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2 対策立案

浸水リスクが認められたら,敷地の測量,植栽,排水,上水,電気などの各種調査を行った後,対策の立案に取りかかる。

止水ライン設定と設備選定

対策立案においてはまず止水ラインの検討を行う。BCP上の重要施設を災害リスクの少ない場所へ移設して被害を避けるのか,建物一棟への浸水を防ぐのか,敷地全体を守るのか。3通りの選択肢のなかから対象施設の実情に応じ,ときにこれらを組み合わせて設定していく。

止水ラインの決定後は,止水板,防水扉,下水管からの逆流防止バルブといった設備の選定を行う。浸水防止設備は数多く存在し,種類によって止水できる高さや設置できる場所,設置工事に必要な時間などが異なる。適切な設備選定,および費用対効果や工期を踏まえた実装時期など,個々の要望に応じた対策立案には,当社が積み上げてきた経験が活かされる。

図版:3種類の止水ライン

3種類の止水ライン

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図版:近隣配慮メニュー

近隣配慮メニュー
止水ラインを敷地外周とした場合,設置する止水壁の圧迫感など近隣へ与える影響も考慮する必要があるだろう。左図のようにガラススクリーンを採用した圧迫感を低減する構造の提案や,右図の浸水時避難口のように,止水壁で浸水を防いでいる敷地内にて,近隣住民などの一時避難を受入れ可能とする技術(現在特許出願中)も開発している

タイムラインの検討

止水ライン検討において考慮すべきは,設備や建造物などのハード面のみではない。河川の増水や台風の接近に伴う浸水は,数日前~数時間前には予測可能な進行型災害という特徴がある。つまりいつ発生するかわからない地震や火災などとは異なり,人的な対応による被害予防の効果が高い自然災害なのだ。

水災害トータルエンジニアリングサービスでは,防災行動を加味した対策を検討し,工期・工費を抑えた総合的に費用対効果の高い提案を行っている。そのためには防災行動の実効性が信頼のおけるものである必要があり,そこにリスクマネジメントサービスを専門とするERSの見識が発揮される。多くの企業や当社建設現場の防災行動のコンサルティングを行ってきた同社は「いつ・誰が・何をするか」を明確化し,時間軸上にプロットした「タイムライン(防災行動計画)」の策定も支援する。

多種多様な行動を時系列で整理し,配置できる人員を勘案して実行可能性を施設管理者とともに厳密に検討することで,防災行動を具体化し,災害時に有効かつ実効性の高いタイムラインをつくりあげていく。タイムラインについては「4 運用支援」でも紹介する。

このように対策立案では,複数の専門性にまたがる当社グループの経験を総動員し,最適解を導き出している。

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図版:BCPとタイムラインの効果

BCPとタイムラインの効果

星総合病院止水工事

星総合病院(福島県郡山市)は,2019年10月に発生した台風19号に伴う大雨で敷地全域が50~80cm程度冠水し,敷地内の5棟の建物すべてにおいて開口部からの流入および配管からの逆流により10~30cm程度浸水した。これにより,MRIやCTなど機器の破損,エレベータの故障,泥の流入による仕上げ材の汚損などが発生した。
新築時に施工を担当した当社は,被災直後から3日間,延べ250人を導入して仮復旧作業を実施。翌11月より対策立案と工事の協議を開始し,2020年4月から9月まで6ヵ月間の工期で,敷地内への浸水を防ぐ擁壁や重要インフラ設備を守る遮水扉,止水板の設置など恒久対策工事を完了した。

場所:
福島県郡山市
発注者:
星総合病院
設計:
当社東北支店建築設計部
用途:
医療施設
規模:
RC擁壁設置(総延長357m,
H=750mmを96m,H=1,300mmを210m,
H=2,150mmを51m)
防水扉,止水板設置(24ヵ所)
逆流防止(外部からの逆流を防止するための
逆流防止弁,遮水板の設置)
排水ポンプ設置
工期:
2020年4月~2020年9月
(当社東北支店施工)
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図版:擁壁と止水扉

擁壁と止水扉

図版:遮水扉

遮水扉

図版:擁壁の見え方の検討を行った外観パース

擁壁の見え方の検討を行った外観パース

図版:排水ポンプ

排水ポンプ

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不動産に関する
新たな認証制度
「ResReal(レジリアル)創設

近年の水災害をはじめとする自然災害の増加を受けて,不動産業界においても,災害時における都市や建物の被害の最小化,災害後のレジリエンス(弾性力,回復力)への注目が高まっている。このような状況を受けて,今年1月,不動産のレジリエンスを可視化する日本初の認証サービス「ResReal」がスタートした。このサービスは日本不動産研究所,ERS,建設技術研究所,CSRデザイン環境投資顧問,野村不動産投資顧問ほかで構成される「不動産分野に関するレジリエンス検討委員会」が業界横断的な検討を重ねてつくり上げたもの。土地情報のみならず,建物や運用面の評価を加えて体系的にスコア化する仕組みを備えた,海外にも例がない新しい認証サービスだ。

図版:ResRealのロゴマーク

ResRealのロゴマーク
(商標登録出願中)

ResRealによって自然災害に対して個々の不動産が有するリスクと対策効果の評価・可視化がなされることで,不動産に関わるステークホルダー(不動産オーナー,テナント・利用者,投資家・金融機関,デベロッパー・設計会社など)がそれぞれの意思決定を行う際の判断基準を示すことが可能になる。今後,有識者・専門家などで構成されるアドバイザリー委員会が認証スキームのガバナンス機能を担い,認証の透明性を確保する予定。また,同じく透明性確保の観点から,野村不動産投資顧問も含めて,不動産運用会社は認証手続きには関与しない。将来的には,現在多くの企業等が直面しているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)における物理リスク開示に資する制度の拡張,開発が進められる。

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図版:スコアリングのイメージ

スコアリングのイメージ

図版:認証ランク

認証ランク

図版:評価メニュー

評価メニュー。水害版から運用を開始し,今後順次拡張していく予定

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