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Case1 社会インフラの維持管理 ~強靭な国土づくりに向けて~

生活基盤の再構築

5月15日,2013年度の政府予算が成立した。前年度の大型補正予算と合わせた“15ヵ月予算”が動き出し,日本経済再生に向けた切れ目ない緊急経済対策が実施される。公共事業の新たな取組みとして,トンネルや橋梁など社会インフラの総点検と緊急補修が行われ,国民の命と暮らしを守る生活基盤の再構築がなされる。地方公共団体への点検費補助が新設されたことも目玉の一つである。

構造体を知る舗装会社

「いま地方公共団体が管理する道路橋に注目しています。橋梁の点検が終わると,次は補修工事。その準備は既にできています」と語るのは,舗装業界大手の鹿島道路(東京都文京区)で経営企画部門を統括する岩下幸生常務。現在,老朽化や耐震不足のため全国で約2,000の道路橋で通行規制が行われ,そのうち約300橋が通行止めとなっている。そのため,橋梁の補修・補強工事の必要性は以前から指摘されていたが,今後一層ニーズが高まると見込む。

道路橋に目をつけたのは,約15年前から行ってきた橋梁技術の蓄積にある。「舗装会社で,橋梁の構造設計担当者がいるのは唯一鹿島道路だけです。これから強みとなっていくでしょう」と経営企画部の児玉孝喜次長は話す。

図版:鹿島道路 岩下幸生常務(右)と児玉孝喜次長

鹿島道路 岩下幸生常務(右)と
児玉孝喜次長

長年,技術開発に携わり,現在は開発技術を活かした新事業の創出に取り組んでいる。通常,舗装会社は舗装や防水工事のみを行うため,ほとんどの会社に橋桁や橋脚,床版など橋梁の構造体に関する知見がないという。「技術開発をとおして,道路橋の舗装下にある床版の疲労が進んでいることがわかりました。近い将来,床版補強技術が必要になると考えて,開発に力を入れてきました」(児玉次長)。その成果の一つが「SFRCボンド補強工法」。舗装を撤去後,疲労亀裂などを起こしている床版上に独自開発したエポキシ系の接着剤「KSボンド」を塗り,その上に鋼繊維補強コンクリート(SFRC)を打設し再舗装することで,床版の寿命が数十年延びるという。昨年5月,東京都港区芝浦地区とお台場地区を結ぶレインボーブリッジを24時間通行止めして行われた補強工事にも,この工法が適用された。「アスファルト舗装は,概ね10年ごとに舗装修繕を繰り返します。私たちは,道路の維持管理会社だとも言えますね。これからも構造体を知る舗装会社として“生活基盤の再構築”に貢献していきます」(岩下常務)。

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図版:2012年5月レインボーブリッジを24時間通行止めして,床版の補修・補強工事が行われた。この工事には「SFRCボンド補強工法」が適用されている

2012年5月レインボーブリッジを24時間通行止めして,床版の補修・補強工事が行われた。この工事には「SFRCボンド補強工法」が適用されている

図版:舗装の撤去作業

舗装の撤去作業

図版:特殊な接着剤で床版の補修・補強をする

特殊な接着剤で床版の補修・補強をする

本体の技術開発力を活かす

社会インフラの補修・補強,維持管理を専門に行っているのが,カジマ・リノベイト(東京都新宿区)である。橋梁,トンネル,ダム,発電所,下水処理施設など,あらゆる土木構造物を対象に,調査・診断,設計・施工を一貫して行う体制を整えている。当社技術研究所(東京都調布市)が開発した技術をベースに事業展開しているのが特徴となる。「補修・補強工事は,発注単位の小さいものがほとんどです。鹿島本体が応札できない工事をターゲットに,信頼性の高い技術を活用させてもらっています。また,技術研究所が開発した技術に,新たな可能性を見出すのも私たちの役割です」と技術全般を統括する植田政明常務は話す。鹿島本体の保有技術をリニューアル市場に適用するだけではなく,市場ニーズを技術研究所にフィードバックすることで,新たな技術開発を促し,技術をスパイラルアップさせている。

図版:カジマ・リノベイト 植田政明常務

カジマ・リノベイト 植田政明常務

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同社が展開している数多くの技術の中で,著しく施工実績が伸びているのが,CCb(セラミックキャップバー)工法だ。もともと発電所などの巨大コンクリート構造物を対象に,耐食性に優れたセラミック性の定着体と鉄筋を使って構造物の片側面から耐震補強する技術として開発されたが,高度経済成長期以降に数多く整備された下水道施設などの地下構造物の老朽化対策として活用できると予見。補強効果などの評価や実験を技術研究所で行い,地下に構築された社会インフラに幅広く適用できる技術として確立した。建設コンサルタントへの提案を継続的に行った結果,2009年度には数十本だった実績が2012年度には約1万6,000本,今年度は約3万6,000本を予定し,累計で約6万3,000本を見込む。「優れた技術は市場が認めてくれます」。鹿島本体とグループ会社との連携が相乗効果を生み出している。

図版:建設から約40年経った水処理施設の補強工事。底版に約4,500本のCCbが適用された

建設から約40年経った水処理施設の補強工事。底版に約4,500本のCCbが適用された

図版:施工状況。セラミック性の定着体と鉄筋を挿入する様子

施工状況。セラミック性の定着体と鉄筋を挿入する様子

図版:当社技術研究所でのCCb工法の開発状況

当社技術研究所でのCCb工法の開発状況

独自技術で時代を切り拓く

一方,地盤改良,基礎構築,土壌浄化などを手がけるケミカルグラウト(東京都港区)は,1963年の設立以来“技術立社”を哲学とし,独自の技術開発を貫いてきた。「技術は,本当に日進月歩しています。ですから,鹿島の若手の優秀な出向社員たちでケミカルグラウトをつくって,自主開発に取り組んだのですよ。とにかく,それまで建設のジャンルでは考えられなかったことに,どんどん挑戦することにしました」。同社の30年史で石川六郎会長(当時)が,曽野綾子さんとの対談『ケミカルグラウト社の仕事と私たちの生活』で語った言葉だ。「この精神は,いまでも私たちに受け継がれています。独自技術を開発してきたからこそ,地盤処理のパイオニアとしての地位が築けたと思います」と話すのは,技術営業本部長の立和田裕一専務。山岳トンネルの止水,地下鉄工事の土留め,超高層ビルの基礎など,時代の要請に独自技術で応えてきた。

図版:ケミカルグラウト 立和田裕一専務

ケミカルグラウト 立和田裕一専務

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東日本大震災以降は,防災や安全に資することを一層重視し,保有技術を地盤沈下や液状化対策に積極活用している。その中で,いま注目を集めるのが「カーベックス工法」。約15年前に,地盤処理とは関係のない,米国で用いられていた下水管を配管するための技術を,地盤改良技術として応用したものだ。離れた場所から,地盤の削孔と薬液注入を同時に行い地盤改良できる工法で,これまで27件の実績がある。4月9日から11日の3日間,同工法が建設コンサルタントやゼネコン関係者などに初めて公開された。見学者は予想の3倍を上回り,約180名にのぼった。公開されたのは東京都江戸川区が進める「左近水門耐震補強工事」。首都直下などの巨大地震が発生した場合,洪水時の水量調整機能を持つ左近水門が,液状化により十分に機能を発揮できない可能性があり,ケミカルグラウトによる対策工事が進んでいる。「約45m離れた場所から,水門直下の地盤を改良しています。従来工法であれば,水門近くに立坑を掘り地盤改良しますから,水門を使いながらの工事は不可能でした」。水門を供用しながら耐震補強工事を行えることが,同工法採用の決め手となったという。

「社会インフラの維持管理は,安全で安心な暮らしには欠かせません。このことに独自技術を使っていくことが,私たちの社会的使命だと思っています」。

図版:4月9日から11日の3日間,「左近水門耐震補強工事」(東京都江戸川区)で「カーベックス工法」が初めて公開された

4月9日から11日の3日間,「左近水門耐震補強工事」(東京都江戸川区)で「カーベックス工法」が初めて公開された

図版:見学会には建設コンサルタントやゼネコン関係者が多数訪れた

見学会には建設コンサルタントやゼネコン関係者が多数訪れた

図版:「カーベックス工法」の概要図

「カーベックス工法」の概要図

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