[2025/05/21]
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棚田を未来へとつなぐ提案を開始
~「自然共生サイト」認定やカーボンクレジット創出で、棚田を持続可能に~
鹿島(社長:天野裕正)がスマート農業の取組みで支援してきた新潟県十日町市の棚田が、このたび環境省の自然共生サイト(サイト名:ふれあいファーム三ケ村)に認定されました。また、「水稲※1栽培における中干し※2期間の延長」のJ-クレジット制度※3において、2025年5月にカーボンクレジットを創出しました。地形など様々な制約条件が多い地域(条件不利地域)でのカーボンクレジットの創出は、先駆的な事例となります。
※1 水田で栽培するイネ
※2 稲作において広く行われている水管理作業のことで、穂づくりが始まろうとする時期に、一時的に水田から水を抜いて干すこと
※3 省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度
新潟県十日町市の棚田
背景
棚田は国土の形成において、食料生産のみならず、洪水軽減、土砂災害防止、景観保全、生物多様性保全など様々な役割を担ってきました。しかし、棚田は傾斜地に立地していること、水田の区画が小規模であること、農道が整備されていないことなど様々な生産条件の制約があります。そのため、担い手減少による耕作放棄地が増加しており、災害リスクの増加や生物多様性の喪失など様々な課題を抱えています。当社はこれまで、新潟県十日町市の棚田地域において、地域と連携しながらスマート農業の実証実験・導入支援※4を行い、棚田がもつ価値評価向上の研究を進め、持続可能な棚田の保全に取り組んできました。このような取組みを行うなか、当社は棚田地域の持続可能性を確保する方策の一つとして、環境省が民間の取組み等によって生物多様性の保全が図られている区域を認定する「自然共生サイト」の認定ならびにJ-クレジット制度におけるカーボンクレジットの創出を活用し、当該地域に利益還元する仕組みを構築しました。
※4 スマート農業実証プロジェクト まつだい棚田バンク、ふれあいファーム三ケ村【新潟・十日町市】

自然共生サイトの認定について
自然共生サイトの認定に関する概要は、次のとおりです。- 認定された自然共生サイト「ふれあいファーム三ケ村」は、「農事組合法人 ふれあいファーム三ケ村」(新潟県十日町市、代表理事:水落 良太)が管理する3.4ヘクタールの水田とため池から構成されています。
- 当社はドローンによる肥料散布やセンサーを用いた水量管理などスマート農業の実証実験・導入支援を進めています。
- 上記と併せて、生物多様性保全や洪水防止機能などの棚田のもつ多面的機能の把握に関する研究も行っています。その一環として、2024年に生物多様性調査を行い、環境省レッドリストや新潟県レッドリストに掲載されている重要種、「二次的自然を特徴づける種※5」を多数確認し、持続的に農業を行うことで生物多様性が保全されてきたサイトであることが示されました。
※5 人の手を加えることにより維持されている自然環境
<確認された生物の一例>
- こうした棚田における生物多様性保全への貢献が評価され、2024年度後期に自然共生サイトに認定されました。
- 同制度によって認定された区域は、OECM(Other Effective area based Conservation Measures、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)として、国際データベースに登録されます。
中干し延長によるカーボンクレジットの創出について
カーボンクレジット創出に関する概要は、次のとおりです。- 国内の温室効果ガスの一つであるメタンの排出量のうち、稲作や家畜関連が約8割を占め、そのうち稲作からの排出量が約半分(メタン排出量の44%)となっています。なお、メタンは温室効果ガスの1種であり、CO2の25倍の温室効果をもつといわれています。
- 農林水産省は、稲作からのメタン排出の削減を推進しています。水稲栽培における中干し期間の延長はメタン排出削減効果があり、この期間を従来よりも7日間以上延長することで削減できるメタン排出量をカーボンクレジットとして認証する方法論が2023年に、J-クレジット制度に追加されました。
- この方法論に基づいて、2024年、ふれあいファーム三ケ村にて、棚田で中干し延長を行い、2025年5月にJ-クレジット制度の認証委員会の認証(43.464t-CO2)を受けました。これまでに平野の大規模水田での認証事例はありましたが、棚田のような小規模水田においては新しい試みとなります。
- 当社は、棚田の持続可能性や付加価値を向上させる一つの手法として着目し、カーボンクレジット取得に向けて様々な取組みを進めてきました。今回の取得により、小規模水田における中干し手法の合理化や、クレジット申請などのノウハウを蓄積し、体系化・ナレッジ化を行っています。なお、クレジットの創出・取引については株式会社フェイガー(東京都千代田区、代表:石崎 貴紘)と協働しました。
- 中干し期間延長による生物への影響も懸念されるため、モニタリングをして影響の有無も確認しながら慎重に取組みを進めています。
中干し期間を延長した棚田(2024年8月の状況)
今後の展開
鹿島は、本事例を契機に、地域と連携しながら、棚田を未来へとつなぐ提案を開始します。また、今後も持続可能な棚田の保全に貢献する取組みを推進することにより、日本の原風景を残すとともに、国土の安全・安心に貢献してまいります。
鹿島の社有林「日影山山林・ボナリ山林」が環境省「自然共生サイト」に認定

(2024年3月1日プレスリリース)
プレスリリースに記載された内容(価格、仕様、サービス内容等)は、発表日現在のものです。
その後予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。