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環七通りの直上直下で

小田急小田原線代々木上原駅~梅ヶ丘駅間 線増連続立体交差工事〔土木・第5工区〕

電鉄各社が「通勤ラッシュ」や「開かずの踏切」の解決に力を注いでいる。
そのなかで,小田急電鉄と東京都では車内混雑の緩和と交通渋滞の解消に向けた事業を行ってきた。
小田原線代々木上原駅~梅ヶ丘駅間の複々線化と連続立体交差化は,その集大成ともいえる事業。
より快適な車内,より快適な街へ。当社が担当する第5工区も,工事の佳境を迎えている。

地図

工事概要

小田急小田原線代々木上原駅~梅ヶ丘駅間
線増連続立体交差工事〔土木・第5工区〕

場所:
東京都世田谷区
発注者:
小田急電鉄
設計:
トーニチコンサルタント
規模:
施工延長451m 開削区間406m
非開削区間45m(R&C工法)
工期:
2004年9月~2014年3月(予定)

(東京土木支店JV施工)

図

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住宅街と環七通り

新宿~小田原間の82.5kmをつなぐ小田急小田原線。新宿駅から各駅停車に乗ると,12分ほどで世田谷代田駅に到着する。次の停車駅・梅ヶ丘駅までは約600m。途中,線路は東京都道318号環状七号線(環七通り)をまたぎ,世田谷の閑静な住宅街を通って梅ヶ丘駅に到着する。このうち451mの区間を地下化して複々線化するため,当社JVは営業線直下で工事を行っている。

写真:現場周辺は閑静な住宅街

現場周辺は閑静な住宅街

写真:環七通りをまたいで走る列車。工事完成で地下化される

環七通りをまたいで走る列車。工事完成で地下化される

掘割開削区間が406m。梅ヶ丘駅から新宿方面に向かって,下るように勾配をつけながら営業線直下を開削していく。営業線近接部分は列車への影響から工事ができないため,営業線の南側に仮設線路を構築し,線路を切り替えた。環七通りの下を通る45m区間は,道路交通に支障をきたすうえに,地下埋設物が多く開削することができない。発進・到達立坑構築後,延長45m・外径約8m×約10.5mの大断面推進トンネルを施工する。トンネルは2本。1期・2期に分けて構築が進められる。

閑静な住宅街で行われるこの工事では,道路交通と鉄道営業線への影響を抑え,近隣住民にも配慮した施工が必要になる。「近接した住宅や周辺交通への配慮。難しい条件は山積している」というのは,現場を統括する木元清敏所長。制約条件を一つひとつ丁寧にクリアしながら工事を進めてきた。

現在,環七通りの下では2本目の推進トンネルが施工されている。一方,開削部では線路下の掘削工事が完了。本体コンクリートを順次打設している。

写真:木元清敏所長

木元清敏所長

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開削工事のステップ図

図:開削工事のステップ図

環七直下の施工

環七通りは,1日約7万台の車両が通行する東京の大動脈。この直下を横断して推進トンネルを施工する。環七通りの下には,直径約3mの水道管など多くの地下埋設物が存在するため,埋設物と交通への影響から地盤の隆起・沈下を抑える必要があった。許容される範囲は15mm以内。施工に使用した地中の仮設物は全て撤去しなければならない。厳しい要求を満たすのが,R&C(Roof & Culvert/ルーフ&カルバート)工法だった。

写真:箱形ルーフの施工が完了(1期施工)

箱形ルーフの施工が完了(1期施工)

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この工法は,まず立坑から地中に箱形ルーフと呼ばれる角形鋼管を並べてトンネル構造物外形と同じ大きさ・形になるように圧入し,埋設物を防護する。次に角形鋼管とトンネル構造物を置き換えるように,掘削しながら構造物をジャッキで押し込んでいく。押し込まれた分だけ角形鋼管が到達立坑で撤去されていくため,道路下に残置物が発生しない。

写真:施工状況。角形鋼管を圧入していく(1期施工)

施工状況。角形鋼管を圧入していく(1期施工)

写真:鋼材で覆われた合成セグメントを組んで, トンネルを構築

鋼材で覆われた合成セグメントを組んで, トンネルを構築

図:R&C工法のイメージ図

R&C工法のイメージ図

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推進トンネルの構造物は通常,現場でコンクリートを打設して構築するが,ここでは現場養生がいらない合成セグメントを採用した。コンクリートの強度が出るまでの期間に,内部が不安定になり地盤沈下が起きる可能性があるためで,R&C工法では初の試みとなる。工程が短縮され,鋼材で覆われた合成セグメントは躯体をスリム化させる。「当社工区の工程を前倒しすることで,他工区の乗り入れも早まる」と工事を指揮する永谷英基工事課長代理は事業全体に波及する効果を強調する。

施工がはじまると予想より地下水量が多いことがわかった。水ガラス系の薬剤を注入する地盤改良で,出水と地盤沈下を抑える。改良しすぎると地盤がふくらみ隆起してしまうため,完全には改良できない。沈下と隆起のバランスを調整し,出水の可能性を見据えながらの施工が行われた。「怖いのは,水だけではなく,水が砂を引っ張ってくること」と工事を担当する工藤耕一工事課長代理。土砂が流出することで,トンネル崩壊と地盤沈下の可能性がある。計測システムなどを駆使し工事が進められている。

写真:1期施工のトンネル函体

1期施工のトンネル函体

写真:永谷英基工事課長代理

永谷英基工事課長代理

写真:工藤耕一工事課長代理

工藤耕一工事課長代理

写真:発進立坑からみた推進トンネル。右側のトンネルが1期施工で2007年に完成したもの。左側の壁面をR&C工法で, 2期施工としてこれから施工していく

発進立坑からみた推進トンネル。右側のトンネルが1期施工で2007年に完成したもの。左側の壁面をR&C工法で, 2期施工としてこれから施工していく

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1時間の通行止め,1年間の準備期間

工事が進むなか,線路切替えの準備も行われていた。環七通りをまたぐように仮設橋梁を架けなければならない。道路占用ができないため,44mの工事桁を「手延べ送り出し工法」で架設することになった。自重でたわまないように,桁の先端にトラス構造の軽い手延べ機を取り付けて送り出す。

「工事前半の大きな山場だった」と監理技術者の大内健工事課長代理は振り返る。万が一,桁が落下した場合に備え,環七通りの通行止めを行う。送り出し時間は,約1時間。そのために,架設のおよそ1年前から準備をはじめた。

できる限り交通量の少ない時間帯を選定し,綿密なサイクルタイムを練り上げる。警察と協議を続け,70名ほどの交通誘導員と全職員で,何度もリハーサルを繰り返した。「トラックやタクシーなど各業界団体にも通行止めの連絡を行い,混乱が生じないよう努めた」と大内工事課長代理。ラジオの交通情報にもアナウンスを依頼したという。

2008年1月20日未明,周到な準備の成果で混乱することなく工事を完了した。「大丈夫と思いながら,手延べ機が届いた瞬間は,やはりほっとした」(大内工事課長代理)。

写真:大内健工事課長代理

大内健工事課長代理

写真:仮設橋梁を架設。環七通りでは通行止めが行われた

仮設橋梁を架設。環七通りでは通行止めが行われた

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事業者の目線に立って

工事がはじまってから6年が経つ。「事業者の目線で工事を進めることを心掛けてきた」という木元所長。安全・品質管理はもちろん,周辺住民や環境への配慮など事業者をサポートできることがないか常に考えているという。技術提案でも,掘削土の再利用や残土運搬用ベルトコンベアの使用,防音壁の構築など,環境や近隣住民に配慮した提案を行ってきた。「時代とともに求められるものは変化していく。いかに対応していくか」と木元所長。時代の要求を察知1期施工のトンネル函体することの重要性を説く。

木元所長が鉄道工事に従事しておよそ20年。そのうち,小田急小田原線の工事には16年携わっている。長い年月で培われた事業者との強い信頼関係と工事への思い。工事完成へのこだわりも自然と強くなる。「この工事は,事業者が力を注いできた事業の集大成。長年携わってきたからこそ,プラスアルファの成果を出したい」。

工事の早期完了をめざし,現場では日夜作業が進められている。

写真:現在行われている推進トンネル構築2期施工の様子

現在行われている推進トンネル構築2期施工の様子

写真:現場職員の集合写真。開削部地下で

現場職員の集合写真。開削部地下で

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