ホーム > KAJIMAダイジェスト > January 2023:特集 ジブリパークの「ものづくり」 > Scene 3 世界観をつくる

Scene 3 世界観をつくる

ここからは1期工事で完成した3エリア「青春の丘」「どんどこ森」「ジブリの大倉庫」の概要と,
「ものづくり」の見どころを詳しく紹介していく。

青春の丘

ランドマークとなるエレベーター塔

「青春の丘」は,愛・地球博記念公園北口からいちばん近い場所にある。来場者を出迎えるのが北口広場近くにある「エレベーター塔」。もともと公園に備えられていたエレベーターを改修したもので,『天空の城ラピュタ(1986年)』『ハウルの動く城(2004年)』などの作品に影響した「19世紀末の空想科学的世界観」をモチーフに新たに設計された。公園内の設備としてジブリパークよりも先行して昨年3月に供用開始。ランドマークとして開園前から話題を呼び,親しまれている。

図版

来場者を出迎える,
高さ約30mの「エレベーター塔」

photo: 川澄・小林研二写真事務所
改ページ

地球屋の造形

エレベーター塔から見下ろした斜面の木々の間から屋根が見える建物は「地球屋」。以前からそこにあったかのような,風景となじんだ姿が印象的だ。これは『耳をすませば(1995年)』に出てくる老人が営むアンティークショップを表現した木造一部RC造の3階建ての建物。外観のみならず内装の造作,家具調度にいたるまで丁寧につくり込まれており,まるで映画のワンシーンに潜り込んだかのような景色と造作を楽しめる。

たとえば煉瓦色の外壁に鉱物でできた岩絵具(いわえのぐ)で描かれる模様は,元の作画からCAD図面化することが困難で,宮崎吾朗監督自らペンを取り図面化したものを,壁画専門家がかたちにした。手描きの雰囲気が造形にさらに温かみを加えている。

地球屋の隣に佇むのは「猫の事務所」。猫のサイズに合わせてつくられたミニチュアの木造住宅だ。

図版

「地球屋」1,2階のテラスから公園内を
見渡すことができる

photo: 川澄・小林研二写真事務所
図版

「地球屋」のファサードと内観。
アニメーションに描かれた世界が表現されている

photo: 大村拓也
改ページ
図版

映画『耳をすませば』より

©1995 柊あおい / 集英社・Studio Ghibli・NH
図版

「猫の事務所」(左)は窓から中を覗くと『猫の恩返し』のキャラクター,バロンとムタがくつろいでいる

photo(左): 大村拓也

【工事概要】

青春の丘

規模:
地球屋—木造・一部RC造 3F 
延べ約300m2
猫の事務所—木造 1F 延べ3m2
EV棟改修—S造 2F
工期:
2020年7月~2022年3月

どんどこ森

自然素材でつくられた木製遊具

愛知万博は「自然の叡智」をテーマに開催され,メイン会場となった愛・地球博記念公園はその理念と成果を引き継いでいる。そして自然環境に配慮し,緑豊かな公園内のジブリパークを感じられるひとつがこの「どんどこ森」である。

どんどこ森は公園北口から最も離れたエリアにあり,万博の際に建てられた「サツキとメイの家」をはじめ,『となりのトトロ(1988年)』の作品の世界観が集められている。ちょっとした登山気分でたどり着いた頂上に待つのが高さ約5mもの「どんどこ堂」。広く知られたキャラクター「トトロ」のかたちを模した木製遊具は,ほぼ自然素材でつくられており,小学生以下の子どもが中に入れるようになっている。

製作にあたっては「サツキとメイの家」の施工を行った工作舎中村建築と協働し,宮崎吾朗監督の原画を基に型取りするところから始まった。愛知県産の木材を使用した骨組みに,竹小舞の下地を組み,土塗りで胴体がつくられている。身体の色合いは,顔料を入れずに自然の土で発色させることにこだわり,全国各地の土を取り寄せて何度となく試験塗りを行った。淡く優しい青色は淡路の「浅葱土」,お腹の黄色は「豊田の土」を使うことで,親しみやすい風合いとなった。またヒゲや爪は刃物をつくる鍛冶職人が刀造りの技法で鉄を叩き造形されている。木造の遊具としての性能を保ちつつ,細かな意匠の実現を目指した。

陶器でつくられた鼻や目などの各パーツ,胸部分にある“毛並み”の位置から爪の角度まで,宮崎吾朗監督と入念に詰められた愛らしい遊具が完成している。

改ページ

裏山の頂上にあるどんどこ堂。
コナラなどの木に囲まれた緑溢れる場所

photo: 川澄・小林研二写真事務所
図版

竹小舞に下地である荒壁を塗っているところ

図版

お腹と毛並みの位置出しをした後,毛並み部分を塗る

図版

ヒゲと爪は鍛冶職人が叩いて造形

図版

子どもが入って遊べる。遊具の内部は白木で組み上げられ,入ると木の香りに包まれる

改ページ
図版

「どんどこ堂」へは100段の階段を上るちょっとした山登りコースとなっており(上),スロープカーも整備されている(下)。

photo: 川澄・小林研二写真事務所
図版

園内ところどころの木製誘導サインの文字は,書道の腕が立つ細川英樹工事課長によるもの。「気楽に書いてください」と宮崎吾朗監督に言われたが,何度も書き直したそうだ

【工事概要】

どんどこ森

規模:
サブゲート棟増築—木造 1F 
延べ12m2
管理棟—木造 1F 33m2
どんどこ売店 木造 1F 5m2
造園—どんどこ堂(遊具),
スロープカー,ゲートほか
工期:
2020年7月~2022年3月

©Studio Ghibli

ContentsJanuary 2023

ホーム > KAJIMAダイジェスト > January 2023:特集 ジブリパークの「ものづくり」 > Scene 3 世界観をつくる

ページの先頭へ