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2010年は「多剤耐性菌」がクローズアップされ,
“多剤耐性菌による院内感染” や “新型多剤耐性菌の日本上陸” がニュースでも取り上げられました。
こうした状況に先駆け,当社の技術研究所では「多剤耐性菌」の問題に着目した研究を行い,
検出技術を開発しました。多剤耐性菌がどのように生じるか。
建設業が細菌を研究する理由,研究の成果,将来の展望について,担当者に聞きました。

薬で死なない細菌?

細菌による感染症の治療薬として,様々な種類の抗生物質が開発され,広く普及しています。普通の細菌は,細胞に薬剤が蓄積すると死んでしまいますが,薬に対する抵抗力を持ち,薬が効かない細菌も存在します。それらの細菌を「薬剤耐性菌」と言い,一つの薬だけでなく複数の薬への耐性を併せ持つ細菌を,特に「多剤耐性菌」と呼びます。多剤耐性菌と言っても,多くは,健康な人にとって感染リスクは低いものです。しかし,高齢者や幼児,手術後の患者など免疫機能が弱い人に感染してしまうと,治療で使う抗生物質が効かない多剤耐性菌は脅威となります。

多剤耐性菌に薬が効かないのは,菌が薬剤を分解したり,細胞内から薬剤を排出したりするためで,薬剤耐性化DNAの働きによるものです。薬剤耐性化DNAにはインテグロンなどがあります。

図:多剤耐性菌の“出現”の仕組み(耐性化DNAが伝播するケース)

多剤耐性菌の“出現”の仕組み(耐性化DNAが伝播するケース)

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建設業で「多剤耐性菌」を研究する理由

環境問題や資源の枯渇が深刻化している現在,廃棄物や廃水も無駄にしない循環型社会の構築が喫緊の課題となっています。再資源化施設での下水汚泥や生ゴミの再資源化,下水処理施設における廃水の再生利用の技術開発や実用など,建設業界は環境を守る取組みを進めています。

再資源化された廃棄物や廃水は,肥料や雑用水などにも利用されますが,病原菌などの有害微生物が残存しないように,科学的なデータに基づいて衛生管理する必要があります。当研究所では2008年度から,施設自体の衛生管理や,再資源化処理後の肥料や雑用水の「安全・安心」のチェックを行うために,有害微生物の指標の一つとしてインテグロンに着目し,多剤耐性菌の検出の研究をスタートしました。

図:循環型社会における有害微生物の衛生管理

循環型社会における有害微生物の衛生管理

一度に沢山の多剤耐性菌を検出する

インテグロンは,元々薬剤耐性がない細菌に薬剤耐性化DNAを伝播し,複数の薬剤耐性化DNAを集めてしまう性質を持つため,細菌の多剤耐性化に関与していると考えられています。さらに,細菌間で薬剤耐性化DNAをやり取りすることで,より強い抵抗力を持つ多剤耐性菌を生じさせることもあります。

多剤耐性菌の種類は多岐にわたるので,個々について培養しながら検出することは,時間,手間,専門知識を要します。当社は,客観的で簡単に行える検出技術を開発し,DNA試料からインテグロンを検出することで,多剤耐性菌の存否が迅速に診断できるようになりました。

インテグロンの検出にはPCR法(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応法)を用いています。PCR法は微量のDNA試料から,目的のDNAを選択的に検出できます。

試料からDNAを抽出・精製し,当社が開発した「PCRプライマー」と呼ばれるDNA断片を入れ,専用の反応装置で酵素反応させます。反応の結果,試料中にインテグロンが存在していればシグナルが検出されます。

これまで4種類(クラス)のインテグロンを種類別に検出する技術はありましたが,当社が開発したプライマーは,インテグロンをなるべく沢山,数種類を一度に検出できることが特徴で,特許技術として出願しています。

写真:抽出したDNAをマイクロピペットでPCRチューブに移す

抽出したDNAをマイクロピペットでPCRチューブに移す

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図:インテグロン検出の作業イメージ

今後の展開

今回紹介したインテグロンを指標にした多剤耐性菌検出技術は,潜在的な感染リスクを遺伝子診断的に調べるツールのひとつとして,展開を模索しています。廃棄物・廃水の再資源化施設以外にも,製薬工場や食品工場,公共性が高い医療現場,学校などでも適用の可能性があると考えます。

当社の衛生管理技術の研究は,「多剤耐性菌の検出技術」を足がかりに始まったばかりです。これからも衛生的な施設や都市の設計・提案に貢献すべく研究を進めるとともに,実用的な技術へ育てていきたいと考えています。

マクロの視点でミクロの技術を

細菌の研究は,土木・建築という建設会社の本分から逸脱しているように見えるかもしれません。しかし,10年,30年というスパンで未来を捉え,社会基盤を整備するのが建設業だと考えると,私たちの研究は建設業らしいと言えます。「有害微生物の管理」という循環型社会・超高齢社会で将来高まるニーズを見据えているからです。

循環型社会の環境を地球規模で考えるマクロの視点と,細胞のDNAを解明するミクロの視点を持って,私たちは日々研究に励んでいます。

今後,今回開発した技術をどのようなツール・スペックにするか検討し,衛生管理のグレードを上げたいと思います。これからもサイエンスの分野で評価される世界レベルの技術を保持し続けたいです。

写真:左から, 技術研究所 地球環境・バイオグループ微生物チーム 黒木淳史さん 上野嘉之上席
研究員 石川秀研究員 多田羅昌浩主任研究員 北島洋二主任研究員 坂本育子研究員

左から, 技術研究所 地球環境・バイオグループ微生物チーム 黒木淳史さん 上野嘉之上席
研究員 石川秀研究員 多田羅昌浩主任研究員 北島洋二主任研究員 坂本育子研究員

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