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プレスリリース

[2025/03/21]

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サンゴ礁再生技術プロジェクト「InCORETM」の成果

~コーラルネット®と環境評価技術をフィリピンで実証~

鹿島建設株式会社
国立大学法人東京科学大学
フィリピン大学

 鹿島(社長:天野裕正)と東京科学大学(事業契約時:東京工業大学、以下:科学大)、フィリピン大学(以下、フィリピン大)の3者は、衰退の危機にあるサンゴ礁の保全と再生を目的としたプロジェクト「InCORE」(インコア)※1 を、フィリピン・パナイ島タンガラン湾で2023年2月から2024年7月にかけて実施しました。その結果、数値シミュレーション技術などによる環境評価と鹿島の「コーラルネット」を用いて行ったサンゴ再生試験において、複数の地点でサンゴの成長やサンゴ幼生の着生が認められるなどの効果を確認しました。このプロジェクトはアジア開発銀行(ADB)の国際公募事業※2に採択されたものです。
 現地で開催されたプロジェクトの最終報告において、ADBおよび地元関係者と適用技術の有効性を確認するとともに、同プロジェクトの成果に基づくサンゴ保全・再生活動を継続していく方針を確認しました。今後も地元の行政、漁業関係者等と協働しながら、サンゴ礁の保全・再生活動を支援していきます。

※1 Integrated Approach for Coral Reef Conservation and Rehabilitation
※2 「Technology Innovation Challenge for Healthy Oceans -Restore and Protect Coral Reefs-」
  事業費:50万ドル(約7,000万円)

プロジェクト対象地域、コーラルネットによるサンゴ再生状況

InCOREの概要

 本プロジェクトは、鹿島のサンゴ再生技術の一つであるサンゴ再生基盤「コーラルネット」をコア技術とし、サンゴの再生に適した場を事前に評価するため、科学大の「数値シミュレーション技術」およびフィリピン大の「リモートセンシング技術」とサンゴを含めた沿岸生態系をモニタリングするための「生態系調査分析技術」を活用した統合的アプローチを特徴としています。さらにサンゴ保全・再生が現地の持続可能な活動となることを目指して、地元自治体、漁協関係者やダイバー、研究機関などの様々なステークホルダーと協働していることが大きな特徴です。

InCORE のサンゴ再生の統合的アプローチ

InCORE のサンゴ再生の統合的アプローチ

サンゴ保全・再生事業の背景

 近年、世界各地でサンゴ礁の衰退が報告されており、その原因は海水温の上昇や大型台風の増加など地球規模での気候変動に加えて、水質悪化などの影響が複合的に作用していることも一因と考えられています。サンゴ礁は多様な生物が生息する豊かな漁場であることに加えて、高波の影響を緩和する自然の防波堤としての機能や観光資源としての役割もあることから、サンゴ礁の再生は、沿岸部の地域社会の保全と持続的発展の点から世界的な課題となっています。

プロジェクトの背景

 現地調査と数値シミュレーションによる環境評価、ならびに地元関係者からのヒアリングを行った結果、対象地域のサンゴが衰退した大きな要因は、かつて行われていたダイナマイト漁によるサンゴの破壊や、陸からの土砂流入などの影響による水質汚濁であると推測されました。
 そこで本プロジェクトでは、サンゴ再生のための安定した基盤を提供し、かつ土壌の細粒分(シルト)の堆積を緩和する効果も期待できるコーラルネットを用いた実証試験を行いました。この試験では、環境条件が異なる6地点を選定し、地域の漁業者やダイバー、地元研究者(アクラン州立大学)と次の2 つのアプローチを実施しました。

1. 波浪等により折れて海底に落ちたサンゴ断片をコーラルネットに固定し、その後の成長をモニタリング
2. コーラルネットへのサンゴ幼生の自然着生をモニタリング

 これらの取り組みの結果、これまで長年サンゴが再生しなかった複数の地点において、サンゴ断片の成長やサンゴ幼生の自然着生が認められ、コーラルネットの導入によるサンゴ再生の促進効果が確認されました。具体的には、事前の数値シミュレーションの結果、陸からのシルトの影響が小さいにもかかわらずサンゴが長年回復しなかったエリアに配置したサンゴ断片を取り付けたコーラルネットでは、約1年間でサンゴ被度が60%以上となり、再生したサンゴ群集に魚類が集まっている様子が確認されました。

サンゴ断片の取付け状況


 さらに、コーラルネット1m2あたり500個以上のサンゴ幼生が自然着生した地点もありました。着生したサンゴは約1年かけて肉眼で確認できる大きさになりました。

サンゴ養生状況


 一方、事前の数値シミュレーションの結果、陸からのシルトの影響が大きくあらかじめサンゴの成長が困難と評価されていた地点では、シルト堆積の影響に対して軽減効果のあるコーラルネットを導入することで短期的なサンゴの成長はみられたものの、河川流量が増加するモンスーン期を経てシルトの堆積と付着藻類が増えるにつれて、再び衰退していく現象を確認しました。

 コーラルネットが設置された地点ごとのサンゴ再生状況の違いは、事前に実施した数値シミュレーションの結果から予想した傾向と概ね合致していました。これらの結果から、数値シミュレーションによる環境評価は、コーラルネット設置の適地選定に有効であることを確認しました。
 このシミュレーション技術は「統合環境評価モデル」として陸地の環境を組み込んでいます。陸から海への土砂流出対策検討にも利用できるため、適切なサンゴ再生手法の選定も含めたサンゴ礁保全・再生計画立案に有効な技術です。

 コーラルネットは、地域の漁業関係者やダイバーにより簡易に設置できることが特長です。サンゴ再生活動では持続的なモニタリングが重要なため、本プロジェクトでは地元のダイバーらが自ら継続的に写真を撮影し、地元研究者とともにサンゴの成長を確認しました。2024年7月に行われたプロジェクトの最終報告会で、本プロジェクトの科学的アプローチに基づく事前・事後の定量的評価、コーラルネットによる短期間での確実なサンゴ再生、さらに地元ステークホルダーとの緊密な連携を発表し、ADB から高く評価されました。また、地元を代表してタンガラン市長からは、本成果を元にした今後の本格的なサンゴ再生へ大きな期待が寄せられました。

今後の展開

 本プロジェクト終了後も、コーラルネットを使用した再生とモニタリングを継続できるよう、地元の行政、漁業関係者等と協働しながら、鹿島・科学大・フィリピン大の3者が連携して技術的なサポートを行っていく予定です。さらに、本実証事業での適用技術を発展させ、コーラルトライアングルと呼ばれる東南アジア地域のサンゴ礁の再生プロジェクトへ展開を図る計画です。


(参考)
サンゴ礁の再生プロジェクト「InCORETM」をフィリピンで始動 別ウィンドウが開きます
(2023年5月31日プレスリリース)
地球にやさしく!サンゴ礁を蘇らせる「コーラルネット」 別ウィンドウが開きます

InCORE 公式HP 別ウィンドウが開きます

プレスリリースに記載された内容(価格、仕様、サービス内容等)は、発表日現在のものです。
その後予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

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