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築地から豊洲へ。新たな基幹市場の誕生

豊洲新市場(仮称)青果棟ほか建設工事

1935年の開場以来,長年にわたり首都圏の食生活を支えてきた築地市場が,
2016年11月7日,いよいよ豊洲に移転する。
食の安全・安心の確保,物流の効率化が図られた基幹市場として生まれ変わることになる。
世界無形文化遺産に登録されるなど「和食」に対する関心が国内外で高まるなか,
2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け,豊洲市場への期待は大きい。

図版:地図

【工事概要】

豊洲新市場(仮称)青果棟ほか建設工事

場所:
東京都江東区
発注者:
東京都
設計・監理:
日建設計
用途:
卸売市場
規模:
RC・SRC・S造 3F 延べ128,378m2
工期:
2014年2月~2016年5月

(東京建築支店JV施工)

図版:地図

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図版:青果棟全景(2016年5月19日)

青果棟全景(2016年5月19日)

生まれ変わる日本の台所

東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)「市場前」駅に降り立つと,3棟の大きな建物が真っ先に目に入った。築地市場の約1.7倍となる約40.7haの広大な敷地には,生鮮食料品を扱う青果棟,水産仲卸売場棟,水産卸売場棟が立ち並ぶ。そのうち,当社JVは2014年2月から青果棟の施工を担当している。取材に訪れた5月中旬,本体工事を終えて外構工事,周辺施設の整備を行っていた。

3階建ての青果棟に入ると,まず,その広さに圧倒された。国内外の品物を集めて取引きを行う卸売場,飲食店や八百屋などが品物を仕入れる仲卸売場となる1階は,東西316.5m,南北90m,高さ8.75mの大空間だ。売場全体を壁で覆う閉鎖型施設は,生鮮食料品を高温や風雨から守り,22℃で温度管理することにより品質・衛生管理が強化される。また,荷さばき場と売場を近くに配置し,外周4面を積込場とすることで施設内の物流を効率化する。

仲卸売場は,吹き抜け構造になっており,1階が店舗,2階が事務所の99区画。その周りの平床型45区画とあわせると,築地市場と同じ144店舗となる。開放的なこの空間が,さまざまな青果に彩られ,市場関係者と買出人によって活気が生み出される。

エレベータで3階へ上がると加工パッケージ施設となる。近年の新たなニーズに対応するため加工・仕分けや包装などができる施設だ。こちらは15℃で温度管理される。屋外のスロープから直接3階の加工パッケージ施設へアプローチできるつくりとなっている。

屋上に目を向けるとソーラーパネルや屋根部分の屋上緑化が広がり,環境にも配慮した施設となっていることがわかる。

市場前駅に建設中のペデストリアンデッキから直接アプローチできる見学通路も2階に設けられた。見学者は,「1月は“しゅんぎく”,2月は“なのはな”…」と月ごとの旬の野菜のイメージカラーが壁面に塗られた通路から物流動線と交錯することなく安全に,活気ある卸売場を見ることができる。

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図版:奥行き300mを超える青果棟1階の大空間

奥行き300mを超える青果棟1階の大空間

写真:仲卸売場。1階が店舗,2階が事務所となる

仲卸売場。1階が店舗,2階が事務所となる

写真:季節の野菜を表現している見学者通路

季節の野菜を表現している見学者通路

現場運営の秘訣はコミュニケーション

「チームワークが肝心。日頃からコミュニケーションを意識している」と話すのは7社から成るJVの所員50人をまとめる武村保所長だ。これまで千葉県内の現場を数多く手掛けてきた経験の持ち主だ。

武村所長の席は,個室ではなく執務室の一角にある。職員が更衣室や給湯室に行く時は所長の前を通るレイアウトになっている。普段の何気ない会話がコミュニケーションを活性化させ,事務所の一体感が醸成される。事務所内の風通しは良く,若手社員が直接所長に相談できる環境が整っている。

「これだけ注目されている現場の所長はプレッシャーがあった」と言う武村所長を支えるのは3人の副所長だ。そのうちの一人である沓澤(くつざわ)真副所長は「大学の先輩という縁もあり,入社以来,武村所長にはお世話になってきた。その武村所長が豊洲の所長をやると聞いて,是非手伝いたいと思い,“いざ,豊洲!”と名乗りを上げました」と話す。

沓澤副所長をはじめ,所員は一様に所長の人柄の良さを口にする。こうした話からも信頼関係が垣間見える。

写真:武村保所長

武村保所長

写真:沓澤真副所長

沓澤真副所長

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短工期を実現する

施工計画,工程管理を担当した豊島憲治副所長は「工期を守るためには広大な敷地をいかに活用するかが鍵だった」と言う。短工期を実現するため,12万m2超の敷地を合理的な施工計画に結びつけることが課題であった。

基礎躯体のコンクリートは約5万m3に及んだ。フーチング基礎上にある基礎梁は,地面から浮き上がった形のため施工には相当量の支保工,足場が必要となる。そこで基礎梁底のプレキャスト化を取り入れ,広い敷地を利用して場内で梁底を製作。地組ヤードへ場内運搬した後,上筋の組立て,スリーブ取付けおよび補強,側面型枠の組立てまで行った。これにより支保工,足場が大幅に削減。工期短縮につなげた。鉄骨建方では敷地の中央部から東西両方向に広がる形で行い,無駄なく次工程に移れるよう計画した。その他にも,広い敷地を活用した柱筋等の地組,同じ形状の擁壁構築にはシステム型枠を取り入れ,生産性の向上に努めた。

写真:豊島憲治副所長

豊島憲治副所長

「武村所長がこれまで千葉県でともに汗を流してきた多くの協力会社が,この現場に駆けつけてくれた」と発注・調達を担当した沓澤副所長。作業員不足の解消,施工の効率化を考慮して各工種を計画的に分割発注し施工を進めた。

施工面の工夫に加え,IT化も積極的に導入した。その一例がデジタルサイネージシステム(電子看板)の活用だ。最盛期には1,000人を超える作業員となる現場では朝礼が長時間となり,作業時間がひっ迫してしまう。そこで作業員詰所に25台のディスプレイを設置。始業前からその日の重機配置や立入禁止箇所などを繰り返し映像で流し,作業員一人ひとりへの周知を行った。作業員が予め必要事項を確認することができ,朝礼時間の短縮につながった。午後には災害事例や安全パトロール結果を流して作業員の安全意識の高揚にも寄与している。

写真:プレキャストの揚重状況

プレキャストの揚重状況

写真:プレキャストの建込み状況。支保工,足場を削減し,工期短縮につなげた

プレキャストの建込み状況。支保工,足場を削減し,工期短縮につなげた

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他街区との連携

今回の工事は,「豊洲市場」という全体プロジェクトのなかで施工していることもあり,他社施工の水産仲卸棟,水産卸棟と足並みをそろえることが求められた。「他街区の水産仲卸棟,水産卸棟の建設も同時に行われています。協議事項は豊洲市場全体に関係します。他街区と連携をとりながら施主,設計者と協議を進めなければ工事に影響が出るかもしれなかった」と話すのは計画段階から携わる川口雅基副所長。監理技術者として主に施主や設計,他街区との綿密な調整を行ってきた。

「施主・設計・施工が一体となってここまでやってくることができた。正直なところ今はほっとしている気持ちが大きい」(武村所長)。

開場まで残り4ヵ月。10月には外構工事も完了を予定している。長年の歴史と伝統に裏打ちされた信頼の「築地ブランド」は「豊洲ブランド」として受け継がれ,時代のニーズに則した市場として新しい一歩を踏み出そうとしている。

写真:川口雅基副所長

川口雅基副所長

写真:躯体工事の施工状況(2015年2月21日)

躯体工事の施工状況(2015年2月21日)

写真:JV所員・職長の集合写真(2015年7月1日 押味社長現場パトロール時)

JV所員・職長の集合写真(2015年7月1日 押味社長現場パトロール時)

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Interview 新たな基幹市場の誕生に向けて

築地市場は,1935年の開場から80年近くが経過し,老朽化やトラック輸送が主体となった現在の流通環境の変化などから時代のニーズに対応するべく移転が決まりました。築地市場には長い歴史の中で蓄積された食材の知識や,目利きによって育まれた「築地ブランド」と呼ばれる魅力があります。そうした築地の歴史や伝統を継承・発展できる場所として豊洲が新市場に決まりました。

今回,鹿島JVさんにお願いしている青果棟は一般の消費者に野菜を届けるほかに,新橋や銀座などの飲食店に提供する多種の野菜を扱うことが特徴で,「和食」をリードしていく役割も担っています。工事は,安全第一で工期どおりに行ってもらいました。武村所長をはじめ活発な意見交換が図れ「より良いものづくり」をともに目指すことができました。現場の雰囲気も明るく,視察の際に作業員さんたちの気持ちの良い挨拶が特に印象的でした。

11月に開場を迎える豊洲市場では,日本の食文化を発信していくとともに,都民や地元の皆様に愛される市場を目指していきたいと思います。

写真:東京都 中央卸売市場 新市場整備部 施設整備課 青木成昭 課長

東京都 中央卸売市場
新市場整備部 施設整備課
青木成昭 課長

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