ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2014:特集「建設の素朴な疑問 Part2」 > 構造設計ってどうやってするのですか?

KAJIMAダイジェスト

建設の素朴な疑問 Part2:構造設計ってどうやってするのですか?

建物の価値に大きく関わる骨組みを決めるための構造設計。
構造設計者はどんな手順で,設計をしているのでしょうか?

まずは構造計画から

建物の用途や内容,規模,意匠,予算などが決まると始まるのが構造計画です。建物の骨組み(架構・床など)を決めるための計画のことで,骨組みの形,材料,荷重など様々な角度から検討されます。

図版:骨組みの形は?

図版:材料は?

図版:どんな荷重がかかるのか?

改ページ

構造計算をする

構造計画が決まると,構造計算を行います。荷重によって,構造計画で決めた骨組みに生じる力を計算していきます。シンプルなイスで,構造計算の手順を見ていきましょう。例えば,100kgの重さまで耐えられる木製イス,座板(50cm×50cm,仮の厚さ5cm),脚(長さ50cm,仮の断面5cm×5 cm)と構造計画で決めたとします。

※厚さや断面を仮とするのは,構造計画の段階では前例や経験から値を決め,断面算定により最終決定するため。

図版:構造計算をする

構造計算の大まかな手順

1.骨組みにかかる力を計算

座板や脚にかかる力を計算します。これを応力解析といいます。座板に単位面積あたりに生じる力(100kg重/50cm×50cm)から,曲げる力(モーメント)やすべらせる力(せん断力)を計算していきます。また,脚1本をつぶそうとする圧縮力(100kg重/4本=25kg)も考慮します。建物では,建物の自重や利用者,家具,什器の重さなど鉛直方向の力(鉛直荷重)に対する応力解析に相当します。

図版:モーメント(左)とせん断力(右)のイメージ

モーメント(左)とせん断力(右)のイメージ

2.一時的にかかる力を計算

普通に座っているだけでなく,2本脚や1本脚で座る場合も考えて,一時的にかかる力に対する応力解析をします。建物では,地震や風によって生じる力や,衝撃など一時的にかかる水平荷重に対する応力解析に相当します。

イスの場合,1,2の応力解析は,シンプルな計算式で求めることができますが,建物では,高度で複雑な構造計算が必要となります。そのため,構造計算手法が組み込まれた専用のソフトを用いてコンピュータにより行われるのが一般的です。

図版:一時的にかかる力(水平荷重)も考慮

一時的にかかる力(水平荷重)も考慮

改ページ

3.材料強度に応じた骨組みの大きさを決定(断面算定)

応力解析の結果に対して,イスの材料(木製)により決められている単位面積当たりの強さ(kg重/cm2)を考慮して,骨組みの大きさ(座板の厚さや脚の断面積)を決めます。これを断面算定といいます。脚は細長い部位となるため,座屈しないかどうかも計算で確認します。建物では柱などに対して,座屈を考慮します。

※材料の強度は,建築基準法施行令により定められている。

図版:座屈とは,細長い棒などに対して縦方向に加えた力により横方向に変形をおこす現象

座屈とは,細長い棒などに対して縦方向に加えた力により横方向に変形をおこす現象

4.構造設計図を作成

これらの結果をもとに骨組みの細部を決定し,構造設計図としてまとめます。

ミニ知識:建物にかかる地震力はどう決まっているのですか?

建物の場合,どれだけの地震を考慮するかは,建築基準法施行令により定められています。ただし,これは地震時に人命を保護するための最低限の基準であり,建物内部の貴重品を保護したり,もっと安心を得たい場合には,より高い基準を設定して設計されます。その際には,制震や免震技術が利用されることが多くなっています。また近年は,新築に限らず既存建物にも,高基準の耐震リニューアルを施すケースが増えています。

ミニ知識:コンピュータがない時代はどうしていたのですか?

コンピュータがない時代,構造計算は全て手計算でした。この頃,多く用いられていた手法は,骨組みに生じる水平力を柱や梁の剛さに比例させることで,簡易化する「D値法」。この「D値法」は霞が関ビルに柔構造理論を取り入れた故武藤清元副社長により考案されました。簡易といっても,建物規模によりますが手計算では最低1週間程度かかり,骨の折れる仕事でした。

※Dは「せん断力分布係数」のことをいう

改ページ

超高層ビルの壊れ方を知る

“超高層ビルは,どのくらいの地震で壊れるのでしょうか?”このシンプルな問いへの答えを,建物試験体を崩壊させる振動台実験で知ることに成功しました。この実験は昨年12月,当社ならびに小堀鐸二研究所を中心に,京都大学,防災科学技術研究所らと共同で,防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センターの実大三次元震動破壊実験施設「E-ディフェンス」で行われました。1980〜90年代に一般的だった18階建ての高層ビルを想定して,高さ25.3m,重量420tという世界最大規模の鉄骨造の試験体を揺らす,世界で初めての倒壊実験です。

三大都市圏で想定される東海・東南海・南海地震の3連動地震に対して,標準的な形式の鉄骨造高層ビルで,構造の損傷が継続使用可能な状態であることを確認しました。また想定を超える巨大な地震(想定地震の2倍)に対しては,2~3階の梁端に破断は生じるものの,倒壊までには十分な余裕があることもわかりました。さらに想定の3.1倍で,梁や柱の損傷が進行し,1~5階が大きく変形。構造的な安全性の限界に近い状態になり,完全に崩壊したのは, 想定の3.8倍の時でした。

この結果は,シミュレーションとも合致していましたが,超高層建物が最終崩壊に至るまでの部材の損傷の進行の仕方や,梁の破断や柱の損傷と建物全体の安全性との関係を具体的に知ることができました。“超高層ビルの壊れ方を知る”ことで,今後の構造設計や地震に対する安全性の評価に役立てていきます。

改ページ

図版:高さ25.3m,重量420tという世界最大規模の試験体。この規模での倒壊実験は世界初となる

高さ25.3m,重量420tという世界最大規模の試験体。この規模での倒壊実験は世界初となる

図版:イメージ

図版:想定の約3倍の地震動で梁や柱の損傷が進行し1~5階が大きく変形した。想定の3.8倍で建物が倒壊(写真は保護フレームに寄りかかっているが建物は自立していない)

想定の約3倍の地震動で梁や柱の損傷が進行し1~5階が大きく変形した。想定の3.8倍で建物が倒壊(写真は保護フレームに寄りかかっているが建物は自立していない)

図版:実験の想定と結果

ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2014:特集「建設の素朴な疑問 Part2」 > 構造設計ってどうやってするのですか?

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ