[2019/01/24]
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中低層建物用のコンパクトで低コスト型のTMD「D3SKY®-c」を開発
~D3SKYの性能はそのままに、大幅な小型化・低コスト化を実現~
鹿島(社長:押味至一)は、2013年7月に開発した長周期地震動を含む大地震時の揺れを大幅に低減させる、日本初の超高層建物用の超大型制震装置TMD※1「D3SKY」(ディースカイ)※2に改良を加え、新たに中低層建物向けに、コンパクトで低コスト型の「D3SKY-c」を開発しました。
※1 TMD:Tuned Mass Damper 建物に設置した錘の揺れによって、地震の振動を抑制する制震装置
※2 D3SKY:Dual-direction Dynamic Damper of Simple Kajima stYle(鹿島式2方向制御動吸振器)
D3SKY-cの構成イメージ
開発の背景
昨今、地震や台風などによる大規模な自然災害が多発している中、超高層のみならず中低層の建物に対する安全性への期待と要求はますます高度になっています。これに対し、市街地中心部や繁華街に位置する高さ30~60m程度の中低層建物は、敷地面積の制約から建物の間口が狭いスレンダーな建物になることが多く、既存の制震装置ではその大きさなどから設置場所が限定され、かつ有効床面積が減少するなどの問題もあり、十分なソリューションが準備されているとはいえない状況です。
このような中、鹿島は超高層建物用の超大型TMD「D3SKY」に改良を加え、D3SKYの性能はそのままに大幅な小型化・低コスト化を実現した、中低層建物用TMD「D3SKY-c」を開発しました。末尾の「c」には、compact、customized、concrete-made、cost-consciousという様々な意味が込められています。
効果と特徴
- 建物重量の2~3%の錘1台で2方向の揺れを制御します。風揺れから大地震まで、様々な種類の揺れを効果的に低減します。
- 装置のサイズは屋上床面積の1/4~1/3程度と省スペースです。コンクリート製の錘は設備架台としても利用可能なため、設備計画との整合も容易です。
- 屋上に設置するため建物内部への影響がなく、既存建物の制震リニューアルにも極めて有効です。
- 電気等を使わないパッシブ型制震装置であり、屋外使用(全天候型)にも対応しています。メンテナンスも目視点検程度です。
- 専用開発の高機能オイルダンパにより、設計想定を超える地震動に対しても錘を安全に制御します。
10階建て建物に対する効果の例(稀に発生する地震)
屋上機械室階への設置例
技術上のポイント
- 錘の改良 超高層用のD3SKYは分割して揚重し易い鉄板製の錘を採用していますが、中低層の場合、既存建物でも屋上のコンクリート打設が容易であることから、D3SKY-cは錘をコンクリート製とすることで大幅な低コスト化を実現しました。
- 錘の支持機構の改良 TMDは錘の揺れる周期を建物の揺れる周期に同調させる必要があります。D3SKYはワイヤ懸垂式を採用していますが、中低層建物は揺れる周期が短いため、これに錘の周期を同調させようとするとワイヤの長さが短くなりすぎ、錘を十分な範囲で動かすことが困難となります。
- オイルダンパの改良 D3SKYには、設計想定を超える巨大地震時への対応として、予め定めた速度を超えると抵抗力を急激に増大させて錘の動きを安全に制御する、独自技術の高機能オイルダンパを採用しています。但し、この機能を実現するための油圧機構は複雑なため、装置が大型化するという課題がありました。
そこでD3SKY-cでは、錘の支持機構に積層ゴムを採用しました。しかし、市販の免震用積層ゴムでは堅すぎて十分な性能が得られないことから、小型で大変形を許容できる中空の積層ゴムを新たに開発し、制震装置の大幅な小型化と低コスト化を実現しました。なお、この中空積層ゴムは東京都市大学の西村功教授との共同開発であり、製造には株式会社モルテンの協力を得ました。
専用開発の中空積層ゴム(断面図)
変形性能確認実験の様子
そこでD3SKY-cでは、複雑な油圧機構と同等の機能を実現する、高機能でありながらシンプルな制御バルブを新開発することで、小型化と低コスト化を実現しました。この大幅な合理化が図られた新開発のオイルダンパは、超高層用D3SKYにも適用可能です。なお、この新型制御バルブによる高機能オイルダンパの開発にあたっては、センクシア株式会社の協力を得ました。
専用開発の高機能オイルダンパ
荷重-速度関係のイメージ
今後の展開
D3SKY-cは、現在施工中の宗家源吉兆庵銀座新本店新築工事、(仮称)芝浦グループ銀座ビル新築工事での採用が決定しており、その他にも複数の案件で適用を検討中です。
屋上に設置するだけで良いTMDは建物内部への影響がないため、既存建物の制震リニューアルにも極めて有効であり、工事中のテナントへの影響を最小限にとどめ、居ながら施工で耐震性の向上を実現します。今回D3SKY-cの開発で、中低層建物にもこの有効なソリューションを提供することが可能となりました。
今後も、新築・既存を問わず、中低層建物の耐震安全性・安心感の向上に向け、D3SKY-cを積極的に提案していく予定です。
適用工事概要
工事名 | : 宗家源吉兆庵銀座新本店新築工事 |
発注者 | : 宗家源吉兆庵 |
工事場所 | : 東京都中央区銀座六丁目 |
建物用途 | : 店舗・事務室 |
延床面積 | : 765m2 |
構造 | : S造 階数 地上9階、地下1階 |
軒高 | : 36.95m |
設計・監理 | : 株式会社青島設計・鹿島建設株式会社一級建築士事務所 |
施工 | : 鹿島建設株式会社 |
工期 | : 2018年4月~2019年9月 |
工事名 | : (仮称)芝浦グループ銀座ビル新築工事 |
発注者 | : 芝浦産業株式会社 |
工事場所 | : 東京都中央区銀座三丁目 |
建物用途 | : 物販店舗・事務所 |
延床面積 | : 2,578m2 |
構造 | : S造 階数 地上10階、地下1階 |
軒高 | : 47.66m |
設計・監理 | : 鹿島建設株式会社一級建築士事務所 |
施工 | : 鹿島建設株式会社 |
工期 | : 2018年7月~2020年5月 |
「新宿三井ビルディング」で長周期地震動の揺れを半減 日本初 屋上に超大型制震装置(1,800t)工事完了

(2015年5月14日プレスリリース)
新宿三井ビルディングに適用した超大型制震装置TMD「D3SKY®」 11月22日発生の福島県沖地震で所期の効果を確認

(2016年12月27日プレスリリース)
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