土木

project 01

kouchigawa
bridge

国内最大級のバランスドアーチ橋を架ける、

鹿島ならではの

ビッグプロジェクト。

~新東名高速道路・河内川橋工事~

神奈川県足柄上郡。ここでは、丹沢山地を流れる河内川に架かる高速道路橋の工事が進められています。国内最大級のバランスドアーチ橋「河内川橋」です。急峻な谷を越えるこの橋は、日本の新しい大動脈となる新東名高速道路の未開通区間で最大規模の橋梁です。橋長771m(上り線)、橋脚の最大高さ88m、アーチスパン220mを誇り、高低差の著しい地形に対応するため、日本で初めてとなる鋼・コンクリート複合構造のバランスドアーチ橋が採用されています。かつてないスケールで進められるこの大規模プロジェクトの最前線で活躍するメンバーの想いを紹介しましょう。

新東名高速道路 河内川橋工事
場所:
神奈川県足柄上郡山北町
発注者:
中日本高速道路株式会社
規模:
鋼・コンクリート複合バランスドアーチ橋2連
(上り線771.0m、下り線692.0m)
PRCポータルラーメン橋1連(下り線22.5m)
橋脚13基 橋台6基 ほか
工期:
2016年8月~2027年8月(約定)

member

田中 誠

所長

横山 由宏

工事課長

柑本 慎一郎

工事課長代理

平山 雄大

工事主任

story 01

「やったことがない」に挑む、

大規模プロジェクト

さまざまな形式の橋梁工事を

手掛けてきた鹿島の中でも

難易度の高いプロジェクトのひとつだと

聞きました。

田中

河内川橋工事は日本最大級のアーチスパンを誇るバランスドアーチを建設する工事です。全社から橋梁工事に知見のある技術者が設計・施工に参画していますが、誰もが「非常に難しい」と口にしています。

平山

私は設計担当という立場で2019年にこの現場に来ました。詳細設計は2016年から行われています。発注段階での基本設計をもとに、施工面や工程面での課題を2~3年かけて洗い出し、施工中から完成して橋梁が供用されるまでのすべての段階での構造設計・細部設計を実施し、その詳細図面を作成するのに3~4年かかりました。そして2024年にようやくすべての図面が整いました。
通常の橋梁の設計では図面枚数は多くても500~600枚というところですが、河内川橋では約4,600枚もの図面を作成しました。また、鋼とコンクリートの複合構造でしたので、鋼橋会社をはじめとする社外の設計協力会社の力を借りて設計を進めました。

柑本

本当に長いプロジェクトになりました。私は施工担当として2016年からこのプロジェクトに参加し、途中2019年から2年半ほどプロジェクトを離れています。2019年の時点ではまだ本設構造物が何一つ出来上がっていない状態で、施工ヤードまで資材等を運搬するインクラインや工事用トンネルなどの仮設工事の最中でした。

横山

とにかく新しいことへの挑戦の連続でした。例えば、アーチを支える橋脚では、工場で製作したプレキャスト埋設型枠を帯鉄筋とともに高さ90cmのプレファブユニットとして組み立て、これをタワークレーンで4段ずつ積み上げる方法を採用しました。これによって従来工法の約2倍のペースで施工が可能になりました。新東名高速道路の早期の全線開通に向け、こうした施工の合理化は重要なテーマでした。

平山

プレキャスト化やプレファブ化は重要な課題でした。事前に工場で作れるものは作っておき、現場でそれが所定の位置に設置できるよう、調整方法やバッファの確保にはとても気を使いました。社内の施工経験者と協力し、実施工をシミュレーションしながら、どの程度のバッファが必要かなどを考えて設計を進めました。そして実施工の段階では、設計担当者と施工担当者が同じ事務所で机を並べ、意見を交わしながら、最終調整方法やバッファの使い方を決めました。

柑本

設計担当者がこれほど深く施工に関与するのは、異例のことですよね。それだけでも特別なプロジェクトだと感じています。

平山

設計担当者が本社の設計部署で設計を終わらせた上で、施工担当者の立場として現場に赴任することはよくあります。しかしこのプロジェクトでは、設計が完了する前に施工が始まっており、施工のスケジュールに追われながら現場で図面を書いていくような状況のときもありました。施工を止めないために施工担当者と調整しながら設計を進めていったわけです。施工担当者から変更要請が来ると1ヵ所では済まず、同じ様な全ての箇所を書き直さなくてはならないこともありました。さらに、施工中の橋の形状を計算値と実測値とを比較して管理する作業については、現場に居なければ難しかったと思います。

柑本

アーチ部構築の大ブロック化も施工の合理化に寄与しました。基本設計ではアーチは橋脚を中心に片側23ブロックに分割して構築する計画でしたが、1つのブロックを長くして16ブロックに減らしたわけです。それによってアーチを構築する回数を7回減らし、移動作業車が移動する回数やコンクリートを打設する回数も7回減らすことができました。

平山

とはいえ、ブロックを長くすること自体、簡単ではありませんでした。設計も一からやり直す必要がありました。構造設計には主要な施工用機械の重量が不可欠なため、横山さんをはじめとする機電チームに相談して重量を検討していただき、その数字をもとに設計し直しました。そういった一つひとつの積み重ねが、合理化に結びついたと思います。

田中

アーチ部材が張り出し終わった箇所から、張り出した部材を連結する作業を進めています。この閉合部の施工についても河内川橋特有の施工条件があるので、毎週、確認の機会を設け、施工計画を複数の目でチェックしてから施工に着手しています。そうしないと大きなトラブルになりかねません。今までにないものを造っているので、河内川橋での取り組みの一つひとつが今後につながるノウハウを生み出していくと考えています。

横山

田中所長の言うように、今までにやったことがないというのが最大の魅力であり、難しさであるのは間違いありません。私はこれまで橋梁工事を3現場経験しましたが、この現場では初めて経験することばかりです。
例えば通常のコンクリート橋では平らな面に移動作業車を組み立てて、作業が終わったら解体して次の作業場所へと移動させます。ところが河内川橋は移動作業車を組み立てるアーチの最大傾斜が38度もあるので、組み立てるには傾斜の影響も考慮しなければなりません。どんな難工事でも大体は似たような前例があるもので、その時のデータを見たり、社内の経験者に聞いたりということができるのですが、今回はそうした前例はあるものの、経験者が退職していたり、記録が不足している部分もあり、移動作業車のメーカーの協力も得て、慎重に検討を進めていきました。

田中

資材の運搬ルートにも苦労しました。

横山

通常は現場に資材を運び込むために工事用道路を造るのですが、この現場は急峻な谷間にあって傾斜が大きすぎるため、斜面に沿った工事用道路を造ることができません。そこで、左岸には斜面を斜めに昇降する“巨大エレベーター”のインクラインを設置しました。また、右岸では山の裏側から斜面に到達するトンネルを掘削し、工事用道路として利用しています。一方、鋼・コンクリート複合橋なので、大型の鋼部材など、通常のコンクリート橋工事に比べると重量物が多いのも特徴です。そこで大規模建築工事等で使用する大型のタワークレーンを配置しています。

柑本

さきほど横山さんが話したように、未経験の工事であるということが一番のハードルであったのは間違いありません。私も横山さんと同じく、通常の橋梁工事の経験はあるものの、ここでは見たことがない材料や経験したことのない施工方法などへの挑戦の連続でした。その際は協力会社と協力し、トライ&エラーを繰り返しながら進めていくしかありません。お互いに知恵を出し合い、結果をフィードバックして、またチャレンジするという繰り返しです。その意味ではとてつもなく手間と時間がかかりましたが、未知の領域に挑んでいる醍醐味は大きかったです。

story 02

仮設工事も進み、

実際に橋梁の建設がはじまって

今までのプロジェクトで印象に残るシーンを

教えてください。

田中

巨大な移動作業車がアーチ基部の1ブロック目のコンクリートを打設し、傾斜したアーチ上を2ブロック目に進んだときでしたね。今回の現場は、経験豊富なメンバーにとっても未知へのチャレンジでしたから、始まる前はやはり不安は大きかったです。本当に38度の斜面を移動作業車が上がれるのか、とか。
そんな中で移動作業車が一段上に進んだときに、“いける!”という空気が生まれました。成功体験というか、あれで一気にみんなに自信が生まれたように思います。

横山

河内川橋の移動作業車はとても大きく、その重さは約350トンもあります。これには設置用と移動用の2種類の足が付いていて、移動の際には足を踏み代えなくてはなりません。もちろん机上の計算では問題ないことがわかっているのですが、本当に38度の傾斜を移動する足に踏み代えても大丈夫だろうかという不安はあるわけです。それが実際に机上で考えたとおりに動いてくれたことに安堵しました。

田中

あれだけ巨大な鉄の塊が動くわけだから、わかっていても慎重になりますよね。

横山

そうなんです。巨大なので通常運行でも相当な動作音がするのですが、ちょっとでも普段と違う音がしたらすぐにストップして原因を探り、問題がないとわかったらまた動かすという繰り返しでした。

柑本

施工も同じです。今だから言えるのですが、私は時々、作業がストップしてしまう夢を見ることがありました。冷や汗をかきながら飛び起きたこともあります。いつしかそうした夢も見なくなった頃に、ようやく山場を乗り越えたのだと実感しました。

平山

先ほど4,600枚もの図面を作成したとお話しましたが、設計者としては図面に描いたとおりに鉄筋が組まれ、部材どうしがつながり、現場で問題なく施工された様子を目にしたときが、ひとつの達成感になりました。横山さんや柑本さんのように私にも不安があって、例えば工場で製作した部材が実際の現場で収まらなかったらという心配はあったんです。だから現場で想定通りに収まっている様子を見たときは、安堵しました。

epilogue

進取の精神の鹿島らしさと、

挑戦の先にある成長

このプロジェクトに対する

“想い”を聞かせてください。

平山

私がこのプロジェクトへの異動を命じられたときに思ったのが「間違いなく今までの中で最も難しい現場だ」ということです。しかし実際に取り組んでみたら、やったことのないことだらけで予想を遥かに上回る難しいプロジェクトでした。だからこそ自分の成長につながったのは間違いありません。

柑本

私は工事着工後すぐに配属になったのですが、実際に現場に来てみたら想像を遥かに超える難工事の現場で、本当にこんなところに橋を架けられるのか、呆然としたものでした。しかし、今は若手のうちからこのような大型プロジェクトに関われたのは良い経験だったと思っています。

横山

私は神奈川県の出身ですからどんなところか想像はついたのですが、柑本さんと同じように初めて現場に来てびっくりしました。事務所の向かいには「道の駅」があって、週末や行楽シーズンには観光客が橋の写真を撮っている様子を目にします。改めて社会的に注目されている大きなプロジェクトだと実感します。

柑本

入社以来私はずっと橋梁に携わってきたので、今後も橋梁の専門家として鹿島に貢献したいと考えています。今回の高難度のプロジェクト経験を、さらに新しい橋の施工に活かしていきたいと考えています。

平山

私も柑本さんと同じく、入社以来、ずっと橋梁を担当してきました。橋梁業界は今、床版取り替えなどの更新工事の比重が大きくなっています。今回のプロジェクトで得た知見は、こうした更新工事にも活かしていきたいと思います。

田中

私は現場の責任者として若手であってもどんどん責任ある仕事を任せ、経験を積ませたいと考えています。それが鹿島の素晴らしい文化であることは間違いありません。これから入社される皆さんにも、ぜひこのような大きなプロジェクトにチャレンジしていただきたいと考えています。これほどスケールが大きい橋梁にチャレンジできるのも、鹿島ならではの魅力だと思います。

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