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5,500haもの山林を保有し,100年以上にわたる山林施業管理の実績,
緑地環境の施工・管理会社の育成強化や,ランドスケープ設計部門を業界に先駆けて設置するなど,
緑地環境に常に向き合いながら国土・都市空間をつくりあげてきた鹿島グループ。
その知見を活かし,さまざまな場面にみどりをプラスすることで,SDGs,ESG,
カーボンニュートラルの達成や社会・顧客価値の向上をめざしている。
調査から計画,設計,施工,維持管理,運営に至るすべてのフェーズで最適解を提供する
鹿島グループのみどりのバリューチェーンを紹介する。
福田孝晴
地球温暖化,激甚化する自然災害,都市部に暮らす人びとの健康問題など,産業革命以降の急速な経済発展が生み出した多くの課題にいま私たちは直面しています。当社は人間の営みと自然がともにあることの重要性にいち早く気づき,120年前より北海道の尺別を手始めに,全国において山林の健全な整備・経営に取り組んでまいりました。その後も緑化造園事業の推進を図るとともに,ランドスケープデザインに関わる専門部署の創設やプランニングデザイン会社,地球環境に関わる研究部門を早くから設立しました。快適な外部空間の提供や環境保全,防災に努めて,その実績を積み重ねています。
近年ITの発展により,みどりの効果が科学的根拠をもって評価されており,その範囲は多岐にわたっています。都市部においては夏季のヒートアイランド現象を緩和し,執務空間ではストレスを軽減して業務効率を高める効果が認められています。また,里山における棚田やため池の保全が,日本の原風景を維持し,しかも適切な治山治水によって豪雨などの自然災害から私たちの生活を守ることにつながるとして注目されています。
当社グループはこれまで一世紀以上にわたって培ったみどりに関する技術やノウハウと,グループ連携による多様性を活かして,どのフェーズにおいてもお客様のニーズにお応えできるような体制を整え,調査から計画,設計,施工,そして維持管理,運営に至る一貫したサービスの提供をめざしています。これからも「みどりのバリューチェーン」をテーマに,進取の精神でみどりを創造し育んでまいります。そして「社業の発展を通じて社会に貢献する」という経営理念のもとで設定した7つの重要課題(マテリアリティ)に合致した目標として,安全・安心な国土とインフラの形成,潤いのある快適でカーボンニュートラルな都市空間の創造,社会とお客様の資産価値向上に貢献してまいります。
緻密な調査分析を重ね,
風土に適した緑地環境を知る
材木の産出から生態系保護,
森林クレジットの取得まで
北海道開発が盛んに行われた明治期に,政府から借り受けた尺別の地が当社グループの山林経営の原点である。開拓に伴い行った原生林の伐採,材木化によって副産物的に林業に着手することとなったが,軽井沢から寒気に強いカラマツの種子を取り寄せるなど,その土地に合った樹種を探求し,営林努力を重ねた結果がいまの尺別山林の姿だ。手入れの行き届いた森には,キタキツネをはじめとするさまざまな動植物が息づき,豊かな生態系が育まれている。
尺別山林の管理は当社グループのかたばみ興業(以下,かたばみ)が行う。北は北海道から南は宮崎県まで,気候も植生も異なる国内各地の5,500haの山林を管理している同社は,環境省のオフセット・クレジット(J-VER)認証*1を申請,取得の実績があり,現行制度となるJ-クレジットの取得にも意欲的に取り組む。温暖化対策に国を挙げて取り組む中で,カーボンニュートラル達成の要となるカーボンオフセットに山林管理で貢献する。
*1:森林は間伐をはじめとする適切な管理によってCO2吸収能力が高まるため,CO2排出を埋め合わせるカーボンオフセット効果が認められている。J-VERはカーボンオフセットを行う際に必要なクレジットを発行・認証する制度として2008年に環境省が創設。2013年より経済産業省・環境省・農林水産省が運用するJ-クレジット制度へ移行した
人びとに愛される風景を,より安全に
かたばみが行う樹木管理の現場は山林の中だけではない。東京を代表するイルミネーションの名所「表参道ケヤキ並木」(東京都渋谷区・港区)の約1.1kmにわたる管理にも携わっている。樹木医資格保有者が,150本以上あるケヤキの樹木診断,根・幹の状況を診断しカルテに記録,危険度の高い樹木には樹勢回復や植替えなどの処置方法の提案を行う。
曹洞宗大本山「永平寺」(福井県永平寺町)は鎌倉時代の1244年に開山。その長い歴史の中で育まれた木々は,近年になり枯れ枝の落下や幹折れなどが多発し,2010年の強風による巨杉の幹折れを機に環境保全対策に着手した。境内の建物と森林の保全,人命保護のため,かたばみの樹木医らが樹木の診断と対策実施に努めている。樹木のケアで,残したい風景を次世代へつなぐ。
photo: PIXTA
さまざまな知見を統合し,
安心・安全で快適な緑地環境を設計する
みどりとともにある
スマートウェルネスビル
当社グループのアジアの統括事業拠点となる「The GEAR」。シンガポールの空港にほど近い現場では,今年度末の竣工に向けた槌音が響いている。当社建築設計本部(以下,AE),プレイスメディア,LD,技研が協働して設計した空間は,みどりを取り入れた次世代型オフィス環境R&Dの舞台になる。空間デザインのキーワードはバイオフィリックデザインとABWだ。
The GEAR
- 発注者:カジマ・デベロップメント
- 設計:当社建築設計本部
- ランドスケープ設計監修:プレイスメディア
- ランドスケープ設計:ランドスケープデザイン
- 施工:KOAシンガポール
「バイオフィリックデザインは,自然とのつながりが感じられるように配慮するデザイン手法です。オフィス空間でも自然の要素を取り込むことで生産性,創造性と幸福感が向上するという報告があります。また,ABWはアクティビティ・ベースド・ワーキングの略で,オフィス内にさまざまなかたちのワークスペースを設け,利用者がその時の業務内容に応じて働く場所や時間を選べるワークスタイルです。The GEARでは,これら新しい空間概念の効果を定量的に捉えるための研究が計画されています。将来的に,オフィス空間の設計や不動産開発における提案のエビデンスとすることをめざしています」と話すのは技研の高砂裕之上席研究員。
The GEARには上記のデザイン手法を取り込んだ多様な空間があるが,中でも特徴的な2種類のスペースを紹介したい。ひとつは5階に設けられるK/PARK。吹抜け上部のハイサイドライトと建物を上下に貫くK/SHAFTのトップライトから自然光をふんだんに取り込んでいる。また,東西にあるガラスの大型引き戸を開放することで,外気を大胆に取り入れる半外部空間としての利用も可能な設計となっている。移動可能なみどりの設えを組み合わせることで,空間のバリエーションを生み,多様なワークスペースを与えてくれるだろう。もうひとつは2~6階の各階に設けられたSKY GARDEN。リラクゼーション,インスピレーション,コラボレーションといった階ごとのテーマに沿ったさまざまなみどりがオフィス空間の彩りを演出する。
「The GEARではウェアラブルデバイスやスマートフォンを用いて利用者から空間の快適性や使用感に関する情報を取得したり,建物に取り付けたさまざまなセンサーを連動させたりして,空間の利用状況,室内環境の設計,環境制御・運用に関する知見を蓄えていきます」。みどりに加え,IoTやAIといった技術を用いて人間中心の環境を創造する“スマート”ウェルネスビルは完成する。
建築設計・施工との連携で実現する
緑地環境
外観の優美な曲線がシンボリックな「東京ミッドタウン日比谷」(東京都中央区)。開業から4年が経過し,草木の緑がいきいきと輝きを増している。日比谷公園の園路から連続した街路空間は憩いを提供し,地上から2階へと続く日比谷ステップ広場はまちの賑わいの中心としてすっかり定着した。周辺街区と一体感のある100尺(31m)ライン上に位置する6階に設けられたパークビューガーデンは,まさに空中庭園と呼ぶにふさわしい開放感に満ちている。豊かな植栽は9階のスカイガーデンまで4層にわたり連続し,みどりの丘を形成している。
photo: FOTOTECA
東京ミッドタウン日比谷
- 発注者:三井不動産
- マスターデザインアーキテクト:ホプキンス・アーキテクツ
- 都市計画・基本設計・デザイン監修:日建設計
- 実施設計・監理:当社建築設計本部
- 外構実施設計協力:ランドスケープデザイン
- 施工:当社東京建築支店
- 外構施工:かたばみ興業
超高層ビルの低層部に設けられた有機的な曲線を描く多段テラス,と言葉に表すのは容易いが,それを実現するには高いレベルの技術と分野を超えた協働が必要になる。「超高層ビルは風の問題がシビアです。風への影響をシミュレーションで確認しながら,AEが最適な形状を導き出していました。私たちもシミュレーション結果を確認しながら,その場その場の風や日射に適した樹種の選定や樹木の固定方法の検討,冬季の冷風が根を冷やさないための断熱策など,環境に応じた提案をすることができました」とランドスケープの設計に携わったLDの岩崎哲治取締役は振り返る。
「植物を育む土量の充実と構造的に要求される軽量化とのバランスをとる荷重調整や,多段形状を考慮した排水,防水ディテールについてもAEの設備,構造の担当者と協議を重ねました。施工の立場からもテラスの資材搬入に対する提案をもらい,メンテナンス性の担保にとても役立ちました。都市を見わたすと,建築と一体化した緑化ではメンテナンス面への配慮不足から,竣工後に植物が育ちすぎたり枯れてしまったりしているものもじつは多いんです。また,竣工時点での植物の品質を確保する早め早めの施工スケジュールの調整も行いました」。ランドスケープアーキテクトがこのように多方面との調整を行い,高品質な緑地空間は創造された。
「設計時は9階のスカイガーデンをリラックスの場やサードプレイスとして考えていましたが,供用開始後に入居オフィスの方々がABWの場としてカスタマイズして,屋外の打合せスペースなどに活用されています。さまざまな個性をもつみどりの空間を点在させたことが,建物のレジリエンスにつながったエピソードです」。みどりもまた多彩な役割を果たしている。
確かな技術と培ってきたノウハウで,潤いあふれる緑地環境を造る
歴史を伝える大樹の移植
令和へ元号が変わり新しい時代が始まった年に誕生した「日本橋室町三井タワーCOREDO室町テラス」(東京都中央区)は,江戸時代に五街道の起点となる交通の要所として,また町人文化の舞台として賑わった日本橋エリアの再生を鮮やかに印象付けた。南面に設けられた大屋根広場は,エリア最大のイベントスペースである。みどりに囲まれ,せせらぎが聞こえ,太陽の光がうつろい,風が通り抜け,四季を感じられる都会のオアシス的空間となっている。さまざまな人々が行き交い,また留まり,思い思いの時を過ごす場。そんな広場を見守るように,推定樹齢200年の大ケヤキが立っている。
日本橋室町三井タワー
COREDO室町テラス 大屋根広場
- 発注者:日本橋室町三丁目地区市街地再開発組合
- デザイン監修:ペリ クラーク アンド パートナーズ+
ペリ クラーク アンド パートナーズ ジャパン - ランドスケープデザイン:ランドスケープ・プラス
- 施工:当社東京建築支店
- 植栽施工:かたばみ興業
「このプロジェクトにふさわしいシンボルツリーを探す中で,奥州街道沿いの那須塩原近傍で生長し,昭和後期に日光街道沿いの圃場に移植されていた大ケヤキに出会いました」と教えてくれたのは,大屋根広場の緑化工事を一手に担ったかたばみの大木真二執行役員。
「大ケヤキは高さ15m,葉の広がりは幅10mあります。移植は220tクレーンを使用した大型工事でした」。その一方で「移植は樹木に負担をかけないよう,一週間かけて準備作業を進めました。根の様子を見ながらの掘り取り,運搬用に枝をまとめる枝しおりなど,常に細心の注意を払いながら作業しました」と振り返る。大樹を扱うには,人間にも繊細さと力強さが必要ということだ。
都市を冷やす屋上緑化システム
都市部の気温が周辺よりも高くなるヒートアイランド現象は,地表面がアスファルトやコンクリートなどの人工物で被覆されていることが原因に挙げられており,緩和策として建物の屋上緑化が普及している。植物や土壌からの蒸発散が地面の熱を奪う効果が期待されてのことであるが,実際には一般的に普及している屋上緑化の多くはその効果を重視してはいない。
技研が開発した「エバクールガーデン®」は,土壌の下部に雨水を貯めて,土壌の水分量低下に伴う蒸発散量の減少を防ぎ,地表面を冷やす効果を維持する屋上緑化の独自工法。タイマー灌水や人手によって発生しがちな過剰な水やりの心配もないことから,節水にもつながる。
森林の循環利用
保有林木材・樹木を活用
木を植え,手入れをし,育った木を収穫してまた植える。森林の循環利用や森林サイクルと呼ばれるこの一連の営みを途切れさせないことが,自然環境を次世代へつなげていくために欠かせない。現在の日本の森林は約4割がスギやヒノキの人工林で,昭和30~40年代の高度成長期に植えられたものが多く,伐採に適した時期を迎えている。森林の循環利用促進のために,木を使っていくことがいま求められているのだ。
間伐材の利用促進のため,当社はこれまでも国産スギ材を使用した「FRウッド®」*2 などの技術を開発し,新しい木造技術の提案を行ってきた。現在工事中の当社「鶴見研修センター」(横浜市鶴見区)では,近年高い注目を集めるCLT(直交集成材)を用いた新たな施工方法を2つ取り入れている。ひとつはRC造建物の耐震壁としての利用,もうひとつはCLTとPCa(プレキャストコンクリート)を組み合わせた宿泊ユニットとしての利用だ。
使用するCLTは宮崎県の清蔵ヶ内山林から伐り出した針葉樹を,造作家具は北海道の尺別山林の広葉樹を加工して製作する。どちらの山林も当社グループが保有,かたばみが管理しており,立木から建築になるまでの流れに立ち会うことで見えてくる課題を今後の提案に活かしていく。
*2 FRウッド:耐火建築物の構造材料として使用可能な特殊集成材。東京農工大学,森林総合研究所,ティー・イー・コンサルティングと当社の共同開発
鶴見研修センター
- 発注者:当社開発事業本部
- 設計:当社建築設計本部
- 施工:当社横浜支店
- 緑環境施工:かたばみ興業
豊かな緑地環境を育み,
次世代につなげる
住民参加型の環境学習イベント
2020年に開業した新たな国際ビジネス拠点「東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー」(東京都港区)は,首都を象徴する大都会にありながら,浜離宮恩賜庭園,旧芝離宮恩賜庭園などの歴史文化と融合した豊かな自然環境に隣接。東京湾やお台場の緑地とのつながりが期待される竹芝ふ頭などの水辺環境に近接し,都心部では希少な自然環境に囲まれている。
この立地特性を活かし,建物を特徴付ける2~6階のスキップテラスを中心に,「空・蜂・水田・菜園・香・水・島・雨」からなる「竹芝新八景」をテーマにイベントを開催。地域の住民や在勤者に向けた環境教育,地域交流,情報発信を行っている。運営には緑地環境の施工,管理を担当したかたばみが携わり,イベントを通じて都市の生物多様性の保全にも取り組んでいる。
東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー
- 発注者:アルベログランデ
- 設計:鹿島・久米設計工事監理業務共同企業体
- ランドスケープ設計:プレイスメディア,
ランドスケープデザイン - 施工:当社東京建築支店
- ランドスケープ施工・管理・運営:かたばみ興業
グループ連携を活かした維持管理
ホタルが棲むビオトープ
初夏の夜に水辺を舞うホタルの光は,日本の里山の魅力的な風景のひとつ。ホタルは成長段階に応じて異なる環境で過ごすため,多様な環境が豊かに維持されている場所にしか棲みつけない。言い換えれば,ホタルはさまざまな里山の生物を育む環境の象徴となる。
熊本県公共関与産業廃棄物管理型最終処分場「エコアくまもと」(熊本県玉名郡南関町)には,敷地内の既存ため池を活かした「ホタルビオトープ」を中心とする環境教育基盤が併設されている。廃棄物処理施設は,一定規模以上の面積を必要とすることから自然豊かな農村や中山間地に設置されることが多く,そのため施設本来の機能である廃棄物処理および資源循環に加えて,自然環境保全も重視して設計,建設,運営される。同施設は施工を当社九州支店JV,外構デザインをLD,維持管理を当社グループ会社の鹿島環境エンジニアリング(KEE)が担い,ホタルが棲むビオトープの実現を技研が技術開発でサポートした。ビオトープは施設見学に訪れた小学生が生き物に触れ合う場として,また処分場施設内で働く人々の息抜きや憩いの場としても活用されている。
ビオトープをきっかけに,地域との新たなつながりも生まれた。地元自治体では以前からホタルの保全活動が行われていたが,近年の大雨の影響などで同町のホタルは減少傾向にあり,懸念した住民らがエコアくまもとと当社に相談を持ち掛けた。そして,小学校の授業で技研の技術を用いたホタル飼育が2019年に開始。子どもたちが地域の里山環境を保全していく担い手となり,地域全体の環境保全につながっていくことを期待している。
熊本県公共関与
産業廃棄物管理型最終処分場
エコアくまもと
- 発注者:熊本県環境整備事業団
- 設計:鹿島・池田・興亜・岩下特定建設工事共同企業体
- ランドスケープ設計:ランドスケープデザイン
- 施工:当社九州支店JV
公園の価値を高める
公園は市民の生活に潤いを与える一方,維持管理にかかる費用が財政負担になっていたり,思うように活用されていなかったりするケースがあり,自治体の悩みの種ともなっていた。こういった社会背景を受け,近年では公民連携の一種として公園管理とその活性化を民間企業が担う事例が増えている。
2017年4月に東京23区で初めて区内多数の公園・児童遊園に指定管理を導入した東京都港区では,かたばみが初年度から6年連続で,港区赤坂地区公園・児童遊園の指定管理者代表企業として14ヵ所の維持管理・運営を行っている。管理運営の基本方針として「利用促進」「にぎわい創出」「魅力向上」を掲げ,適切な管理とともにイベント開催やウェブサイト,SNSでの情報発信を行い,公園を通じて地域全体の価値向上を支える。同社はこのほかにも,「目白庭園」(東京都豊島区)などの指定管理に携わっている。
当社グループはさらに,民間資金を導入し,公園再編に民間企業が携わるPark-PFI制度*3へも積極的に取り組んでいる。「いろは親水公園」(埼玉県志木市)では,飲食店舗の設置および公園施設の一部の設計・監理・整備を行うPark-PFI事業と,公園全体の管理運営を併せて行う事業者の公募プロポーザルが2021年5月に実施され,かたばみが代表を務める計5社のコンソーシアムが事業者として選定された。雄大な河川の合流地点である立地の特徴と,宿場の余韻を感じる歴史的・文化的要素を活かした魅力的な空間演出を提案し,実施に当たりアドバイザーとしてLDとAEを含む3団体が加わったチーム体制を構築。今年8月の供用開始に向けて整備を進めている。
*3 Park-PFI:民間事業者の資金を活用して収益施設を設置し,得られた収益の一部を公園の整備などへ還元することを条件に,事業者には都市公園法の特例措置が適用されるとした新しい公民連携の手法。2017年の都市公園法の改正に伴って新たに制定された
社員でつくる「赤坂農園」
2019年春,当社KIビル(東京都港区)の屋上に,40m2の小さな農園,「赤坂農園」が開園した。当社・グループ会社の社員を中心に,春夏秋冬の4期の作付け・収穫を行っている。現在,賛同・支援するメンバーは220名に上り,野菜づくりを介して部署や世代の垣根を越えたコミュニケーションの場が生まれている。
120年前から続く鹿島のみどりの歴史
近年当社ではグループ事業推進部を新設し,グループの中にある経営資源や技術を活かしたコラボレーションを通じて新事業をつくり,成長発展していこうと考えています。
当社グループとみどりの歴史は,いまから120年前の1902(明治35)年,2代目の鹿島岩蔵が明治政府より北海道の釧路に近い尺別の地を借り受けたことに始まります。当初取り組んだ畜産事業の経営は困難を極め,断念せざるを得ませんでしたが,その一方で豊富な原生林をもとにした山林事業が軌道に乗りました。1940年には鹿島組山林部を設置し,のちにグループ会社のかたばみ興業へと事業を引き継いでいます。同社は1960年代中頃より緑地空間の施工・管理事業にも力を入れています。
また設計のほうでは,1965年に当社建築設計部門にランドスケープ専任担当者が配属され,ランドスケープデザイン部門が新設されました。新部門の設立は当時副社長であった鹿島昭一最高相談役によるものです。これが日本初の近代ランドスケープを標榜した組織の萌芽でありました。最高相談役が東京大学を卒業後に建築を学んだハーバード大学G.S.D.(デザイン大学院)は,世界で初めてランドスケープアーキテクチャーの教育課程を設置した機関でもあり,建築,ランドスケープアーキテクチャー,都市計画の3つの専攻がありました。留学からの帰国後には,大阪府立大学で緑地計画学を教えられていた久保貞(ただし)先生とのご縁もあり,同大学で非常勤講師として建築を教えてもいました。その後,1999年にグループ会社として独立し,ランドスケープデザイン社となります。
ランドスケープデザインの真価
最高相談役が建築に注いだ情熱は,開発事業においてはマスタープランにも傾けられました。自然環境や景観への配慮を重視していました。
森林を切り拓くような開発事業では,環境保全の観点で環境省にさまざまな説明や届け出が必要となります。当間高原リゾート(新潟県十日町市)や安比高原(岩手県八幡平市)の開発では,いわゆる環境アセスメント法が制定される以前からそういった場面で技研の専門家が活躍していましたね。
そうですね。技研では1980年代に生物関連の研究者が配属され,生物植物を扱うバイオチームを組織しました。当時の同業他社ではまだ研究対象として扱われていなかった分野であったと記憶しています。
近年の都市部の再開発事業ではランドスケープデザインによる不動産価値向上が期待されています。例を挙げると,東京ミッドタウン日比谷では都市と公園のみどりをつなげ,回遊性を生み出し地域の価値を上げました。東京ポートシティ竹芝 オフィスタワーでは環境技術の統合により生態系の維持に寄与し,下水道負荷を低減するなどエコフレンドリーな超高層ビルを実現しています。Hareza池袋(東京都豊島区)は賑わいの創出です。池袋駅付近の4つの公園をつないで,まち全体が舞台の,誰もが主役になれる劇場都市として再編しています。ランドスケープアーキテクトは建築,土木,都市工学,経済学など多様な分野をまとめ上げる役割を果たしています。
KIビルからThe GEARへ
建築デザインにおけるエポックメイキングはKIビルだったと思います。1989年に完成した当時はオフィス環境の新世代と言われました。
改めてKIビルについて考えると,その最も秀でている点は30年以上にわたる丁寧な維持管理の継続にあると感じます。往時の構想のまま魅力的な空間が持続していて,いま見てもまったく古びていない。持続可能性がみどりの空間の真価だと気付かされます。みどり環境の創造はつくることに加えて育むことが欠かせないという最高相談役の考えは核心をついていたと痛感します。
KIビルはバイオフィリックデザインの日本での先駆けと言えるでしょう。アトリウムは多様な植物の中に,水音が響き,光が降り注ぎ,気持ちの良い空間です。コミュニケーションが取りやすく,話が弾むし,一人の時は集中もできる。働く場所としての提案に富んでいます。
自然を人工化する技術は非常に緻密で高度です。ビルの中で植物が育つにはさまざまな要素への配慮が欠かせません。そしてそれら技術をさりげなく組み込んでセンス良く空間のあり方へと昇華させていくデザインもまた,高い設計力が必要になります。来年竣工するThe GEARではKIビルでの建築的提案をさらに深化させています。
近年,建物内部の従来はなかなか自然の恵みを感じられないような場所にもみどりを取り入れバイオフィリックな空間をつくるそと部屋や,屋上緑化のエバクールガーデンなどのみどり技術を,技研は開発してきました。The GEARは複数のみどり技術のテストベッドになる予定です。
みどりが輝く社会へ
技研では現在グリーンインフラのR&Dにも力を入れています。都市部のヒートアイランド現象を抑制し,人々が集う場となり,リラックス効果を生むなど,グリーンインフラは社会的共通資本となります。
いま国はオフセット・クレジット認証などを通じて森林の施業を推進し,CO2の吸収量を増やそうとしていますね。しかしその効果はCO2固定だけに留まりません。日本の森が元気になると地方が活気づく。森が水を保持する力も上がり,防災面での効果もある。みどりほど多様な効果を生むものは人工物には存在しないと私は思います。
木材によるCO2固定が常識化し,木造や木質の建築物を希望されるお客様が増えています。CO2をさらに吸収,固定していくには木を使い,植林し,森林サイクルを循環させていかなければなりません。日本には高度成長期に植えられた人工林が多く,いままさに使っていくべきタイミングにあります。当社は国産スギ材を使用した特殊集成材のFRウッドという,都市部でも木造中高層建築を可能にする技術を所有しています。来年には7階建ての木造オフィスビルが都内に竣工予定です。
林業は建設業と同様に担い手不足の問題に直面しているので,施業を補助する技術のR&Dも進行中です。近年急速に発展するUVA(無人航空機),ICT(情報通信技術),DX(デジタル変革)技術を組み合わせ,木々の生育状況や施業の必要度を低労力で把握できるように,かたばみと協力して実地試験を行っています。
グループで取り組むみどり環境の創造
2015-2017年の中期経営計画でグループ事業推進という大きな方針があり,それを受けてジュロンレイクガーデン(シンガポール)のコンペに挑みましたね。LDを中心にグループのいろいろな部署が一丸となり,外部のパートナーも加えて取り組んだ結果,最優秀案に選ばれています。
世界的な著名デザインファームやエンジニアリング事務所が参加したコンペで,デザインのみならず,環境技術,地域経営の仕組みも含めた当社グループの総合力が勝因だと思っています。東南アジアでの,建築バリューチェーン上流分野における新たなビジネスモデルの第一歩となった非常に画期的な出来事でしたね。
グループで取り組む具体例のひとつとしてPark-PFIに可能性を感じています。既存公園の調査から,整備のための設計,施工,そして維持管理から運営に至るまで一貫した知見と技術を提供できます。Park-PFIは2017年に新設された制度でまだ日は浅いですが,今回の特集で取り上げたいろは親水公園以外にも既に複数の実績を挙げています。まちを想い,建物をつくり,みどりを育む当社グループの真骨頂となるのではないでしょうか。
みどりに関するさまざまな取組みを当社が続けてきたのは経営者の想いがあったからでしょう。社会状況が変化しても抱き続けてきた想いがいまにつながっているのですね。