鹿島(社長:桐生雅文)は、フェントン反応により有害な揮発性有機化合物(VOC※)を分解する、効果持続性に優れた中性フェントン薬剤「FenMix®」(フェンミックス)を開発しました。
フェントン反応とは、過酸化水素と鉄を含む触媒の反応により、強い酸化力を有するヒドロキシルラジカル(OHラジカル、活性酸素種の一つ)を生成する化学反応のことです。その一種である中性フェントン反応は、酸性化することなく地盤や地下水に含まれるVOCを中性領域で分解・無害化することができます。しかし、従来の中性フェントン薬剤は効果が長続きしないため、地下水に含まれるVOCの濃度が一時的に低下しても、再び上昇する「リバウンド」が生じることがあり、これが大きな課題でした。
当社が開発したFenMixは、鉄を安定的に保持する生分解性触媒の配合設計を工夫することで、ヒドロキシルラジカルの生成を長時間持続させます。これにより、VOCを長期間にわたり効率的に分解・無害化できるため、従来課題であったリバウンドの発生を抑制することができます。FenMixを施工環境に応じた工法と組み合わせることで、広大な汚染サイト(区域)だけでなく狭隘な場所においても、原位置浄化(地盤内で汚染物質を分解・無害化)の有効性を確認しています。
本技術は、環境省の「令和6年度低コスト・低負荷型土壌汚染調査対策技術検討調査」の対象技術に採択され、実証試験および専門家評価により有効性が確認されています。また、「令和7年度土木学会環境賞」および「令和7年度地盤工学会技術開発賞」を受賞しました。
※ Volatile Organic Compoundsの略
FenMixを構成する過酸化水素と鉄含有の生分解性触媒
開発の背景
トリクロロエチレンや1,4‐ジオキサンなどのVOCによる土壌・地下水汚染は、重要な環境課題の一つです。
中性フェントン法は、中性フェントン反応により生成される強い酸化力を持つヒドロキシルラジカルによってVOCを分解・無害化する浄化技術の一つです。複数種類のVOCの同時分解や、高濃度汚染への適用が期待できます。しかし、従来の薬剤は効果持続性が低く、汚染土壌粒子へ十分に行き渡る前に薬剤の効果が低下してしまうため、地下水中のVOC濃度が再び上昇するリバウンドが生じることがあります。これが、施工期間の長期化や施工コストの増加を招く要因となっていたため、効果持続性の高い薬剤が求められていました。
概要と特長
FenMixは、鉄を安定して保持する生分解性触媒の配合設計の工夫により、ヒドロキシルラジカルの生成を長時間持続させる中性フェントン薬剤です。その優れた効果持続性により、VOCを原位置で長期間にわたり効率的に分解・無害化できます。さらに、汚染サイトの条件に応じて、広い施工空間を確保できる場合にはジェットブレンド工法を、既設構造物周辺や稼働中施設内などの狭隘な場所ではダブルパッカー工法を適用することで、さまざまな施工環境に対応できます。
FenMixと既存薬剤の比較(左:トリクロロエチレン含有土壌、右:1,4‐ジオキサン含有地下水)
施工環境に応じた適用工法
VOCは、シルト層など透水性の低い一部の深度に高濃度で残存する場合があります。そのため、薬剤の性能を十分に発揮させるには、汚染が存在する深度にFenMixを適切に供給することが重要です。
ジェットブレンド工法は、地上から供給した薬剤を高圧噴射しながら土壌と混合攪拌し、汚染土壌と薬剤を強制的に接触させる工法です。比較的施工スペースを確保しやすい汚染サイトにおいて、薬剤を対象地盤に短時間で広く行き渡らせることができます。
ダブルパッカー工法は、ボーリング孔内の対象注入深度の上下に設置したパッカーを膨らませ、薬剤の上下方向への移動を抑制しながら、対象深度に薬剤を注入する工法です。スリーブバルブを搭載したダブルパッカーシステムにより、圧力を制御しながら薬剤を注入することで、狙った深度に集中的に薬剤を供給できます。これにより、既設構造物周辺や狭隘地など、地上部の施工制約が大きい場所でも原位置浄化が可能となります。

ジェットブレンド工法 (広い施工空間に最適)

ダブルパッカー工法 (狭隘地でも施工可能)
効果
実証試験を行った汚染サイトの周辺には、精密機械工場や住宅地があり、振動や騒音を抑えた浄化対策が求められていました。また、稼働中の事業所構内であり、限られたスペースで施工する必要がありました。
こうした施工環境を踏まえ、本サイトではダブルパッカー工法を採用しました。事前調査でトリクロロエチレン汚染が確認された範囲に限定して、FenMixを注入しました。
実証試験でFenMixを地盤に注入している様子
注入後にチェックボーリングを行い、土壌のトリクロロエチレン含有量を測定した結果、約95%の低減効果を確認しました。また、地下水のトリクロロエチレン濃度をモニタリングした結果、注入後のリバウンドは確認されず、50日後も99%の濃度低減が維持されていました。現在も敷地境界におけるトリクロロエチレン濃度のモニタリングを継続しており、約600日経過後も環境基準を十分に満たす低濃度を維持していることを確認しました。
左:土壌のトリクロロエチレン含有量の低減効果、右:地下水のトリクロロエチレン濃度の低減効果
(FenMix注入後50日経過)
今後の展開
鹿島は今後、土壌および地下水のVOC汚染対策が必要な工場や事業所にFenMixの適用を進めていくとともに、さまざまな地盤条件や汚染状況に対応できる浄化技術へと高度化を図ることで、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。