[2017/11/16]
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グラウンドアンカーに光ファイバーを用いたPC張力計測システムを活用
法面補強工事の維持管理に大きく貢献
鹿島(社長:押味至一)は、住友電工スチールワイヤー株式会社(本社:兵庫県伊丹市、社長:佐野裕一)、ヒエン電工株式会社(本社:大阪府大阪市、社長:山鳥剛裕)、および株式会社エスイー(本社:東京都新宿区、社長:大津哲夫)と共同で、グラウンドアンカーに使用するストランド※1の張力を計測する技術を開発し、奈良県で施工中の赤谷地区渓流保全工他工事に適用しました。この結果、施工時および施工完了後の張力分布を、ストランド全長にわたって計測できることを確認しました。
本技術は、2016年に3社※2共同で開発した、プレストレストコンクリートに用いるケーブル全長の張力を、光ファイバーを用いて計測する技術(PC張力計測システム)を活用したものです。PC張力計測システムは、これまで国道115号月舘高架橋上部工工事他1件の橋梁工事に適用しています。
本技術により、地山内部の変状やグラウンドアンカーの経年劣化などに起因する張力分布の変動が計測可能となるため、計測結果に基づいたグラウンドアンカーの健全性を判断できるとともに、大きな変動が生じる前の予防保全として必要な対策工を選定・実施できることから、法面の維持管理に大きく貢献します。
※1 ストランド…PC(プレストレストコンクリート)構造物の緊張材として使用されるPC鋼より線
※2 鹿島、住友電工スチールワイヤー株式会社、ヒエン電工株式会社による共同開発
赤谷地区渓流保全工他工事でのグラウンドアンカー適用状況
(2017年6月、赤枠内が本技術を適用した箇所)
グラウンドアンカーにおける課題
グラウンドアンカー工法は、地中にグラウトで造成する「アンカー体」と、地表の「アンカー頭部」をストランドで連結し、ストランドの張力を利用して法面を補強するものです。ストランドの張力は、地山の動き、ストランドとアンカー体(グラウト)内部の付着力低下、アンカー体と定着地盤の摩擦力低下などによって変動し、その値が設計の想定を外れると、ストランドの「抜け」や「破断」が生じ、法面の崩壊につながるおそれがあります。このため、長期間にわたってストランドの張力を管理する必要があります。
従来は、アンカー頭部への荷重計の設置や、アンカー頭部をジャッキで引っ張るリフトオフ試験などで張力を計測していましたが、これらは張力の変動は計測できるものの、その原因まで推定することはできず、さらには荷重計の耐久性や、試験作業の安全性にも課題がありました。
グラウンドアンカーの張力変動の原因 (例)
本技術による課題の解決
そこで鹿島らは、これまでPC橋梁工事への適用で培った、光ファイバーを用いたPC張力計測システムに着目、グラウンドアンカーに活用することにより、これら課題の解決を図りました。
光ファイバー内に入射した光は伝播しながらあらゆる方向に散乱しますが、この散乱光の波長は、光ファイバーに生じているひずみによって変化するため、その散乱光を分析することにより、ひずみの発生している位置とその大きさを把握することができます。このひずみ計測技術は20年以上の実績があり、高い信頼性とともに、耐久性も実証されています。
本技術は、グラウンドアンカーのストランドにひずみ分布を計測できる光ファイバーを全長にわたって組み込んでおき、張力に変動が生じた際に光ファイバーに生じるひずみを計測することで、張力の分布を評価します。ひずみの発生位置を把握することで、張力の変動原因も推定できます。また、光ファイバーを延ばすことにより、法面や高所まで出向かず1箇所で測定できるため、計測作業を安全かつ効率的に行うことが可能になります。
適用事例
赤谷地区渓流保全工他工事の法面補強グラウンドアンカー全61本のうち、6本(ストランド長約11~18m)に本技術を適用しました。
施工時(本緊張)および施工完了後(定着後)の張力分布を計測した結果、アンカー体の内部を含むストランド全長にわたって、所定の張力が得られていることを確認できました。また、施工完了後約1ヶ月が経過した時点で再計測を行ったところ、定着後と同様の張力分布を維持していることも確認できました。
計測結果の一例
緊張時における計測状況
今後の展開
グラウンドアンカーのストランド全長にわたる張力分布を把握でき、張力変動の原因まで推定可能となる本技術は、高速道路をはじめとした様々な法面の維持管理、さらには予防保全としての対策工の選定・実施にも大いに寄与するものと考えています。
鹿島は今後、今回適用したデータの収集および蓄積に努めるとともに、適用現場の拡大に向けて提案してまいります。
工事概要
工事名 | : 赤谷地区渓流保全工他工事 |
工事場所 | : 奈良県五條市大塔町清水地先 |
発注者 | : 国土交通省 近畿地方整備局 |
施工者 | : 鹿島建設株式会社 |
工期 | : 2017年3月3日~2017年12月28日 |
工事諸元 | : 砂防土工 26,440m3、法面工 1,884m2、床固工 2,670m3 |
(参考)
PC構造物の施工管理、維持管理に資する「光ファイバーを用いたPC張力計測システム」を開発

(2016年10月27日プレスリリース)
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