報,品質管理記録などの施工箇所別データが一元管理され,簡単操作でインプット・アウトプットが可能。

図版:品質カルテシステム(盛立版・構造物版)

カルテシステムの今後の進化に期待

写真:上本勝広 工事課長

九州支店 
大分川ダム建設JV工事事務所
上本勝広 工事課長

私はカルテシステムの運用管理を担当しています。コンクリートの品質管理は,第二浜田ダム(重力式コンクリートダム)でシステム化されました。フィルダムの土質管理への適用は当現場が初です。当社が独自に開発したこのシステムは,竣工後,発注者がダムの維持管理に有効利用できる情報を我々が取捨選択してつくったサービス内容です。

常に業界の一歩先を進む鹿島のダム施工の文化を継承すべく,新たに試みたカルテシステムが,発注者にどのように使われていくのか,是非評価をうかがいたいです。この取組みが,当社のCIMの発展にも貢献することを期待しています。

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土木現場の工場化

国土交通省は「i-Construction」と総称し,土工における「ICT技術の全面的な活用」,コンクリート工における「規格の標準化」を大きな柱に,土木現場の生産性向上への取組みを提唱している。当現場でもこれに準じ,CIMの活用,ドローンなどによる3D測量,ICT建設機械の開発・実用化など,ICT施工を拡充するとともに,コンクリート構造物(監査廊)のプレキャスト化や鉄筋のユニット化など,規格の標準化にも積極的にチャレンジしている。

「この現場には,新たなICT化・自動化などの可能性がまだまだ眠っており,開発検討を行っている最中です。究極の土木現場の姿は,製造業の生産ラインのように各工程で標準化された作業がシステマティックに行われるようになること。非常にハードルは高いですが,まずはルーティン作業の積極的なICT化を図り,熟練技能者の有無に左右されない一定の品質を確保し,生産性向上を図る施工体制を作り込んでいきたいですね」。

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