現在,静岡市で工事が進む静岡県草薙総合運動場体育館。
有機的で柔らかな局面の大屋根と,これを力強く支える杉の集成材が特徴だが,
この規模を木材で支持する構造はほとんど前例がない。
当社ではこのプロジェクトにBIMを活用し,施工のプロセス検討を行った。
国内最高難度の工事とも目されるこの体育館の設計者である内藤廣氏に話を聞いた。
3種類の構造材を使いこなす
この体育館は3種類の構造体を組み合わせた,おそらく国内で最も施工が難しい建物のひとつです。まず,下部構造をRCでつくり,免震層を2階に設け,その上に大屋根の変形を防ぐRCのテンションリングを渡します(下図)。さらにそこから256本の杉の集成材を立ち上げ,鉄骨トラスの屋根を構築するというものです。RC,鉄骨,木を個別に精度管理をしながら,それぞれの工程を組まなくてはなりません。とくに杉は構造材として大架構に適しているとは言い難く,とてもデリケートな素材です。
木を使うことはコンペの与件で求められていたのですが,世界でも最先端の建築をつくるには木造しかないとつねづね考えてきました。20世紀の主要な素材として活躍したコンクリートと鉄骨は,100年の間にほぼやりつくされたと言ってもよい。それに対して日本の木造の技術は世界最高水準です。3種類の構造体を使いこなさねばならないこの工事は,建設に関わる皆さんにとって片時も気が抜けない現場だと思います。
【工事概要】
静岡県草薙総合運動場体育館
- 場所:
- 静岡県静岡市
- 発注者:
- 静岡県
- 設計:
- 内藤廣建築設計事務所
- 規模:
- RC・S・木造 B1,2F
延べ13,509m2 - 工期:
- 2012年12月~2015年1月
(横浜支店JV施工)
現場の難しさはコンピュータの「外」にある
鹿島にはBIMを活用してこの建て方を,検討してもらいました。主要なポイントのひとつ,木で構成されるうねった曲面の壁とテンションリングとの接合部材は同じ形状のものがほとんどありません。こうした要素の区別や,微細なディテールの検証を綿密に確認してもらったおかげで工事は順調です。
BIMはこのように複雑な架構の検証に力を発揮します。一方で,現場の本当に難しい部分はコンピュータの外側にあるとも言えます。たとえば,湿度の違いによる木材の伸縮把握や,職人の手による溶接の微妙な歪みといったことです。この「外側」に対処できるノウハウを活かして,いかに性能を保てるか,そこに組織のアイデンティティが問われます。BIMの使いこなし方にも,企業の独自色が現れるでしょう。情報化が進むほど,経験値を持っている人の手腕との組合せが大切になってくると思います。
使い手の心構えがツールを活かす
もちろん,BIMはコミュニケーションツールとしての可能性も大きい。設計者,施工者,職人の共通認識の土台ができます。一方で,わかりやすすぎる面もある。慣れたときに何か起こるのもまたものづくりです。この心構えさえあれば有用なツールですから,大いに高度化するべきです。今,現場は人手不足に悩まされていて,ロボット化はこれらの解決策のひとつとして考えられています。BIMは3Dデータを基盤としていますから,こうした展開も見据えるとますます必須になってくるでしょうね。