京都市立病院整備運営事業(PFI事業)
最先端技術で命と健康を守る医療の現場。
少子高齢化が進み,医療制度の改革が推進される日本では,医療施設の再整備が急進している。
大規模な病院PFI事業として注目される京都市立病院の現場を紹介する。
工事概要
京都市立病院整備運営事業(PFI事業)
- 場所:
- 京都市中京区
- 発注者:
- SPC京都
- 設計:
- 当社建築設計本部,関西支店建築設計部
- 監理:
- 山下設計
- 規模:
- 新館—RC造(免震構造) B1,7F 286床/
本館改修—内装改修,設備改修 262床/
院内保育所・職員宿舎—RC造 6F 60室
総延べ64,463m2 全体548床 - 事業方式:
- BTO方式・サービス購入型
- 工期:
- 2010年3月〜2014年7月
(関西支店施工)
公立病院でのPFI事業
京都市立病院は,JR京都駅から西へ約3kmの閑静な住宅街に位置する。明治15年から約130年間,市民にとって欠かせない存在として,地域医療の中核を担ってきた。こうした中,2010年,京都市の基幹病院として最新・最良の医療を提供する「市民に親しまれ,愛され,信頼される病院」を目指し,「京都市立病院整備運営事業」がスタートした。特別目的会社(SPC)「SPC京都」(代表企業:ワタキューセイモア)が事業者となり,現敷地内で医療活動を継続しながら,新館・院内保育所・職員宿舎の新築,既存本館の改修,旧施設(北館・看護師宿舎)の解体工事を行い,新たな医療環境を整備。その後15年間にわたり,病院のパートナーとして施設の維持管理および医薬品調達等の医療周辺業務を行う。当社はSPCの主要協力企業として,設計・施工を担当している。
現場の意見を反映した設計計画
約4年半を費やし行われる建替え工事。敷地面積が限られた中で,稼働中の病院の機能を維持しながら利用者の安全にも配慮し,新築・改修・解体工事を順次行っていく。この複雑な計画を,いかに合理的かつ効率的に施工していくかを,設計段階から検討していった。
「どのように病院の建替え工事を進めるかは,設計者だけでは計画できません。現場の意見を取り込むことが重要です。実際に病院の日常と関わりながら,建物をつくるのは現場です。具体的な施工方法や手順を一緒に検討しながら,細部を決めていきました」と話すのは,建築設計本部の星野大道チーフ。病院の建替えプロジェクトの豊富な設計経験をもつ。施工中の現在も,関係者と綿密な打ち合わせを欠かさない。「設計と施工,両者の技術的フィードバックの繰返しが,品質・機能を高めた。現場の知恵を借りることで,より高品質な設計計画を練り上げることができました。双方のコミュニケーションとリスペクトが重要だと感じています」(星野チーフ)。
計画工程
狭隘な敷地での創意工夫
新館は,2011年5月に着工。免震構造を採用した7階建ての診療・入院機能などを有する施設となる。現場を訪れた際は,6階の躯体工事と並行し,内装工事がはじまっていた。建設地は,稼働中の本館と北館の間に挟まれていて,その西側には2棟をつなぐ仮設の渡り廊下がある。三方を囲まれ,躯体面は近い所だと一般病室から5mほどしか離れていない。 一般道路とアクセス可能な場所は,敷地の東側だけ。作業用ヤードも資材置き場もここでは確保できない。狭隘な敷地での作業の厳しさを目の当たりにした。
この厳しい施工条件の対応策のひとつに,搬出入車輌動線の工夫があげられる。新館は東西に長い建物形状であることから,両側にタワークレーンを1基ずつ配している。西側のタワークレーンは,資材を搬出入する車輌が寄り付ける場所が周辺には全くない。そこで,建屋の中央部分に,1階から最上階まで吹き抜ける縦孔を設けた。1階の床を補強して,トラックや生コン車が建物中央部まで乗り込めるようにし,縦孔の開口からクレーンが搬出入車両の資材を直接吊り上げられるようにしたのだ。10t車にも耐えることができるための床補強も,事前に構造設計者と協議して設計図に反映させている。このほか,北館の屋上を借用し養生を行ったうえで,資材の仮置き場所としている。
利用者にやさしい病院づくり
24時間休みなく稼働する病院。老若男女問わず,多くの外来患者が出入りする様子を見ていると,地域の人々にとって大切な病院であることを実感する。現場を案内してもらう間も,常に利用者の安全に目を配る辻本哲也所長。すれ違う病院関係者には,何か不都合な点はないかなど,明るく声をかける。「施工中であっても,患者さんや病院スタッフにはできるだけやさしい環境を提供したい」と話す。
解体作業による振動や騒音,アスファルトを使った防水工事では臭気が発生する。極力,外来患者や病院スタッフが少ない土・日曜日を中心に行っているが,病院には救急外来患者などが多数訪れる。工事を取り仕切る監理技術者の梶原哲也次長は「実際に診察室に立ち合って,騒音や振動,臭気の程度を確認しています。人によって感じ方は異なりますから,できるだけ負荷を軽減できるように最善を尽くしています」。既存病棟の窓を改造したり,仮設の防音パネルを周囲に廻らせるなど,様々な工夫で病院環境の維持に配慮している。
また内装工事に先立ち,昨年11月から約1ヵ月間,病室モデルルームを公開した。病院スタッフに,実際に使い勝手を体験してもらって,できるだけ要望に応えていきたいという試みだ。来館者のアンケートの様々な意見を分析し,設計にフィードバックすることができた。
設備を担当する西尾和紀次長は,今後新たな施設へ医療機能を移す際には,設備の切替え作業に注意を払わなければならないという。停電になれば,人命に関わる一大事となりかねない。電気やガスのほか,病院内に張り巡らされた設備は複雑で量も多い。事前調査を細部まで行い,影響のある範囲を確認しながら工事を進めている。「パズルのような組替えを全部で6回行います。新館が完成しても,北館が解体されるまでは3棟が稼働する状態になります。何重にも対策を考え,万全の備えを整えていきます」(西尾次長)。
プロジェクト関係者が一丸となった総合力
病院PFIは関係者が多岐にわたる。設計・施工・営業をはじめとする社内連携はもちろんだが,病院関係者,SPC,他業務協力企業など,たくさんの関係者が一丸となった総合力が,施設整備の要となる。現場を指揮する片山慶教副所長は「当社の各部署より医療・福祉の建設に数多く携わったエキスパートが招集されました。関係企業者の方々と協力体制を構築する経験は,他の現場では味わうことができません」と,企業間の垣根を越えて,皆でつくり上げるという醍醐味にやりがいを感じている。
片山副所長の手元には,300ページにおよぶ要求水準書・提案書と契約書が常に置かれる。「設計者ならびに施工者は,PFI事業特有のこの3冊を読み込み,細分化された各条件に留意しながら図面や書類作成に当たらなければなりません。慣れないことばかりで初めは苦労しましたが,着工から1年以上が経過し,病院・SPCのご指導ご協力のもと,順調に作業を進められるようになりました」と片山副所長は頼もしく語る。
まもなく,新館の躯体工事が完了を迎え,工事は半ばにさしかかる。「皆でさらに一丸となって奮起しています」と話す辻本所長のスローガンは「創意と工夫で,最新鋭の病院施設を実現する。―現場はひとが造る。熱い思いと協汗(きょうかん)で―」。人と人とのつながりの大切さは,プロジェクト関係者全体に浸透しているようだ。
新館は来春に開業予定,プロジェクト全体の完成は,2014年7月末の予定となっている。
新館着工の際,病院・SPC・当社の関係者でそれぞれ寄書きしたプレートを建屋最下部の基礎下に埋め込んだ。その署名は,100余名にもなった。関西支店営業部プロジェクト推進グループの道浦嘉奈子次長は「本事業は,社内外で多くの関係者が“病院PFI事業の成功”という同じ目標に向かって取り組んでいます。工事着手にあたって,各自がその思いをステンレス板に書き込みました。提案検討から2年余り,皆がひとつにまとまり,いよいよ工事スタートという身の引き締まる瞬間でした」。プレートにはこの事業を支える担い手の思いが詰まっている。