海外拠点

project 03

The GEAR(SINGAPORE)

2023年8月開業した

鹿島のアジア統括事業拠点

「The GEAR」にせまる

01 interview

02 project member

03 voice

01

interview

大石 修一

常務執行役員 /

KAJIMA DEVELOPMENT PTE. LTD. 社長

技術革新推進の国際拠点

「The GEAR」

国家としての安定性と成長性が際立つシンガポール。国際的なハブとして高いポテンシャルを持つこの国に、鹿島は2023年、アジア地区における本社として「The GEAR」を開業しました。立地は、チャンギ国際空港近くのチャンギ・ビジネスパーク。鹿島のグループ企業が集結するアジア統括事業拠点に加え、R&Dセンター、オープンイノベーションハブとしての機能も併せ持った拠点です。
目指したのはスマートウェルネスオフィスで、設計段階から利用者の快適性と建物の省エネルギー化の両立に取り組みました。また、熱帯地域の気候特性に配慮し、半屋外空間をワークプレイスとして活用する「K/PARK」や「SKY GARDEN」を設置しました。さらに中央の「K/SHAFT」は直射光を制御しつつ自然光のみを取り入れる吹き抜け空間になっており、建物利用者に活力を与えます。傾斜や段差を緩やかにした内部階段は人々の利用を促し、コミュニケーションを活性化します。

R&Dセンターとしては、テーマに応じて5つの研究室を設置しています。例えば「The GEAR」自体を研究素材として取り上げ、ここで働く人々の体温や心拍数等を収集・分析することで、オフィス空間の快適さを客観的な数値として規定する試みを行っています。オープンイノベーションハブとしては、学生やスタートアップ企業に場を提供するインキュベータの機能を備えるほか、国内大手企業との実証実験も展開。国外企業との連携も始まっています。
「The GEAR」は、建物や街区の環境性能評価システム「WELL認証」で最高ランクのプラチナを取得するなど、オフィス空間としても高く評価されています。鹿島は中期経営計画でグローバルなR&D体制の強化によって技術立社として新たな価値を創出することを掲げており、「The GEAR」はその成長戦略の象徴と言えるでしょう。今後の展開に国内外から大きな期待が寄せられています。

02

project member

未踏のチャレンジの

最前線から。

「The GEAR」プロジェクト座談会

シンガポールで進められた「The GEAR」プロジェクト。このプロジェクトの主要立ち上げメンバーの4人に、当時を振り返ってもらいました。プロジェクトの意義や困難だったこと、成し遂げたこと…最前線で感じた思いを、本音で語りました。

member

石川 和良

開発系

森田 順也

数理(情報)系

山越 広志

建築技術系

奥原 徹

建築設計系(意匠系)

story 01

シンガポール政府の期待を

感じながら

石川

私が「The GEAR」プロジェクトの構想を耳にしたのは2018年のことです。鹿島のアジア本社としてシンガポールに凄いビルを建てるプロジェクトと聞き、興奮したものです。本社機能とR&Dセンター機能に加え、オープンイノベーションハブとしての機能も持たせるというコンセプトは、その頃から議論されていました。

森田

2013年に開設された技術研究所のシンガポールオフィス「KaTRIS」(Kajima Technical Research Institute Singapore)が地元の大学等との共同研究を積み重ねてきたこともシンガポール政府に評価されたと聞いています。

石川

シンガポールの土地は基本的に国有地です。それを外国の企業に貸し出す上では、当然、シンガポールへの貢献度が重要視されます。その点、「KaTRIS」が取り組んできたことは非常に高く評価されました。シンガポール政府にとっては「The GEAR」がスタートアップを巻き込んだ技術開発の拠点となり、シンガポール国内の建設不動産業を盛り上げることにつながることに期待していたのでしょう。

奥原

私は2019年の設計開始時から本プロジェクトに参加しました。鹿島建設の新しい海外拠点として、従来の常識を超える挑戦的な建物を目指すということで、力が入りました。特に半屋外空間を大胆に取り込み、自然の力を最大限生かすように計画した執務空間は、シンガポールでも前例のないもので、利用者の快適性と建物の省エネルギー化の両立を目指した大きなチャレンジでした。「KaTRIS」の技術的な協力を得て何度もシミュレーションを重ねて実現したこの空間は、事業者と設計者が一丸となって挑戦的な建物を目指した結果として生まれたものです。シンガポール国内外から、多くの見学者が訪れていると聞いています。

森田

平均気温32度の熱帯気候で、エアコン無しでも快適に過ごせる空間を作るなどさまざまな難題を着想し、設計に盛り込んでもらいましたね。

山越

プロジェクトで苦労したのは、日本との習慣の違いですね。例えば日本では建物全体の建築確認が終わってから着工しますが、シンガポールでは部分的に建築許可を取得しながら工事を進めていくのが一般的で、許可が遅れれば工期延長というのが通常です。このプロジェクトは、竣工後の鹿島グループ入居時期が確定していたため、工期厳守で進める必要があったのですが、そういう条件に慣れていない設計者(注:建築許可申請を担当した現地の設計事務所)とのスケジュール感の共有には我々全員が苦労しました。

奥原

スケジュール管理の感覚については、施工段階だけでなく、設計段階においても習慣の違いを感じました。そのほかにも、日本で当然のようにできることができない、という場面に直面する度に、慣れ親しんだノウハウを一度リセットし、頭をリフレッシュさせて検討をやり直す必要がありました。しかし、このプロセスを通じて、普段は生まれないような面白いアイデアも数多く生まれ、改めて設計の基本を見直す良い機会となりました。

石川

その工期について言えば、コロナ禍の影響を受けました。意匠性の高い見え掛かりとなるコンクリート部材は、工場でプレキャストコンクリートをつくって現場で施工することも多いのですが、シンガポールには製造拠点がなく、マレーシアで製造し、運搬することになります。ところがコロナ禍で国境がほぼ封鎖され、予定したとおりに供給されないという事態になってしまったんです。現場所長の山越さんと検討した結果、やむなく工場での製造はやめて、現場打ちコンクリートで対応することになり、工期に影響が出ました。

山越

確かにコロナ禍には苦労しましたね。シンガポールは完全にロックダウンしてしまい、建設工事どころではなくなりました。現場で働く作業員はほとんど近隣諸国からの労働者で、ロックダウン中は狭い宿舎に閉じ込められ、その結果多くの方々は母国に帰ってしまいました。工事現場内でも厳しいソーシャルディスタンスが適用されました。そんな中で石川さんと膝詰めで、スケジュールを徹底的に見直したことを覚えています。

石川

各局面における個別最適だけでなく、最終的にプロジェクト全体として最高のパフォーマンスを発揮する、つまり全体最適を実現するためにどうすべきかを常に考えていました。このプロジェクトに関係する担当者は、現地の協力会社や作業員も含めて、全員が同じ目的地に向かって同じ車に乗り込んだ仲間みたいなものです。ときになかなかスピードが上がらない場面でも、その場その場で適切なギアにチェンジし、車、つまりプロジェクトをゴールに導いていきます。その過程で生まれるチームとしての一体感は、大きな喜びですね。

story 02

施工中も常に最新技術を

取り入れる

森田

「The GEAR」は自社プロジェクトでしたから、設計から施工、維持管理と、すべてのフェーズを技術開発の機会として活用しようと考えました。特にデジタル技術で可変進化するということをテーマに掲げていましたので、ビル自体を鹿島のスマートビル(IoTセンサーでデータを収集し、AIで解析・制御するビル)の実験場にするアイデアも着工後に取り入れることにしました。山越さんにはご迷惑をおかけしたかもしれませんが。

山越

世界では常に新しいテクノロジーがリリースされます。「The GEAR」を企画した、石川さんや森田さんはできるだけ最新の技術を積極的に取り入れたいと当初より言っていました。もちろん施工する立場としては、工期厳守との間で大変ですが、工期厳守の中で可能性のあるものはすべて受け入れる気持ちで、「事業者とか設計者とか施工者とか、関係ない。我々全員が鹿島なんだ、鹿島として素晴らしいものを作るんだ。」と常に口にしていました。苦労したことは確かですが、非常に価値のある苦労だったと思っています。

石川

山越さんがそうした考えだったことは嬉しいです。当初予定していたこと以外はやらない、と言われたら我々はお手上げですから。

奥原

「今までになかったビルにする」「新しいことに挑戦する」という姿勢が事業者の立場である石川さんや森田さんからはっきりと打ち出されていたので、実験的なことをどんどんやっていくスタンスを貫けたように思います。すべてのアイデアが実現できたわけではありませんが、「面白い建物にしたい」と皆で手間を惜しまずさまざまな可能性の検証を多角的に行ったプロセスの中では、多くの学びもありました。

森田

見学にいらした方から「ここまで突き抜けたビルは見たことがない」という言葉もよく聞きます。やり切ってよかったと思います。

奥原

設計の立場では、シンガポールで先行していたBIMの知見を取り入れられたことはよかったです。試行錯誤を重ねましたが、結果的に業務の効率化とスピードアップを実現できました。

山越

工事の計画・初期段階では、設計のBIMデータを使って、工程シミュレーションなど、新たな取り組みもできました。また、ロボットについても、一定の成果は出せたのではないでしょうか。

森田

山越さんが作業員の確保に苦心していたと話していましたが、そこにロボットです。何でもできるアニメに出てくるようなロボットではありませんが、運搬やコンクリート均しといった単純な繰り返し作業で活用の可能性を示せたと思います。先日、「建設ロボットラボ」に建設ロボット分野の世界的な研究者たちを集めてワークショップを行ったのですが、皆さん、「ここは実験場として使っていいんだ」と認識してくださったようですので、今後もここから新しい建設ロボットが生まれていくことを期待してください。また、「The GEAR」では、サービスロボットがコーヒーを運んだり、元気に挨拶をしてくれます。ロボットが人と建物をつなぐ存在になり、ビルの中の快適性やサービスの向上につながっていけば、と考えています。

山越

お客様のご要望に応じて一品ものをつくりあげていくのが鹿島としての本来の使命ですから、そこにうまくロボット技術を活かして、品質や生産性を向上させ、最終的にはその恩恵をお客様に還元していきたいですね。

story 03

半世紀の実績に、

さらなる上積みを

石川

日本の中学生、高校生が修学旅行の訪問先として「The GEAR」を選んでくれました。嬉しかったですね。これまで企業や公的機関の訪問ばかりだったところ、中学生、そして高校生の訪問先として選んでもらえたことは知名度向上の現れであり、「The GEAR」の果たす役割の一つが成就してきていると言えると思います。

森田

開業1周年記念イベントにも多方面から大勢の来客が集まってくれました。ここでは、我々がこのビルをどのように使っているかというデータを公開しました。すると5~6階の吹き抜けの半屋外空間には自然と皆が集まって、コミュニケーションが生まれていることがわかりました。こうしたエビデンスを設計にフィードバックすることで次につなげていきたいと考えています。

石川

あのプレゼンテーションは高く評価されましたね。「The GEAR」の潜在的な可能性がよく表現されていたと思います。

山越

鹿島はシンガポールで50年以上の実績を重ねており、シンガポール政府の施策にも鹿島のナレッジやテクノロジーが反映されています。我々の先輩たちが積み上げてきたものに、今回「The GEAR」が上積みされて、シンガポールでの鹿島のプレゼンスがさらに高まったのではないでしょうか。

森田

R&Dやオープンイノベーションについて、単に言葉だけでなく社会実装している点が、地に足の着いた取り組みとして評価されていると思います。海外では研究機関を持っているゼネコン自体が希有な存在ですし、シンガポール政府からも「最新技術を自分たちのプロジェクトで実際に使っているから信用できる。建設業の発展に寄与してほしい」と言われたことがあります。地元の優秀人材の雇用に結びつくという期待もあるようですが、それは我々にとってもメリットです。また、チャンギ国際空港から車で5分と至近なので、シンガポールに留まらず、世界とつながる拠点になりました。

石川

ただ、「いいビルができた」と喜んで終わりじゃいけないんです。やはり投資に見合う有形無形のリターンが得られてこそ、「The GEAR」が新たな価値を生むわけですから。ここでの知見が今後のプロジェクトで活かされるようにしないといけません。

奥原

おっしゃるとおりです。「The GEAR」をつくった鹿島だから相談したい、依頼したいと言われるよう、「The GEAR」の成果を対外的に発表していく必要があると思います。

石川

今回のプロジェクトを通じて感じたのは、全員が自分の専門性にこだわって、プロジェクトが成功するまで絶対に諦めないという意志を持っていることです。強い誇りを持ってプロジェクトに取り組んでくれていると感じました。鹿島らしさだと思います。

山越

確かにそのとおりですね。自分の仕事は必ず最後までやり切る姿勢は、鹿島の全社員に共通のものです。

奥原

仕事に対して誠実ですよね。その上で、楽しみながら挑戦する。今回のプロジェクトでは、それを特に強く感じました。

森田

一番嫌だったのは、完成後に「こんなものか」と言われることでした。絶対にそんなことにはしないという思いは、皆に共通していたと思います。

山越

それぞれに多様なバックグラウンドを持つ専門家が一つのチームとして信じる道を走っていくのが、鹿島のプロジェクトです。現場所長として取りまとめていくことは大変ですが、大きなやりがいです。

石川

先ほど森田さんがおっしゃったように「The GEAR」は自社プロジェクトであるため、アグレッシブに実験的な取り組みを行うことができました。このようなプロジェクトは多くありませんが、自社プロジェクト以外でも大小さまざまなチャレンジをする機会はあります。これから入社される皆さんも、担当するプロジェクトでは自由な発想で新たなチャレンジをしていただきたいと思います。

森田

今回「The GEAR」のようなチャレンジの機会を用意してくれたことを、これまでの先輩方に感謝しています。次は我々が、これから入社する次世代の皆さんに新たな挑戦の場を提供できるように、信頼と実績をつないでいきたいと思います。

03

voice

The GEARで働く人の声

木村 祐介

海外勤務 事務系

新たなアイデアやビジネスが生まれる空間

入社5年目に当時のIRグループに配属。鹿島も海外事業の拡大のタイミングでステークホルダーに向けての広報活動を通じ、いつか自分も海外で働いてみたいと思うようになりました。そして2020年に東南アジア開発事業の統括会社であるKAJIMA DEVELOPMENT社へ出向しました。オフィスがある「The GEAR」にはさまざまなタイプのフリーアドレス席が用意されており、好きな座席を選択することができます。自分好みに色や明るさを変更できる照明や、森林の香りなどを発する最新設備も備わっており、毎日どこで働こうかと楽しく考えています。施設は内階段で容易に別の階に移動できるため、部署の垣根を超えたスタッフ同士の交流が盛んで、自然な交流の中から、気づきや新たな発想を得る機会も生まれています。
また、「The GEAR」は海外拠点で唯一技術研究所を備えていることも特徴です。開業後、民間企業や政府省庁、大学関係者など多くの方々が見学に来ており、建物自体が鹿島の技術営業ツールの役割を担っています。鹿島は「The GEAR」を活用してアジアでの存在感を着実に高めているでしょう。

Uzair Javaidさん

BetterData 共同創業者兼CEO(テナント入居者)

スタートアップの飛躍の拠点として

当社のオフィスは「The GEAR」の3階にあり、非常に快適です。数多くのセンサーや技術が導入されたスマートビルディングで、常に最適な環境を保つように設計されており、生産性と創造性の向上を実感しています。それによってこれまで4時間分の作業しかできなかったところ、6時間分の生産性が得られるようになりました。
データ解析や機械学習に強みを持つ当社は、鹿島技術研究所のシンガポールオフィスKaTRISと共同で、「The GEAR」の空気の質や温度、部屋の人数などの膨大なデータを活用したイノベーションに取り組んでいます。スタートアップである当社が鹿島のような大企業に認められ、一緒に仕事をすることは、間違いなく私たちのビジネスにとって大きなメリットです。今後は鹿島とともに東南アジアでのAI市場開拓し、最終的には世界中で認められることを目標に挑戦を続けます。

others