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鹿島出版会

創業60年 出版事業を通じて文化の向上に寄与する

株式会社 鹿島出版会
東京都中央区銀座6-17-1
銀座6丁目-SQUARE 7階
Tel.03-6264-2301
HP: https://kajima-publishing.co.jp/

建設業からの文化発信

1963(昭和38)年,鹿島守之助会長(当時)が設立した鹿島出版会(以下,出版会)は,今年で創業60 周年を迎えた。

これまでに刊行された書籍の点数は3,000点以上。とりわけ「黒い本」として親しまれる『SD選書』シリーズは,近代建築の巨匠ル・コルビュジエの『建築をめざして』など数々の著作の邦訳や,槇文彦氏の『見えがくれする都市』など,時代を超えて読み継がれる多くの書籍を収める。黒いカバー,手に取りやすいサイズのソリッドなたたずまいを伴って,建築分野で誰もが知る定番書の地位を確立。シリーズ総数は現在270冊を超える。

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図版:出版会刊行の書籍,中央の黒いカバーがSD選書

出版会刊行の書籍,中央の黒いカバーがSD選書

図版:「黒い本」として親しまれるSD選書シリーズは現在274巻を数える

「黒い本」として親しまれるSD選書シリーズは現在274巻を数える

また建築家の思想や作品の紹介,都市・まちづくり,環境,建築・土木分野の材料や構造,施工などの技術書に至るまでテーマを網羅した単行本は,初学者から専門家までの幅広い読者を獲得してきた。大学の授業などで手に取ってきた読者もいることだろう。

一方,出版物の編集制作事業で蓄積してきたノウハウを活かし,書籍や大学案内のパンフレットなどの受託事業にも力を注ぐ。鹿島および関係会社の社史などの制作物,加えて本誌社内報KAJIMAの連載ページや,特集記事などの制作も鹿島と共同で担っている。このように鹿島グループの社内制作物にも広く関わる。

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図版:受託事業で制作した社史や報告書,パンフレットなど

受託事業で制作した社史や報告書,パンフレットなど

外交・経営から建築文化へ
――鹿島家の思い

創業者の鹿島守之助会長は,「出版事業を通じて文化の向上に寄与したい」との基本理念を掲げ,「良書刊行第一」の思いで,氏の研究分野であった国際政治・外交関連書から経営書,なかでも6年余の歳月を費やした大著『日本外交史(全38巻)』や汎ヨーロッパ連合を提唱したクーデンホーフ・カレルギーの全集(全9巻)などを出版。また美術分野に造詣の深かった卯女名誉会長翻訳によるイタリア人画家の画伝『シモーネ・マルティーニ』も国内外から評価を受け,美術関連書,児童書など幅広く出版を手がけた。

その後,「建築は文化である」との鹿島昭一当時副社長の理念のもと,海外の名著の翻訳を嚆矢として,建築・土木系の工学書が充実されていった。昭一副社長との定例の企画会議は闊達な議論であふれ,その成果が出版物として生み出された。こうして業界で一定の評価を得た専門出版社として歩んできたのである。

時代をつくった月刊誌

出版会の代名詞と言えるのが月刊誌『SD(スペースデザイン)』(現在は年刊)。1965年,鹿島昭一副社長の発案により創刊された同誌は,建築・都市・芸術分野の新しいフィールドを開拓するため,ブレーンとして新進気鋭の建築家,デザイナー,評論家が編集顧問として参加。既成の学問・芸術のジャンルにとらわれることなく, 建築や美術を本質的なデザインとして総合的に見ていこうとする編集姿勢は反響を呼び,建築メディア分野に大きな足跡を残している。

また,現在も建築界で語り継がれる月刊誌『都市住宅』は,文化や都市問題,時に哲学的な視点で住宅を特集する意欲的な雑誌だった(現在は休刊)。豊富な設計図面が学生や設計者のマストアイテムとなっていたという世界の集合住宅特集や,住宅建築の世界を縦横無尽に読み解く意欲的な理論が,日本の建築家の隆盛を支えたと言っても過言ではない。表紙には建築家・磯崎新氏が選んだ住宅を,デザイナー杉浦康平氏が「飛び出す」仕掛けの立体作図にして創刊号から連載するなど,そのラディカルな編集方針もファンを生み出した。

月刊誌と平行して続々と刊行された単行本は,建築家による著作集や,海外建築家の思想や作品を紹介する翻訳書など,のちに定本として今日まで参照され続けるものも多い。また鹿島との連携により,社員が著訳者となった本も多数ある。加えて鹿島の土木,建築の最新技術を紹介し,その啓蒙の役割を果たすなど,ゼネコンのなかで唯一「版元」をもつ強みを活かしてきた。

こうした一連の出版活動が評価され,1990年,出版会は日本建築学会文化賞を受賞。「建築文化のより高次元への発展を目指さなければならない今日,鹿島出版会はその先導的役割を果たしてきた」との評を受けた。

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図版

右下から反時計回りに,『SD』創刊号(65年1月号),鹿島昭一副社長(当時)が推したという黄色のカバーが印象的な同年2月号,現代建築家を特集した白井晟一特集(76年1月号),
建築技術を多様な視点でひもといた「ハイテック・スタイル」(85年1月号),
畠山直哉氏ら気鋭の写真家が土木風景を写した「テクノスケープ」特集号(95年4月号)

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1968年創刊の『都市住宅』。
表紙は磯崎新氏と杉浦康平氏の合作「8月爆発号」(中央,68年8月号),
世界の住宅の流行を網羅した「ファッション・ブック」(奥,72年3月号),
特集号はつねに人気だったという「建築家の自邸:海外編」(左,83年7月号)

40年以上にわたる建築コンクール

出版会のもうひとつの顔が,今年で41回目を迎える建築コンクール「SDレビュー」である。これは,米国雑誌Progressive Architectureが行っていたコンペを知った建築家・槇文彦氏と鹿島昭一副社長が日本でも同様のものが必要であると提案し,月刊誌『SD』の企画として1982年からスタートした。「建築・環境・インテリアのドローイングと模型の入選展」として,実施を前提とした設計もしくは施工中の建築や屋外空間,インテリア作品を広く一般から募集するものである。

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図版

1982年開始のSDレビュー。
当初はヒルサイドテラス内の小さなギャラリーから始まった

毎年9月中旬,一次審査を通過した十数点の入選作品が代官山ヒルサイドテラス(東京都渋谷区)で公開され,建築界の夏の終わりの風物詩として多くの人が観覧に訪れる。2022年は過去最高の3千人超の来場者を記録した。展覧会場は,ヒルサイドテラス関係者や出展者,学生アルバイトなどの協力を得て手づくりで設営,会期中は社員総出で運営している。端正な空間のヒルサイドテラス内に熱気がこもる毎夏の風景である。

展覧会では,入選者が応募時からさらに発展させたかたちとしてのドローイングや模型を展示し二次審査が行われる。近年の傾向として,目を引くモックアップや,デジタルツールを用いたプレゼンなど,インスタレーションにも多種多様な展開が見られる。そうした思考の過程も審査されたのち槇賞・鹿島賞・朝倉賞・SD賞の四賞が選ばれ,毎年12月に発行される単行本『SD』で各賞が誌上発表される。

図版:審査員,出展者が集まった2022年オープニングレセプションの様子

審査員,出展者が集まった2022年オープニングレセプションの様子

建築の現在,建築家の登竜門

SDレビューは他の多くのアイデアコンペとは異なり,実現される作品であることが条件であり,設計・施工を通して建築家たちが現実社会でどう格闘しているのかという視点が審査される。会場のヒルサイドテラスの設計も行った槇氏(現在SDレビューアドバイザー)はかつて「SDレビューに参加した入選者,審査員たちの顔ぶれを見ればわかるように,そこから日本建築界の一断面が鮮やかに浮かび上がってくる」(「SDレビューの30年」出版会制作,2011年)と語ったように,過去40年の入選者のなかには,安藤忠雄氏,隈研吾氏,妹島和世氏といった世界の第一線で活躍する建築家の名を多く見出すことができる。応募は国内のみならず海外からもあり,近年の建築界の動向や社会状況をも映し出す場として定着し,若手建築家の登竜門としての地位を築いている。

近年は展覧会時に入選者らとトークショーを行い,互いの作品批評を語り合うなど,新たなネットワークやコミュニケーションを築く試みも行われている。

時代と社会を映し出すSDレビュー。今年はどんな作品が観られるだろうか。

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思い切り,刺激的に
――鹿島出版会と僕

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隈 研吾
(建築家・SDレビューアドバイザー)

隈氏(隈研吾建築都市設計事務所)は1987年,1992年にSDレビュー入選

僕が大学院生だった頃の1977年,生まれて初めて,建築の雑誌に文章を書かせてもらった。鹿島出版会から出ていた『SD』という,海外の建築を紹介するなどのかっこいい雑誌であった。

若くて,こわいもの知らずで,言いたいことを書き散らした。当時の建築界の大御所であった磯崎新さんも,黒川紀章さんも,メッタ切りさせて頂いた。もちろん,にらまれたりもしたのだが,そこでの体験が今日の僕を作ってくれたことは間違いがない。当時の鹿島出版会のまわりには,鹿島昭一さん,長谷川愛子(元『SD』編集長)さん,相川幸二(出版会嘱託,元『SD』編集長)さん,さらにおもしろい建築家やデザイナーも集っていて,彼等との「プロレス」もなかなか刺激的だった。

設計も文章も,若い頃に思い切ったことをやって,たたかれるということが,とても重要であるように僕は思う。まわりに気を遣い,炎上をさけるのが建築界のデジタル・リマスターだとすると,そこからはおもしろいものはでてこないだろう。

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隈氏が関わった『SD』『都市住宅』から

「タイムレス」な本づくりを目指して

現在,社員は21名と,月刊誌を発行していた頃に比べると半数以下の体制。昨今の出版不況,本離れなどの状況を受け,単行本の出版点数や発行部数も往時より減少傾向にあることは確かだ。

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そうした岐路に立つなかで大きな節目である60周年を迎えた本年。出版会では4月から今月にかけて各界の識者にさまざまなテーマに沿って出版会刊行の書籍から「1冊」を挙げていただく,「鹿島出版会と」キャンペーンを実施,ウェブやSNSで発信した。

そこで識者から推挙されたのは30年以上ものベストセラーであるB・ルドフスキーの『建築家なしの建築(SD選書184)』や,時間経過と建築のあり方を豊富な写真で伝えるM・ムスタファイ『時間のなかの建築』,三陸津波と東日本大震災という周期的な災害とまちの歩みを著した『津波のあいだ,生きられた村』など,古今のテーマに奥深く照射した書籍の数々だった。これには社員も「タイムレス」な出版物の価値を再認識し,出版会の歩みを見直す好機会となった。

「専門図書の継続的出版は,経済的基盤が困難なものとなってきているなかで,理想と理念,誇りと熱意が,困難さを超えてそれを支えている」とはすでに1990年の日本建築学会文化賞受賞の評にも述べられていた。社員の思いはつねに時代を超えて読まれる本づくり。鹿島グループのネームブランドあっての出版であり受託事業であること,またグループの文化活動の一翼を担う自負のもと,「良書刊行第一」の思いに変わりはない。

なお,本年のSDレビュー展は今月15日から代官山ヒルサイドテラスで開催。また,大型書店を中心に全国16書店で60周年記念フェア,10月28・29日には関西支店の協力を得て「生きた建築フェスティバル」展で出版会刊行の書籍の出張販売が行われる。一冊との出会いのご縁がありますように。

図版:2月に移転した新社屋には,中央に刊行書を並べた横長の本棚を設置。いつでも自社本を参照できる

2月に移転した新社屋には,中央に刊行書を並べた横長の本棚を設置。
いつでも自社本を参照できる

図版:校正紙の確認

校正紙の確認。印刷所から出た校正紙を確認する作業。紙の風合いと印刷の発色がイメージに沿ったものかどうかは,やはり「もの」で見ないとわからない

図版:製本所が届けてくれた梱包を開ける

製本所が届けてくれた梱包を開ける。一冊一冊の発行はまるで新たな子供が誕生したかのごとき賑わいと喜びが溢れる

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図版:『ソフトシティ』(北原理雄訳)の刊行に際し,著者のディビッド・シム氏によるトークイベントを行った。直接読者と交流,アピールする機会だ(2022年11月,東京都中央区京橋のシティラボ東京にて)

『ソフトシティ』(北原理雄訳)の刊行に際し,著者のディビッド・シム氏によるトークイベントを行った。直接読者と交流,アピールする機会だ(2022年11月,東京都中央区京橋のシティラボ東京にて)

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東京都港区乃木坂のギャラリー間に併設される「Bookshop TOTO」にて,60周年フェアを9月8日まで開催(書籍は以降も継続販売中)。フェアは各地で予定されている
写真提供:Bookshop TOTO

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鹿島出版会の歩み

  • 1963

    3月,前身である「鹿島研究所出版会」設立

    『日本外交史』シリーズのうち,
    鹿島守之助元会長の学位論文を収めた別巻2

  • 1965

    月刊誌『SD』創刊(~2001年,以降年刊)

    『SD選書』刊行開始(現在274巻)

  • 1968

    奈良原一高『ヨーロッパ・静止した時間』毎日芸術賞ほか受賞①

    月刊誌『都市住宅』創刊(1986年休刊)

  • 1975

    社名を「鹿島出版会」に改称

  • 1977

    『倉俣史朗の仕事』講談社出版文化賞,ブックデザイン賞受賞②

  • 1982

    第1回「SDレビュー」展(~現在)

  • 1985

    C・アレグザンダーほか著,平田翰那訳『パタン・ランゲージ』日本翻訳出版文化賞受賞

  • 1990

    小社出版活動が日本建築学会文化賞受賞

    日本建築学会賞を受賞する
    鹿島昭一出版会会長(当時)

    『磯崎新』シリーズ刊行開始(全9巻)③

  • 1996

    『土木設計の要点』シリーズ刊行開始(新版継続中)④

  • 1998

    『白い机』日本翻訳出版文化賞受賞。
    ほか現在まで土木学会著作賞・文化賞11件,日本建築学会著作賞8件を受賞

  • 2023

    3月,60周年

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