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2013年に挑む

新たな年が幕を開けた。
震災からの本格復興や強い国土づくりなど,建設業界に期待される役割は大きくなっている。
その一方で,建設市場は縮小を続けており,依然として業界を取り巻く状況は不透明だ。
採算性の確保と人材適正配置,グローバルな事業展開――。
激変する経営環境と対峙しながら,数多の課題をいかに解決していくか。
当社にとって勝負の年になる2013年,私たちが挑むべきはなにかを考えていく。

副社長座談会―― 今年の鹿島を語る

出席者

渥美直紀 副社長

渥美直紀 副社長

金子 宏 副社長

金子 宏 副社長

田代民治 副社長

田代民治 副社長

日名子 喬 副社長

日名子 喬 副社長

進行役 岩本 豊 広報室長

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現状認識の先に明日がある

岩本 本日は副社長にお集まり頂きまして,2013年の当社の指針などを語って頂きたいと思います。まずは景況感,当社の置かれている状況などから,渥美副社長いかがですか。
渥美 日本経済になかなか回復の兆しが見えてこない中で,建設業界も大変厳しい経営環境が続いていますし,2013年もこの傾向は続くと思います。こうした状況下で,今までどおりの受注量を確保していくというのはなかなか難しくなってきていますね。
日名子 設備投資が伸び悩む中,受注産業である建設業が好調ということはあり得ません。グローバル社会における日本企業の復権が喫緊の課題です。ただ,今の日本経済がこれまでにない危機的な状態かというと必ずしもそうではないと思います。景気はあるサイクルで循環しますし,過去幾度となく同様の状況を経験してきているわけですから。
田代 海外から見れば,日本は非常に高いポテンシャルを持っています。社会基盤は整備されていて新興国にない技術力が蓄積されているわけで,必ずしも悲観すべき状況ばかりではないと思います。
金子 しかし,中長期的に捉えると建設市場というのはやはり縮小している。インフラが整備され建築物も充足してくれば当然の話で,新築件数が減少傾向にあることは間違いない。震災の影響から,現在は少し特殊な状況下にありますが。
田代 震災復興には当社も全力を挙げて取り組んでいます。また近年は,集中豪雨などの自然災害でも大きな被害が出て,国土の安全・安心,国土の強靭性などの言葉が注目されてきています。インフラ整備ではこれまで,建設コストとその効用ばかりが触れられてきましたが,その価値観を見直そうという機運は高まっています。
金子 業界では激しい競争が続く中,建設業者の数は徐々に減少してきていますが,それ以上に市場の縮小の速度が速い。少ないパイの取り合いはしばらく続きます。この状況で大事なことは,昨年の続きが今年,今年の続きが来年という意識でいると,見通しのない数字を追いかけることになりかねないということ。当社のあり方をしっかり見詰め直していきたいと思います。厳しいことばかり言うと夢がありませんが,この現状を認識するところに明日がある。現実を見据えて初めて,何をやらなくてはいけないかが見えてくると思っています。
渥美 厳しい現状を理解した上で,量を追わずに適正な利益を出せる強い体質をどうつくるのか。これが我々の最大の課題ですね。

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受注環境と人材の流動化

岩本 渥美副社長から,受注量に左右されない体質づくりという話がありました。金子副社長も以前から同様の発言をされています。
金子 過当競争が続いていますが,これ以上無理な競争に参加する必要はないということです。我々の持つ力を最も有効に活用するためには,受注が1~2割くらい減ってちょうどいいのではないかとさえ思っています。そのほうが,適正利益の創出につながり,更に適正な社員配置や安全・品質の確保など良い結果を生むことになる。今の時代は量を追うことがあらゆる面でいい結果につながっていない。
田代 バブルまでの間は建設業も右肩上がりで,受注すれば何とかなるという思想がありました。バブルが弾けて,他産業が方向性をシフトさせる中,当業界は量を追い続けて自ら首を絞めてきた。量より質という話は当然で,数年前からそういう議論はしてきたけれども,実際にチェンジできなかった。ここは我々経営陣が甘かったと反省しているところです。今後は建設業全体として質で勝負する風土をつくらなければならないと思います。
日名子 受注量と利益の関係については,それぞれを確保するためには,我々側に相当の努力が必要であり,得意先との間で,品質やコストに対して粘り強く,また的確に話合いができた結果,ついてくるものだと思っています。その意味では,得意先から本当に理解と信頼を得られるかどうかが大切です。
岩本 受注が縮小した場合,その状況に対応するにはどういったことが大切になりますか。
渥美 大きな軸が,人材の流動化です。受注環境が厳しいと言いましたが,分野,地域によっては受注が伸びているところもある。一方で,人材は支店ごとに固定化されている傾向にあります。受注量を無理に追わないとすれば,当然全社的に最適な人材配置は変わってきます。
岩本 建築ですと首都圏と海外が元気ということで,業務量に偏りが出ている感じを受けます。
金子 確かに現在建築の仕事の中心は首都圏です。加えて,円高もあり企業の海外進出が加速している中で,海外の受注は増加しています。
田代 東北も復興需要から業務は逼迫しています。
渥美 人が不足している,あるいは人を投入すればもっといい仕事ができるマーケットがある一方,固定化した過剰人員を養うために,無理に受注して失敗してきたケースもあるわけです。これからはここを大きく見直して,全社的な観点から人員配置をしていかなくてはならない。当社の技術力や信用,経験,ノウハウを生かせるマーケットに人を投入していくことが重要になります。

写真:ピンチをチャンスに,機会を逃すな……渥美

日名子 営業を担当していて難しいと思うのは,社会情勢や景気動向によって計画が左右されてしまうことです。計画から受注,竣工に至るまで長期間にわたりますから,資機材や労務費の動きは当然変動しますし,臨機応変に対応していくことが重要になりますね。
岩本 土木は,昔から工種ごとに人員配置を行っていて,流動的なイメージがあります。
田代 それはそうですが,流動化という意味ではまだまだ足りません。私は,社員のポテンシャルを引き出すことが大切だと思っています。よく技能工でも多能工と呼ばれる人たちがいますが,国内も海外も両方こなせるような,マルチな社員を育成しないといけない。
岩本 インフラ整備では様々な国や地域で仕事をしないといけませんね。
田代 鹿島の社員は優秀だと言われますが,どの地域でも業務をこなせる人間が育っていくことが大切です。業務内容だって多様化していい。一時期,土木社員に一級建築施工管理技士を取らせて建築の応援をさせたこともありました。極端な話になりますが,事務系社員が施工関連の技術や資格を取得してもいいかもしれない。個々の社員がそういう力を蓄えていくことが人材の流動化には欠かせないと思っています。
渥美 現在,管理部門の人員比率を見直し,スリム化を図っているところですが,その観点からも多様な方向に能力を伸ばしていくのは大事なことです。従来の枠に捉われずに,人員をシフトしていかなければなりません。
岩本 海外にも人員を振り向けていく必要があります。
金子 もちろんです。ただし,海外の難しさは,社員の投入だけではうまくいかないところです。日本人だけではマネジメントできませんから,ローカル社員を育成していかなければならない。マーケットを早く見極めて,育てていくことが大切になりますね。
岩本 東南アジアで建築が好調ですが,現地法人KOAも利益が出るまで30年近くの年月がかかりました。これから土木は国内のインフラ整備が一巡して,海外に市場を求める場面もありそうですが,人材を育てるために現地法人なりの仕組みが必要ということはないのでしょうか。
田代 土木は工種も多く,そう単純ではないと思います。大きなプロジェクトを日本複合チームが受けて,その一翼を当社が担うという可能性のほうが高いかもしれません。いずれにしても,海外は国内に比べて仕事の範囲も異なる。海外まで行けるだけのポテンシャルを持った人材をもう少し育てないといけない。その上で,海外に対する取組みを見直さなくてはならないと思っています。

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写真:フレキシブルに,果敢に挑戦する意識で……金子

管理部門の構造

岩本 管理部門のスリム化を目指そうということですが,人員が減れば,業務内容の見直しは当然必要です。一方で,本社・支店の管理部門だけの問題ではなく,営業所や出張所も含めた重層構造の見直しが必要だという声もあります。
渥美 営業所や出張所ができた背景には,歴史的なものもあるでしょうし,法的なものもありますから一概には言えません。しかし,屋上屋を重ねる必要はなく,支店・本社で賄えることは賄うというのが基本的な考え方になります。これまで効果的と言われていた組織・仕事の仕方が,本当にベストなのか。鹿島としての力を一番発揮できる体制を早急に整え直す必要があります。その議論上,組織の統廃合という話は出てくるかもしれません。
金子 情報技術の進歩で,情報が広く速く行き渡る時代になっています。交通手段も発達して,地域を結ぶスピードも上がっている。情報がすぐ結びつく状況にあるにもかかわらず,ピラミッド型の組織で運営している時代ではないと思っています。もう少しフラットな組織にすればいい。スピーディーな業務遂行が可能になって責任も明確になる。重層構造というのは,責任が徐々に上がっていく仕組みです。その分,個人の責任感が希薄になる。
岩本 中間層が多分に存在するために,責任の所在があいまいになるということでしょうか。あの人に報告したから私の手を離れた,いや私は聞いていないというような。
金子 そういうことです。管理部門でも重層階層で判断していく仕組みを排除したほうが明確でいい。最終的には,現場と管理部門が直結するような,できるだけ単純な構造にすべきでしょう。各支店の育ち方,仕組みは当然異なりますので,通り一遍に変えるということではありませんが,少なくともそう意識して会社の仕組みをつくっていかなければ時代から取り残されてしまう。こういう取組みをいち早く実施したところが勝ち残ると考えています。
渥美 個々の営業所の話を聞いていると,特に建築では地域性が強いので,「自分なりがここにいないとお客さんに不便をかける」という話が多々あるわけです。しかし,本当にそうなのかという意見もある。個人でなく組織として対応したほうが,本来鹿島の持っている力をお客さんに還元できる場合もあるかもしれないと。

写真:ポテンシャルを引き出して仕事を楽しむ……田代

田代 合理的な人員配置をするためにどうすればいいかというのが第一義ですよ。情報系のツールをうまく利用するというのも必要な話だし,重層構造の排除も必要ならばやらなければならない。
日名子 営業の立場から言いますと,流動化と聞いて不安なところもあります。得意先との信頼関係が第一ですから,担当者を動かしすぎるとデメリットも出てくる。支店,営業所,現場,それぞれの関係者が重要な役割を担っていますし,様々な判断にも情報はできるだけ多くほしいわけです。品質や工期,コストなどのベストミックスを施工側としてどう積み上げていくか,スリム化のために人が動いた結果,相談相手がいないということにならないか,そんな不安を持っている人もいます。
岩本 営業部門自体は増員も予想されるところですが。
日名子 そうですね。人材配置替えの際,私は希望者がいれば是非営業部門で迎え入れたいと思っています。これからも厳しい競争が続くことは確かですので,一歩でも二歩でも先んじて飛び込んでいって,得意先の要望に応えていく。その人に応じた役割は必ず与えられると思います。
田代 流動化という意味では,営業も事務系ばかりでなく,技術系社員が営業に出てみるとか,様々な可能性を考慮して複合的にやってみるといったことではないでしょうか。技術部門でも,一定の技術に精通したプロとして当社の看板を背負う人も必要だし,一方ではマネジメントに明るい人間も育てないといけない。営業も同じだと思うのです。
金子 本来ならば,建築系社員が営業もどんどんやるべきだと思います。現場では,施工をこなしながらお客さんとの折衝もうまくできています。ただ現状では人員に余裕がなく営業部門に人員を配置できていません。先ほど重層構造の見直しということがありましたが,地域の拠点をなくすことイコール営業マンを減らすということではありません。地域の営業マンにどういう人材を,どういう形で配置するかということ。地域の施工部隊と一緒にいてもいいし,支店営業統括の中にいてもいいかもしれない。
渥美 それも人材の流動化の一つです。人材の持つ力を最大限引き出す配置方法を考えることが営業の陣容強化にもつながります。
日名子 そういうことも含めて,全体で見直していく必要があるということですね。

写真:人間力を最大限に高める……日名子

勝負の年,社員に求めること

渥美 2013年は大切な年になります。鹿島をどういう組織にして,どう仕事を進めていくか。改めて考えなくてはならないし,変えなくてはいけない。「ピンチをチャンスに」と言いますが,厳しい年になると思う反面,大きなチャンスにもなり得る。「チャンスの女神には前髪はあるが,後ろ髪はない」という言葉があります。チャンスは過ぎてからではつかめません。機会を逃さずにチャンスをつかまなくてはいけない。ぜひそういう気持ちでこの変化に対応してほしいと思います。
金子 大事なのは,一人ひとりがフレキシブルに,かつ果敢に挑戦する意識を持って,業務に臨むことだと思います。我々の仕事はやりがいのある仕事であることは間違いないですよね。新たなものをつくり出す,いいものをつくってお客様に喜ばれる,そんな仕事をしているわけですから。自信と責任を持って自分の仕事をなし遂げていってほしい。全員がそうした思いで力を合わせていけば,絶対にうまくいく。私もやりがいのある仕事をつくっていけるよう励みたいと思います。
田代 私は,自分の能力を磨くことを推奨したい。こなせることが増えれば,やる仕事も大きくなるし,それにつれてやりがいも出てくる。前向きに,仕事を楽しむということですよ。それで個人のポテンシャルが引き出されて,会社全体が伸びていく。そうした意識で業務に邁進してほしいですね。
日名子 当社は,業界の盟主だと言われることもありますが,それだけ周囲から期待されているということです。これは常に自覚してほしいですね。その期待に応えるためにどうするか。これは自分の人間力を最大限に高めるしかない。人間的な魅力をしっかり磨いていってほしいと思っています。それから,健康管理の徹底もお願いしたいですね。本当に,健康が第一です。
田代 最後に,昨年は重大災害を起こしてしまいました。事後については当然真摯に対応していきますが,事故・災害は起こしてはいけない。私も経験がありますが,起こした本人が最も大変です。起きてから反省するのではなく,予防を徹底すること。これだけは是非お願いしたい。
岩本 本日は,ありがとうございました。

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