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新聞・雑誌広告

富士屋ホテル

出典:富士屋ホテル

140年の記憶を未来へつなぐ

明治時代初期,東海道の難所と言われた箱根山中に突如現れた洋館は,藁葺屋根が建ち並ぶ温泉街を圧倒した。
和洋折衷の荘厳な建築群と先進的なホスピタリティは,国内外から訪れる多くの著名人にも愛され,
今も日本を代表するクラシックホテルとして名高い。
2018年4月,耐震性の確保を主とした耐震改修工事が着工し,全館休館に。
それから2年3ヵ月。富士屋ホテルが令和の時代に蘇る―。

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江戸末期,浮世絵師の歌川広重が描いた浮世絵は,「七湯巡り」というブームに一層の拍車をかけた 
出典:富士屋ホテル

箱根・宮ノ下のシンボル

関東圏から気軽に行くことのできるリゾート地として,現在では年間2,000万人近い観光客が訪れる箱根。一帯は富士箱根伊豆国立公園に指定され,豊富な温泉や複雑な地形,雄大な自然など,地中深くに根差す火山エネルギーによって生み出される大地の恵みを感じられる。

地図

箱根は古くから湯治場として知られる。奈良時代の738(天平10)年,釈浄定防(しゃくじょうじょうぼう)が源泉の一つを発見したことがその始まりと伝えられ,江戸時代に東海道が整備されると,箱根山を越える旅人たちの疲れを癒すとともに,さまざまな疾病の湯治場「箱根七湯」として親しまれた。江戸末期には,本来の病気療養のための湯治ではなく,少人数で物見遊山を目的に巡るスタイルが人気を博す。開国を経て明治時代中期になると,近代交通の発達とともに奥深い箱根に足を踏み入れ,高地の景観と温泉を楽しむ外国人が増えていった。

※湯本,塔ノ沢,堂ヶ島,宮ノ下,底倉,木賀,芦之湯

富士屋ホテルの創業者山口仙之助は,横浜で事業を行っていた際に外国人と接した経験から,いち早く国際観光に着目する。外国人客専門の旅館を経営することを志し,箱根・宮ノ下の藤屋旅館を買い取り,建物とサービスを一新。1878(明治11)年,洋館建築とともに富士屋ホテルが開業した。

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図版:創業当初の洋館

創業当初の洋館 出典:長崎大学附属図書館

図版:1891年頃の宮ノ下

1891年頃の宮ノ下。左奥が富士屋ホテル 出典:長崎大学附属図書館

一方で,狭谷に囲まれた箱根を観光地として発展させるため交通網を整備していったのは,仙之助をはじめとする当時の温泉宿の当主たちだ。彼らの尽力が,それぞれの温泉に気軽に立ち寄ることを可能とし,今の箱根の賑わいを切り拓いていった。

こうして富士屋ホテルは,箱根のリゾート地の開発とともに,西洋文化を多様に取り入れた意匠とサービスで日本のホテル文化を牽引した。

図版:金魚風呂

金魚風呂。温泉に入る目的を湯治ではなく,入浴としての機能を重視し,遊び心のある多様な温泉の姿をつくりだした 
出典:富士屋ホテル

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建物の価値の本質を残す

富士屋ホテルの魅力の一つである建築群。複雑な地形の中に時代の異なる建物が連なり,それぞれが際立った個性を備えている。

図版:富士屋ホテルの建築群

富士屋ホテルの建築群(1906年) 出典:長崎大学附属図書館

2013年に耐震改修促進法が改正されたことに伴い耐震診断を実施した結果,基準を下回る数値であることが分かり,耐震改修工事を行うことを決定した。対象となるのは,1891(明治24)年竣工の本館をはじめ,西洋館,カスケードルーム,厨房,日本閣,食堂棟,花御殿,フォレスト・ロッジ。そのうち4棟は登録有形文化財に指定されている。

今回のプロジェクトでは,文化財的な厳密な復元で富士屋ホテルの存在価値を表現するのではなく,伝統の継承と新技術の組合せにより,建物の価値の本質を残すことを目指した。本館や食堂棟などは姿を変えずに,床・壁・天井の裏側に鉄骨や合板による耐震補強を主として,防災改修,設備の全面更新を含む劣化改修,バリアフリー対策などを行う。一方で,従業員の就労環境改善などを目的に,カスケードルーム,厨房,日本閣は解体し,カスケード・ウイングを新築する。

施工技術協力者に選定された当社は,2016年秋から現場に入り,施工計画検討のための現地調査を開始した。その間,ホテルは通常通り営業。調査は営業時間の合間を縫って行われ,限られた時間内に天井裏や床下に潜り込んで建物の骨組み,構造,劣化状況などを確認・記録する作業を繰り返した。そして,1年半後の2018年4月,ホテルの休館とともに平成の大改修が着工を迎えた。

図版:日本閣

日本閣。建築当初は客室であったが,その後は事務所として使用された 
出典:富士屋ホテル

図版:カスケードルームは舞踏場や宴会場として親しまれた

カスケードルームは舞踏場や宴会場として親しまれた 
出典:富士屋ホテル

図版:自然光が降り注ぐ吹抜けの厨房は,かつて東洋一と讃えられた

自然光が降り注ぐ吹抜けの厨房は,かつて東洋一と讃えられた 
出典:富士屋ホテル

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図版:改修工事前の富士屋ホテル全景

改修工事前の富士屋ホテル全景 出典:富士屋ホテル

次の100年に向けた大改修

【工事概要】

富士屋ホテル耐震改修工事

場所:
神奈川県足柄下郡箱根町
発注者:
富士屋ホテル
設計:
石本建築事務所
規模:
(改修)本館―木造 2F/西洋館―木造 2F 食堂棟―RC・木造 B1,1F
花御殿―RC・木造 B2,4F フォレスト・ロッジ―RC・S造 6F
(解体)カスケード棟―RC・木造 B1,2F 日本閣・厨房―RC・木造 B1,2F
(建替)カスケード・ウイング―RC B1,3F 
総延べ17,439m2
工期:
2018年4月~2020年6月
(横浜支店施工)
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木造建築と向き合う

洋風の意匠を基調にしながら,唐破風の玄関など和風の意匠を加味した複雑な外観。内装には,随所に美術品のような彫刻や虹梁などが散りばめられ,良質な素材や細部にいたる装飾一つひとつにこだわりが感じられる。大部分が木造。入り組むように配置された客室や階高4m以上ある広間など,くつろぎを演出するさまざまな空間を,100年前の木の梁や柱が支えている。

図版:高台から見た現場の様子

高台から見た現場の様子(2019年10月)

度重なる増築・改修を経た建物を詳細に残している図面はない。現場を取り仕切った原田卓也所長は,「着工してしばらくは改修図を片手に建屋内を見て回りました。図面と状況が異なる箇所も多く,梁や柱も現在のようにきちんと製材されているわけではなく,まっすぐなものはほとんどない。難しい工事になると思いました」。調査を進めると,これまで見たことのない構造体が顔を出す。本館の巨大な屋根を支える小屋組は,できる限り自然のまま使用された木材によって,見事に荷重が分散されるように組まれていた。

原田所長も,木造建築を施工するのはこれが初めて。「今回,社寺などの文化財建築を得意とする会社に協力していただきました。分からないことは,自分が理解できるまで経験豊富な彼らにとことん話を聞きました」。慣れない木造建築に,自分の知識・経験を少しずつ擦り合わせる。特別なことを行うのではなく,基本を大切に施工を進めた。「現場をきれいに美しく保つ。そうすれば,自ずと課題が見えてきます」。

図版:原田卓也所長

原田卓也所長
photo:Shinjiro Yamada

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図版:本館の小屋組

本館の小屋組。荷重が分散されるように組まれており,当時の棟梁の技が光る

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唯一無二を未来へ紡ぐ

富士屋ホテルの建物の多くは,建設時期が古いため現行法規に適合していない。しかし,次の100年を考えた時に富士屋ホテルとして欠かすことのできない厨房および事務所については,事業の継続性と従業員の就労環境改善の観点から新棟への建替えが望まれていた。

問題は,複数の棟が連結している富士屋ホテルでは一棟を建替えることで,現行法がほかの棟にも波及し,現在の状態を維持できなくなることだった。登録有形文化財の歴史的価値の維持とホスピタリティ向上につながる施設の刷新。これを両立するために採用されたのが建築基準法の適用除外というスキームだ。

「防耐火などの現行法を適用すると歴史的価値を残せないものについて,同等の代替措置を行うことで現行法の適用除外を認めてもらうという,全国的に見ても大規模木造宿泊施設としては極めて前例の少ない手法です。計画をまとめるまでの道のりは,とても長く感じられました」。こう話すのは齋藤正治副所長。現地調査を始めた当初からプロジェクトに関わっている。建替えの話が挙がったのは調査開始から10ヵ月近くが経った2017年7月。「そこから,施主・設計・施工と三者一体となって計画をつくり込み,2018年4月の着工に漕ぎ着けました。実施設計をまとめた石本建築事務所,決行を踏み切ったオーナーおよび富士屋ホテルさんも大変苦労されたと思います。また,早い段階から施工的視点で携わった当社の役割も大きかったと感じています。この工事が,歴史的建造物の保全という課題に対する一つの道標になれば」と齋藤副所長は語った。

着工から26ヵ月,模索し続けながら推し進めた工事が竣工を迎えた。「大変な工事だったことは覚えているのですが,特に何が大変だったのかは,すぐに思い出せないんですよね」と原田所長は微笑む。「とにかく,無事に終えることができてよかったです」。ひたむきな姿勢が,新しい富士屋ホテルを令和に届けた。

図版:齋藤正治副所長

齋藤正治副所長
photo:Shinjiro Yamada

図版:本館1階壁内に取り付けられた耐震補強用の鉄骨(2019年7月)

本館1階壁内に取り付けられた耐震補強用の鉄骨(2019年7月)

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図版:食堂棟のメインダイニングに取り付けられた耐震補強用の鉄骨(2019年7月)

食堂棟のメインダイニングに取り付けられた耐震補強用の鉄骨(2019年7月)

column

歴史やドラマを生かす

当社グループ会社Kプロビジョンは,富士屋ホテルが有する歴史やドラマを生かした空間づくりを行った。耐震改修工事に伴う史料整理の中で,ホテル内の倉庫から新たな史料が数多く発見された。Kプロビジョンはすべての史料を整理・分類したうえで,それらを生かした展示室の構築を提案。これまでの史料展示室をリニューアルすることが決まった。ほかにも,富士屋ホテルのあゆんだ歴史や工事の様子を綴った記念誌を作成。休館の間も,お客様に富士屋ホテルのことを感じてもらえるような工夫を行った。

今後も,当社グループは工事に関する付加価値を高める取組みを積極的に行っていく。

図版:5部構成の140周年記念誌を順番に作成した

5部構成の140周年記念誌を順番に作成した

図版:新しい史料展示室

新しい史料展示室 photo:Shinjiro Yamada

“富士屋ホテルらしさ”を継承しながら,新たな価値を創造

図版:溝田正憲 氏

photo:Shinjiro Yamada

明治,大正,昭和,平成と140余年の長きにわたり皆様とともにあゆみ続けてきた富士屋ホテルは, 2020年7月15日,2年間にわたる耐震補強・改修工事を終え,新生・富士屋ホテルとしてグランドオープンいたしました。

2013年に耐震改修促進法が改正されたことに伴い,耐震診断を実施した結果,当ホテルはお客様と従業員の安心安全を最優先とする耐震プロジェクトを行うことを決定いたしました。創業以来初めてとなる今回のプロジェクトは,「何世代にもわたる人々とともに,そこにあり続けるという価値」を伝えるため,文化財の継承と新技術を組み合わせたリニューアルを実施し,建物の価値の本質を残しました。

老朽化した施設を刷新するだけではなく,富士屋ホテルが有する歴史やドラマを生かし,再現する。こういった耐震プロジェクトは,ホテルの建物が竣工から長い年月が経っているため,複雑に入り組むような各施設の状況を正確に把握することから始めました。詳細な図面が残っていなかったため,現地調査とその結果に基づいた図面の復元など,多大な苦労と時間を要したにもかかわらず,今に至ることができたのは,鹿島建設さんの高度な技術とノウハウによる総合力があってこそだと思います。

歴代の経営者が建てた貴重な建築群に宿る“富士屋ホテルらしさ”を継承し続けるという信念のもと,耐震性能を備えた新しい施設で,新たな価値を提供し,お客様とともにこの地にあり続けられますよう,これからもクラシックホテルのパイオニアとしての誇りを胸に新たな歴史を刻んでまいります。

写真:富士屋ホテル

photo:1, 8 Kouichirou Hori,
2, 3, 5, 6, 7 Shinjiro Yamada, 4 Nobuo Iseki

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