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現場特性に応じた取組み

現場ごとに条件が異なる中で肝要なのは,その現場に合わせた業務効率化である。
ここからは,所長自ら旗振り役となり,現場に合うツールを一つひとつ組み合わせ,
コツコツと成果を積み上げる現場の今をレポートする。

CASE 1 令和3年度中部縦貫下切高架橋PC上部工事

現場全景

【工事概要】

場所:
岐阜県高山市
発注者:
国土交通省中部地方整備局
規模:
橋長276m 幅員11.5m
PC3経間連続ラーメン箱桁橋
工期:
2022年3月~2024年2月(予定)

(中部支店施工)

中部縦貫自動車道は長野県松本市を起点とし,岐阜県高山市を経由して福井県福井市に至る総延長約160kmの高速道路。
現在建設中の丹生川IC(仮称)から高山ICの区間のうち,当社は岐阜県高山市の一級河川宮川上空に,最大支間長130mのPC橋を片持ち架設工法にて構築中。

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失敗しても改善し,それを繰り返す

当工事では発注条件に完全週休2日が指定され,夏季休暇や年末年始休暇への指定もある。休暇をしっかりと取得し,労働時間を管理する必要がある。

現場の指揮を執るのは,これまで6つの橋梁工事を担当してきた,経験豊富な伊藤彰晃所長。2018年に当社土木管理本部(以下,土管本)が主導する生産性向上推進タスクフォースのメンバーとしてシリコンバレーで最先端の技術とデザイン思考を体験し,「失敗しても改善し,それを繰り返してステップアップするという発想が印象的でした」と自らも新しい取組みに積極的にチャレンジする。

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伊藤彰晃所長

土管本推奨のICTツールをフル活用

土管本生産性推進部では現場で役立つICTツールを公開し,現場の業務効率化や労働時間削減を支援している。2023年6月時点で,推奨のレベルに応じ「標準ツール」8個,「推奨ツール」17個,「任意ツール」14個を展開する。

当工事では伊藤所長主導のもと,土管本や支店が独自に推奨するツールを10個以上導入し,そのツールが備える機能を存分に活用している。例えば土木現場での導入が進む施工管理ツール「デキスパート」は,スマートデバイスアプリの「SiteBox」で写真撮影や出来形値・品質管理値を入力するだけで,簡単に写真が仕分けられ,各種提出帳票(一覧表,管理図表など)ができ上がる。この仕組みを最大限に活用している。

毛利浩二工事課長と宮下直幸工事課長代理は「デキスパートや工程’s(工程管理ツール),KMS(作業間連絡調整会議システム)などのツールを使いこなせれば,圧倒的に効率が良い」と,隙間時間の有効活用が内業時間削減の鍵になることを強調する。

土管本生産性推進部でICTツール活用支援を担当する門脇裕介主任は「個々の現場の特徴やニーズの本質をとらえた上で,既存ツールの活用フォローや新規ツールの導入支援を行っていきたい」と,専門性を発揮し,現場に寄り添いたいと語る。

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左から門脇主任,宮下工事課長代理,毛利工事課長。
門脇主任は現場のICTツール活用状況に太鼓判を押す

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AI配筋検査システムを導入

伊藤所長は配筋検査の自主検査時に推奨ツール「AI配筋検査システム」を導入した。専用端末で配筋を撮影すると,AIによる処理で鉄筋径・鉄筋ピッチ・本数が自動で判別される。これまでの鉄筋検査では,マーキング用のマグネットと検尺ロッドを置いた上で記録を残していたが,その手間が無くなった。

現場で施工管理を担う竹村雅志工事担当は,片持ち架設の1ブロックで約半日程度かかっていた作業が,1時間程度にまで削減できたという。「専用端末への事前入力など事務作業は多少増えましたが,それを差し引いても作業時間は半分以上減り,助かっています」。

図版:竹村工事担当のAI配筋検査時の様子

竹村工事担当のAI配筋検査時の様子

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CASE 2 富山環境整備平等処分場建設工事(1-1工区)

現場全景

【工事概要】

場所:
富山県富山市
発注者:
富山環境整備
設計:
当社北陸支店土木部
規模:
立容量1,630,000m3 
伐根工269,000m2
切土工1,050,000m3 
盛土工288,000m3
調整池工:
1,444m3 貯留堰堤工3,317m3
遮水工53,408m2
工期:
2020年9月~2025年8月(予定)

(北陸支店施工)

既存の管理型最終処分場の隣接地に新規で埋立容量
163万m3の管理型最終処分場を建設するもの。
新規の処分場は1-1工区と1-2工区に分けられ,当工事では2026年春開業を目指す1-1工区の施工を進めている。計画されている全工区の完成後は日本最大級の大きさの処分場となる。

とにかく試してみよう

現場を率いる間中弘之所長は,とにかく「試してガッテン」の精神で多くのICTツールを現場に取り入れている。間中所長も土管本在籍時に生産性向上推進タスクフォースのメンバーとしてシリコンバレーを訪れた。「意識が変わりました」と心境の変化を語るとともに,当時のメンバーとのつながりが財産になっていると言う。また現場での取組みは「次席の工事課長,機電課長が同じ思いで推進してくれています」と所員の協力あってのものと強調する。

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間中弘之所長

施工管理社員のテレワーク

間中所長は施工管理を担当する所員に,実施が難しいとされてきたテレワークを活用してみるよう呼びかけてきた。

現場の状況把握は,現場に設置された11台のWebカメラや気象管理ツールを活用する。Webカメラで映し出される画像は施工範囲がほぼ網羅され,拡大しても鮮明に表示される。現場への指示には社員,協力会社が随時確認可能なビジネスチャットツールを利用し,会議や打合せにはTeamsで参加する。作業間連絡調整会議後の帳票は,KMSで確認すると確認欄に自動で署名される。間中所長をはじめとする所員は,これらのツールを駆使することで,現場の遠隔管理にチャレンジしている。「当然,現地で現物の確認も大事ですが,魅力ある建設業のためにワークライフバランスに配慮した取組みも大切です」。

図版:ICT重機の運転席モニタ

ICT重機の運転席モニタ

図版:朝礼看板にデジタルサイネージを設置

朝礼看板にデジタルサイネージを設置。
スマホの画面もミラーリングできる

図版:事務所での作業間連絡調整会議

事務所での作業間連絡調整会議。遠隔にある詰所へも配信する。
左から指摘事項をスマホからミラーリングする画面,重機と人の位置などを見える化するFieldBrowser,KMS(作業間連絡調整会議システム)

測量(丁張)を削減

間中所長は,土管本生産性推進部が毎月開催するBIM/CIMマネージャー講習(本社研修3週間)に,冬期の施工量が落ち着く時期を見計らい,若手社員(当現場から4名が受講済)が受講できるよう調整する。

施工管理を担当する村川はるみ工事主任もBIM/CIMマネージャー講習を受けたひとりだ。ここで得たBIM/CIMスキルも活かし3DモデルをICT重機に取り込み,運転席モニタに表示される情報をもとに重機オペレーターが整形。このICT重機を使用することで,当社社員の丁張の手間がほぼ無くなった。さらに,3Dモデルにより工事関係者同士でイメージ共有もしやすくなっているという。

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村川工事主任。様々な取組みについて「遠隔でできる仕事が増えてきたので,社員の働き方の多様性につながる」と歓迎する

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現場独自に構築・運用する
クラウドを用いた
品質管理記録システム

当工事では社有技術のSPミキサーを用いたセメント改良土製造設備を使用して,セメント改良土を製造している。この製造や改良土盛土においては,母材品質,改良土製造量,セメント使用量や盛土品質データなど多岐にわたるデータを取得・整理することが求められ多大な労力を要する。

そこで製造状況,母材の品質管理,セメント貯蔵量と使用量の可視化,セメント残量アラート・出庫メールの自動通知や製造日報の自動作成が行えるシステムをクラウドプラットフォーム上に構築し,管理・運用している。

現場設置のカメラや気象データサービスとも連携され,カメラは設定時間に定点写真が自動で保存されるシステムとした。また,当社で初導入となる,改良土母材の含水比の連続測定状況や母材のAI画像粒度モニタリングも閲覧することができる。

運用当初は改善の余地も多くあったが,クラウドと管理項目の未連携部分や,発注者への報告項目の追加に対応するためのフォーマット変更対応など,運用と並行してバージョンアップを図っている。現在ではクラウド型業務支援ソフトを用いることで,製造日報に記載されるすべての項目がクラウドプラットフォーム上で一元管理できるようになり,製造日報作成に要する時間が1/3に短縮するなどの大きな効果が得られている。

図版:セメント改良土の品質管理記録状況

セメント改良土の品質管理記録状況

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CASE 3 (仮称)GFS計画

田村充所長

【工事概要】

場所:
横浜市戸塚区
発注者:
日立リアルエステートパートナーズ,
当社開発事業本部
設計:
当社横浜支店建築設計部
用途:
共同住宅(分譲マンション)
規模:
RC造 10F 204戸 延べ18,637m2
工期:
2022年4月~2023年12月(予定)

(横浜支店施工)

図版:完成予想パース

完成予想パース

本敷地および周辺敷地は日立製作所の研修施設跡地。2000年代から周辺エリアの再開発が進む。
本工事は総戸数204戸の分譲マンション「ヒルサイドフォレスト横浜戸塚」を建設する。

窓閉め確認の苦労

当工事を指揮する田村充所長は様々な用途の建物の建設に携わってきた。用途により工事の特殊性が異なる中で,マンションなどの住宅建設工事においては,特にサッシ取付け後の日々の窓閉め確認の苦労を痛感していた。そこで着工後間もなく,この確認作業の省力化を検討した。

取組みを支援したのは横浜支店建築部の鹿田康晴課長代理を中心とした現場先進ICT導入支援チーム。センサーのデータをキャッチし,そのデータをクラウドにあげる仕組みを提供する会社が多くある中,東京エレクトロンデバイス(以下,TED)のサービス(IoT INSIGHT CaaS)を採用した。「現場での運用のしやすさ,ローコスト,ノーコードでの画面作成機能が採用されていた点に加え,電源を要するデータ収集装置が少なくて済んだのが採用のポイントです」。

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1日50分以上の省力化

建物はN棟2棟とS棟2棟の計4棟からなる。開閉する窓の数は合計で約1,000枚にもおよぶ。現場では「窓遠隔開閉確認システム」をN棟のみに採用し,S棟は従来方式とすることでどれだけ省力化できるかを計測した。すると, 204戸全てに換算した場合,システムありの場合は1日22分,なしの場合は76分と,1日あたり50分以上の省力化につながることが実証された。

田村所長は「試作段階なので作り込みが大変でした。センサーの取付け箇所なども試行錯誤を重ねました」と苦労を語った。今回,開閉状況の画面は当社で作り込んだ。システム開発を担った現場先進ICT導入支援チームの後藤香奈恵担当は,神経を使う細かい作業で現場をサポート。「慎重に,集中して作業しました」とセンサー数百個のデータを一つひとつ手作業でシステムに紐づけていった。

実際に現場で窓の開閉確認を毎日行う大上崚太工事担当と高嶌夕陽工事担当は「センサーで閉まっていることが確認できている部屋は現地に行く必要がないのが大きい。内装が仕上がっている部屋は毎度靴を脱いで上履きに履き替えるので,それだけでも時間がかかります」。これまで見過ごされてきた労力の省力化が進んでいる。

図版:窓遠隔開閉確認システム概要

窓遠隔開閉確認システム概要

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図版:省力化の効果が高かった内装管理システム概要

省力化の効果が高かった内装管理システム概要。各部屋の進捗状況を協力会社に入力してもらい進捗確認を一元管理し省力化。そのほか当現場ではパソコンで仮設電気の入切を管理できる自動消灯システムが役立ったという

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前列左から高嶌工事担当,田村所長,大上工事担当,後列左から鹿田課長代理,後藤担当,TED藤川氏,TED梶原氏

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サポートしていただいた
東京エレクトロンデバイスさんから

藤川昌之
EC BU クラウドIoT カンパニー
エッジクラウドソリューション部
プロダクトセールス

多くの会社からDX案件のご相談をいただく中で,物売りとしてのベンダーではなく,パートナー企業として課題解決に向けて二人三脚で力を合わせて活動させていただいています。関係者一丸となり,いろいろと考え,改善し現場の方が使いやすい形で作り上げたというのが特徴的で印象に残っています。

梶原隆志
EC BU クラウドIoT カンパニー
エッジクラウドソリューション部

ノーコードローコードと言っても,ある程度のITリテラシーは必要で,そのハードルを乗り越えられないと開発がベンダーへ丸投げとなり,その分コストもかかってしまいます。今回はスキルを備え,現場との間を取り持ってくれる方が鹿島さんにいらっしゃったということがうまくいったポイントのひとつだと思います。

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CASE 4 カーボンニュートラル促進のための国際標準・認証拠点整備事業

森脇徹所長

【工事概要】

場所:
大阪市住之江区
発注者:
独立行政法人
製品評価技術基盤機構(NITE)
設計:
当社関西支店建築設計部
用途:
研究施設
規模:
RC造 2F 延べ1,245m2
工期:
2023年2月~2024年3月(予定)

(関西支店施工)

図版:完成予想パース

完成予想パース

当工事は経済産業省管下のNITEにおいて,蓄電池分野における我が国の産業競争力強化を目的に,実験棟を建築するもの。近年EV車等に搭載される全個体電池の実用化を目指したメーカーの開発のため,試験需要増加に伴い計画された。

スマートアシスタントの活躍

当社関西支店では建築部生産推進サポートグループが中心となり,業務の削減,効率化,アウトソーシングの推進に取り組み,先駆的な施策を推し進める。現場業務のアウトソーシングを目的として新設したスマートアシスタント(以下,SA)もそのひとつで,関西支店管下の現場では2023年6月時点で34名のSAが活用されている。

SAの主な業務内容は「検査記録写真の撮影」「現場ICTツール導入の先導役」を2本の柱とし,安全看板の整備,Buildeeによる入退場管理のサポート,ドローン写真撮影などを行う。建築系社員の一部業務を担うが,建築技術に関する専門知識は不問であることも特徴のひとつ。支店での送り出し教育,年3回程度の集合研修などを通して,業務上必要なスキルを一から身につけていく。

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なくてはならない存在

多くのICTツールを導入しながら現場を取り仕切る森脇徹所長は,SAについて「ICTツールの普及とともに存在が際立ってきました。社員だけではカバーが難しい業務を担ってもらい,現場になくてはならない存在です」と信頼を置く。ICTツールは導入時に負荷がかかり,運用までに多くの時間を要する。現場を担う最前線の社員は,従来業務で繁忙を極める中,新しいツールにも時間を費やすのは難しい。導入負荷低減,継続運用をサポートする場面でSAはますます活躍が期待される。

現場の次席で,SAの教育担当でもある篠原慎司工事課長はSA活用2現場目となる。「現場で活用を探りながら,築き上げたノウハウもあります。今では特に若手社員の負担軽減につながっています」と話す。森脇所長も篠原工事課長も「非常に助かっています」と口を揃え,SAの活躍を歓迎する。

図版

SAの原さんと篠原工事課長。取材中,原さんには電話が何度も
かかってきていたことからも活躍がうかがえた

photo: takuya omura

ICTツールの知識を深めて
バランスをとりたい

SAとして今回が3現場目の原いずみさん(当社グループ会社OneTeam所属)。SAになる前は,ショップ店員や建設会社での事務・CADオペなどを経験してきた。現在は,2本の柱の業務ほか,デジタルサイネージの掲示データの作成,ドローンでの定点撮影を行っている。当現場では新たに,当支店で初導入となる鉄筋検査帳票作成ツールの運用やそれに派生するベンダーとのシステム開発の窓口業務なども担う。原さんは「現場の皆さんは建設の知識があるのは当然ですが,ICTツールにまでは手が回らない方も多いと思います。自分がICTツールの知識を深めることで皆さんの負担軽減につながり,組織のバランスも良くなればと思います」と,特にICTツール関連の支援にやりがいを感じているという。また「業務上の疑問などは支店の生産推進サポートグループに相談をしています」と支店の支援体制が整っていることが働きやすさにつながっていると話す。

図版

K-mobile内のアプリの使い方を職長さんにレクチャー

photo: takuya omura

図版

配筋検査記録写真の撮影。担当業務を限定し,メイン業務に集中させることでSAの習熟スピードアップ,即戦力化を図る

photo: takuya omura

ContentsOctober 2023

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