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水害BCPに取り組む鹿島グループ

昨今のスマートシティやスーパーシティの展開,データ駆動型社会の到来,SDGsへの世界的な関心の高まりのなかで,当社グループが果たすべき社会的役割も拡大している。

サスティナブルソサエティラボ始動

2021年4月,当社技術研究所(以下,技研)内に,土建の枠を超えた技術領域の研究員が協働する新組織「サスティナブルソサエティラボ」グループ(以下,SSラボ)が発足した。

SSラボはいま日本の都市基盤が直面している「気候変動等による風水害の激甚化」「インフラの劣化・老朽化の進行」「財政制約・建設投資の減少」といった問題の解決を目的に掲げ,社会的に発信力のあるシンクタンクを目指す。「メンバーは2023年1月時点で12名。社内だけでなく大学や研究機関など外部から新たに招へいした研究者が半数を占めます。地震応答解析,水害シミュレーション,土木計画学の経済シミュレーションの研究開発や,ビッグデータを処理するための高度解析手法の開発など,それぞれが高い専門性を持つスペシャリスト集団です」と紹介してくれた山田順之グループ長は,以前は環境本部に所属し,生物多様性チームとグリーンインフラグループの立ち上げにも関わった技術者だ。

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技術研究所
サスティナブル
ソサエティラボ
山田順之 グループ長

総合建設会社の研究機関として研究内容の社会実装にも力を入れており,例えば当社が参画する「つくばスーパーサイエンスシティ構想」(茨城県つくば市)では,SSラボが外部機関と連携し開発している地震応答解析のベースとなる地盤データが活用されている。「詳細な地盤のデータはシミュレーションの精度向上に極めて重要です。しかしシミュレーションのためにコストの高いボーリング調査を行うのは現実的ではありません。そこで地元の大学や行政機関などと産官学で連携し,保有するボーリングデータを共有,電子化し,つくばエリアの地盤の3Dモデルを作成しました。従来と比較して解像度が飛躍的に改善されました。この3Dモデルを活用し,解析対象エリア内すべての建物の地震応答解析を行いました。建物の倒壊リスクを考慮した安全な避難場所の指示や,住民個々の特性に応じた避難ルート情報などを発信できるよう検討を進めています」。SSラボのメンバーは技研が立地する東京都調布市のスマートシティ協議会へも参加している。

「研究を社会実装していくなかで,制度や法律,コスト,住民との合意形成など,いろいろなハードルに直面します。そのような検討課題を連携する大学や国の機関と共有し,議論を重ねながら研究にフィードバックしています。オープンイノベーションで社会や地域の抱える課題を一つひとつ解決していくことが私たちの役割だと思っています」。

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サスティナブルソサエティラボの組織

図版:サスティナブルソサエティラボの組織

水害の激甚化と渇水の同時発生

地球規模の気候変動によって,私たちの身の回りの水災害はどのように変化するのだろうか。

現在,日本を含む大多数の国と地域ではパリ協定に基づき,産業革命前と比べた平均気温の上昇を1.5℃以下に抑える「1.5℃シナリオ」を努力目標に掲げている。平均気温が1.5℃上昇すると,地球上の水害発生のパターンが変化し,被害が強く/弱くなる地点,増える/減る地点がどちらも発生する。日本においては,台風が巨大化・強力化する一方で,上陸する頻度は減少するという研究結果も出ている。台風が強く大きくなることによって建物被害のリスクは高まる。一方で,台風の襲来頻度の減少は水資源の減少につながり,渇水のリスクも増えていくと予想されている。

グループ一丸で取り組む「トータル
エンジニアリングサービス」

このように激変する地球環境のなかでは,従来の水害対策では対応できない規模の災害に見舞われる可能性が高まっている。そこで当社グループでは昨年10月,新たに「水災害トータルエンジニアリングサービス」の提供を開始した。技研のBCPリスクマネジメントチームとSSラボ,設計部門,現業部門,営業部門に加え,イー・アール・エス(以下,ERS)と,鹿島建物総合管理(以下,鹿島建物)のグループ会社2社が一丸となり,鹿島グループの英知を結集。合理的な対策をワンストップで提供することで,水害に備える最適なBCPをサポートし,災害に強く回復力がある社会の実現に貢献していく。

水災害トータルエンジ二アリング
サービスのフロー

図版:水災害トータルエンジ二アリングサービスのフロー
予測,予防,対応の3つのフェーズに
合わせた4つのサービスグループ

自然災害に対するBCPを,リスクを把握する「予測」,リスクに備え対策を講じる「予防」,非常時に機能低下を最小限にとどめるために避難・復旧などの措置を講じる「対応」の3つのフェーズで整理。この3つのフェーズに対応した4つのサービスグループから構成されるトータルエンジニアリングサービスの提供を新たに開始した

改ページ
Finding

技研 都市防災・風環境
グループ研究成果

地球温暖化に起因する将来気候における
激甚台風の影響予測

地球温暖化による海面水温の上昇が台風の強さに与える影響について検討するため,東日本の広域に甚大な被害をもたらした令和元年東日本台風(2019年台風19号)が2090年代の予測海面水温に基づいた将来気候下で発生した場合のシミュレーションを行った。その結果,地球温暖化による海面水温の上昇により,台風の風速,降雨量が大幅に増大することを示した。

図版

改ページ
Finding

技研 サスティナブルソサエティラボ研究成果

技研施設(東京都調布市)における
浸水評価のための
外水氾濫シミュレーション

従来,水害シミュレーションの実施にはデータの入手や入力に必要なコストや作業が大きな負担となっていたが,近年では国や地方公共団体などによるデータのオープン化の潮流を受け,シミュレーションの準備作業が省力化され,気候変動の影響や流域全体での治水対策効果などを考慮した様々なシナリオを検討できるようになりつつある。

現在SSラボで実施中の東京都下を対象とした検討では,公開されているハザード情報に加え,内水氾濫による浸水エリアや浸水時間の変化をシミュレーションにより評価し,対策案の立案に活用している。

図版

改ページ
図版:複数パターンのシミュレーションを実施し導き出された,被害が最大になる箇所(図中赤色)で多摩川が溢水・越流した場合の想定浸水深

複数パターンのシミュレーションを実施し導き出された,被害が最大になる箇所(図中赤色)で多摩川が溢水・越流した場合の想定浸水深

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