不動産開発&建築

project 02

haneda
innovation city

鹿島ならではの

官・民・地元連携で実現した

新しい街。

2023年11月、東京都大田区の羽田空港に隣接する大規模複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」(以下HICity=エイチアイシティ:略称)がグランドオープンしました。日本初の「スマートエアポートシティ」として誕生した、先端産業と文化産業が交わる、新たなイノベーション創造拠点であり、国内外から大きく注目されています。このプロジェクトに携わった開発・設計・施工のメンバーがHICityに集まり、それぞれの取り組みについて振り返りました。

HANEDA INNOVATION CITY
工事場所:
東京都大田区羽田空港一丁目1番4号
発注者:
羽田みらい開発株式会社(鹿島建設株式会社、大和ハウス工業株式会社、京浜急行電鉄株式会社、日本空港ビルデング株式会社、空港施設株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、東京モノレール株式会社、野村不動産パートナーズ株式会社、富士フイルム株式会社)
用途:
研究開発拠点(ラボ、大規模オフィス)、区施策活用スペース、先端医療研究センター(医療・研究施設、滞在施設)、先端モビリティセンター(テスト路併設)、会議研修センター(カンファレンスルーム・滞在施設)、イベントホール、文化体験商業施設、水素ステーション、交流・連携スペースなど
全体計画:
鹿島建設株式会社
設計:
鹿島建設株式会社(全体)、大和ハウス工業株式会社(第Ⅰ期大和ハウス工区)
施工:
鹿島建設株式会社(第Ⅰ・Ⅱ期)、大和ハウス工業株式会社(第Ⅰ期)
規模:
敷地面積:約16.5ha、延床面積:約131,000㎡、地上11階・地下1階
工期:
第一区画 2018年12月4日~2020年5月31日
第ニ区画 2021年7月31日~2023年8月31日

member

開発

加藤 篤史

羽田みらい開発株式会社
統括責任者

長井 俊明

次長

谷口 直輝

設計

大橋 隆男

グループリーダー

小林 春香

施工

廣田 裕介

現場所長(第Ⅰ期)、
建築部長(第Ⅱ期)

兒玉 哲志

現場所長(第Ⅱ期)

藤田 輝尚

工事課長(第Ⅱ期)

木原 洋平

設備課長(第Ⅱ期)

小野 直樹

機電課長(第Ⅱ期)

story 01

土地の歴史を学び、

人々の声に耳を傾ける

HICity開発の背景について教えてください。

加藤

羽田空港跡地について、大田区が新産業創造・発信拠点の形成を目指して官民連携で開発を進める、延床13万㎡を超える大規模開発プロジェクトです。その土地利用コンペで、鹿島が代表企業を務めるコンソーシアム「羽田みらい開発株式会社」が当選したことから始まりました。

谷口

ドラマ『下町ロケット』に描かれたように、大田区は全国有数の中小企業集積地として知られ、高い技術力を誇る町工場が多数軒を連ねています。一方で生産年齢人口の減少や後継者不足などが深刻化しています。こうした中で大田区は持続可能な都市の創造を目指し、先端産業と文化産業の拠点をつくるという大規模開発案件でした。

長井

コンペで我々が選ばれた背景には、鹿島ならではの高い提案力が評価されたと自負しています。羽田の地と縁深く、建設事業を通じて関係を構築している企業の方々とコンソーシアムを組成できたことなどが当選につながったと思っています。例えば、京浜急行電鉄様や東京モノレール様などに構成員として加わっていただけたことで、天空橋駅改札との直結を実現できたことも、大きな要因だったと思います。

加藤

また、医療系施設を入れることで、世界最高水準の医療技術を地域産業との協働開発で推し進めていく医工連携の実現も、鹿島ならではの提案でした。

大橋

私が今でも思い出すのは初めてこの土地を見たときのことです。見渡す限り何もない広大な更地で、本当にここに街ができるのかなと思ったものでした。そんな中、先端産業と文化産業の拠点というコンセプトでゼロから街づくりを行ったというのは、鹿島としてもレアなプロジェクトだと思います。鹿島ならではの構想力が十分に活かされたと思います。

加藤

もともとこの場所は羽田江戸見町・羽田穴守町・羽田鈴木町という3つの町が存在していました。第2次世界大戦終了後、GHQがこの土地を空港として使用することを決定し、住民約3,000人が48時間以内に自分の土地を明け渡すよう、命じられました。80年近く経った今でも、当時の住民の子孫の方が近隣には多数暮らしていらっしゃいます。更地とはいえ、本来は自分たちの祖先の土地だったという思いが皆さんの心に残っており、その配慮も我々にとって大きな課題でした。

長井

そこで加藤さんを中心に開発メンバーは近隣の町会を訪ね歩き、皆さんの想いに耳を傾けました。お話を聞くと、やはりこのエリアに対する皆さんの思い入れは非常に強く、そうした声一つひとつを丁寧にうかがった上で、開発計画に反映させていくことが重要だと感じました。

加藤

この土地の歴史について我々がどう認識しているのかを問われることもありましたし、町会の皆さんと膝詰めで話し合うことで地元に賛同される計画を進められたことは、我々にとっても大きな財産になりました。このプロジェクトに限らず、住民の皆さんと真摯に向き合うことは絶対に必要です。開発と聞くと華やかなものづくりのイメージが強いですが、一方でこうした地道な取り組みも重要であり、それも開発ならではの醍醐味であることを、学生の皆さんにはぜひ知っていただきたいと思います。

story 02

古地図を読み解き、

多様な視点を意識する

HICityの全体計画の取り組みについて

教えてください。

大橋

街全体のマスタープランを考える上で我々がヒントを得たのは、古地図で軌跡が残っていた、かつての羽田村の道路です。この道路の位置を計画の中心として、さまざまな施設を配置する『イノベーション・コリドー』と呼ばれるメイン通路とし、新しい街の軸にしようと考えて実現したものです。更地のゼロからのスタートではありましたが、設計メンバーで知恵を出し合い、歴史を振り返ることでかつての土地の姿を浮かび上がらせることから始めたわけです。

兒玉

その話は初めて聞きました。古地図を見つけ出すところからアプローチするとは、さすが鹿島の設計チームですね。

小林

コリドーのデザインにはこの建物全体を貫くコンセプトが詰まっています。コリドーは人々が行き交う「みち」の空間ですが、建物の上階から見下ろしてみると、実はタイルの模様や建物の形が人々を「みち」の奥へと導いていることに気が付きます。寄り目線と引き目線両方からのアプローチが重要なのです。私は入社してすぐにこのプロジェクトに参画したのですが、学生時代の設計との大きな違いをここで学びました。学生時代は、なんとなくいい感じのデザインができたらOKだったのに対し、仕事で設計をする際は事業者である開発チームの皆さん、施工チームの皆さんに意図をちゃんと納得していただけるデザインでなければならないわけです。設計の奥深さを学び、担当したオフィスや大屋根の設計において実践してきました。

廣田

開発・設計・施工の三位一体体制で取り組んだのが今回のプロジェクトで、立場は違っても同じ会社のメンバーで、目的・目標を一つにして協力できたことがよかったと思います。設計の皆さんとも時には喧々諤々の議論をしながら、同じ鹿島の一員といい街づくりを目指しているんだという思いを強くしました。

小林

そのとおりですね。立場が違い、仕事は違っても、壁のようなものはまったくなかったです。

藤田

現場で施工に携わっているとあまりそうした意識はなかったのですが、こうして改めてお話を聞くと、全員の志は同じだったんだと感じました。

大橋

今回特に大変だったのは、羽田空港に隣接するゆえの高さや安全性に関するさまざまな制限でした。施工チームの皆さんも同様だったと思いますが、この航空制限をいかに建築のデザインに落とし込むかが、各棟の設計メンバーとの共通課題でした。
完成したHICityを遠くから眺めると、航空制限の高さに沿って階段状にデザインされたことがわかります。躍動感のある新しい街が立ち上がり、感慨深いものがあります。

story 03

“万が一”も絶対に

許されない厳格さの中で

施工で苦労されたのはどんな点でしたか。

廣田

第Ⅰ期工事を東京オリンピック2020までに間に合わせなくてはならないという制約に加え、新型コロナウィルスのパンデミックに襲われたことには苦労しました。情報共有のための朝礼もできない中、協力会社の皆さんには大いに助けられました。

兒玉

第Ⅰ期工事が終わって2020年7月に一部ゾーンが先行オープンした後、2023年のグランドオープンを目指して第Ⅱ期工事が始まりました。HICity全体の敷地には十分な広さがあるものの、第Ⅱ期工事のエリアだけを見れば非常に狭く、しかもお客様が多数来場されている中で工事を進めなくてはなりません。建物外周に余地がない中、工事計画や作業手順を何度も練り直しながら工事を進めました。

廣田

あとは先ほど大橋さんの話にもあった、航空局と調整には苦労しましたね。羽田というエリアならではの特殊な事情ではあるのですが、通常の工事であれば、公道に対して警察の許可だけで済むところ、ここでは敷地全体に対して航空局の許可も必要になります。航空局の皆さんは我々のような建設会社との対応には慣れていらっしゃらないため、いかにわかりやすく説明するか、気を配りました。

小野

私はクレーンなどの重機を使った施工について担当し、航空制限にかからないように工事を進めるためのルールづくりを行いました。その際もやはり航空局の方と調整するわけですが、クレーンをどのように動かすのか、わかりやすく説明することを心がけました。

木原

風が非常に強かったことにも苦労しましたね。

兒玉

10メートル強の風の吹く回数が、都内の一般的な建設現場の10倍以上もありました。もし資材などが風に飛ばされて滑走路に入ったりしたら、「ごめんなさい」じゃ済まないわけです。飛行機の運航が止まってしまいます。万が一にもそんな事態が起きることは絶対に許されませんでした。

木原

通常の現場でも風散防止のルールをつくって万全の対策をしますが、今回はさらにネットをかけて確実に留めるという対応を徹底しました。さらに、我々はこのルールを協力会社の皆さんにも徹底してもらうように現場に何度も話しをしに行きました。結果、次第に協力会社の皆さんとも連携が深まり、現場のレベルが上がってきたことを実感しました。ルールを徹底させるという点で、普段はやさしい兒玉所長も、この時はとても厳格でしたね。私も甘さを指摘され、叱られました。現場のすべてに対して責任を負っている、所長という仕事の重さを目の当たりにしました。

藤田

私はホテル内装工事を担当しました。まずモックアップ模型をつくり、計画を確かめたところ、1室で約40の作業工程があることがわかりました。今回の客室は230室以上となります。それを実際に展開するための工程管理には苦労しました。

兒玉

ホテルと言えば、給排水等に使用するシャフトをユニット化したことも印象に残っています。通常は現場で職人さんが手作業で行うところ、工期短縮のために工場で事前に組み立ててユニット化し、現場で取り付けるようにしました。社内的にも非常に注目されているプロジェクトという意識がありましたから、つねに施工上の工夫を考えながら進めたものでした。

epilogue

先端技術実証の場として、

次につなげていく

技術的な新しい取り組みもされましたね。

加藤

代表的なのはデジタルツイン技術である「3D K-Field」の導入です。これは鹿島が独自に開発したもので、通常は建設工事に着手する前に仮想空間で建てることで、施工上の課題を明らかにしようとするものです。HICityのユニークな点は、これを建物の管理や運営に活用できないかと考えたことでした。例えば来場者の動きをデータとして取り組み、管理にフィードバックすることで、より効率の良い管理に結びつけられないかと考えています。

谷口

自動運転バスの実証実験にも取り組んでいます。HICity敷地内では自動運転バスが定常運行しており、敷地外のエリアとの間では実証運行も行ってきました。2024年6月には、民間で初めて自動運転レベル4の運行許可も取得しました。

加藤

こうした取り組みは今後、鹿島がスマートシティの構築を進めていく上での貴重な知見として活用されることでしよう。その意味でもHICityはまさに先端技術の実証実験の場、ショーケースでもあると考えています。

皆さんが今回のプロジェクトを通じて感じた

“鹿島らしさ”とは何でしょうか。

加藤

いかにしてクオリティの高いものづくりを行うか、その一点で全員の意識が結ばれているところが、最も鹿島らしい点だと感じています。

長井

想定外の事態が発生した場合でも開発、設計、施工が三位一体となり、互いに知恵を出し合いながら、この街にとっての最善の解決策を見出していく、その共通の「想い」だと思います。また、建てて終わりではなく、建物の完成後は街の始まりとして、夏祭りや日本全国の物産展を企画したり、最新モビリティやロボットの体験機会を設けたりと、運営面でもこの街らしい取り組みを推進していく予定です。

谷口

私は新入社員でこのプロジェクトに参加しました。開発、設計、施工がシームレスに同じ目標に向かって突き進む過程を日々実感していましたし、自分もその一員になれたことを嬉しく思っています。

小林

入社して初めてのプロジェクトでした。設計という立場ではあっても、開発や施工の皆さんにも育てていただいたと感じています。同じ会社の仲間としてのつながりを実感しました。

大橋

全員が自分ならではの強いこだわりを持っています。いいものをつくるために、絶対に妥協しないという姿勢は、素晴らしいものです。

藤田

技術的に困難な課題にぶつかったときも、社内には多くの専門家がいるので、そのネットワークを活かして解決することができます。

木原

とても人間くさい会社だと感じています。協力会社の皆さんや職人さんにも寄り添い、心を一つにしながら仕事に取り組む姿勢が根付いています。

小野

現場には作業員さんの生命を預かっているという緊張感があります。その中で自分なりに新しいことにチャレンジさせてくれる環境があります。

兒玉

全員が鹿島というブランドに対して誇りを持ち、その名前にふさわしいものづくりに、妥協せずに取り組んでいます。鹿島ならではのプライドを大切にしたいと思います。

廣田

仕事を任せる風土があり、任されたからには絶対にやり遂げようという覚悟を全員が持っています。ものづくりに真摯に取り組んでいく姿勢は、素晴らしいものです。私は、第Ⅰ期工事を現場所長として担当し、第Ⅱ期工事は兒玉所長に引き継ぎ、建築部長として担当をしました。このプロジェクトを通じ、自身の成長も実感できました。

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