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秋田の風から始まる新たな時代

再生可能エネルギー主力電源化の切り札として期待される洋上風力発電。
今般,当社JVが施工を進めてきた「秋田港・能代港洋上風力発電施設建設工事」が完成し,
洋上風力発電は新たな時代の幕開けを迎える。
今回は,低炭素社会への移行に貢献する本プロジェクトを振り返るとともに,
新しい工種に挑戦した現場担当者の声を紹介する。

33基の大型風車を設置

本プロジェクトは,秋田県が管理する港湾区域に,ブレード直径117mの大型風車を秋田港13基と能代港20基,合計33基設置するもの。風車1基あたりの発電量は4.2MW,総出力は約138.6MWとなり,国内最大規模の洋上風力発電所として,以後20年にわたり稼働する。能代港では昨年12月に,秋田港では本年1月に商業運転を開始しており,今日も秋田の海にその勇姿が映える。

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図版:秋田港

秋田港

図版:能代港

能代港

3つの大きな特徴

本プロジェクトには①SEP船の使用②欧州からの主要材料の調達③海外エンジニアへの対応という大きな特徴があった。風車を支える基礎は,大口径鋼管杭モノパイル(MP)と,風車との接続部材トランジッションピース(TP)で構成され,据付にはSEP船が必要となる。当プロジェクトでは英国企業が所有する800t吊級SEP船「ZARATAN(ザラタン)」を使用。現状,MP・TPに使用する厚板の製造ならびに曲げ加工が国内メーカーでは実施できないため,洋上風力発電の先進である欧州(オランダ・ベルギー)から調達した。

また,事業者は欧州式の契約管理や技術管理手法を取り入れ,欧州エンジニアを起用。日々のコミュニケーションや各種書類は英語・日本語の両方で対応する必要があり,さながら,海外で施工をしているかのような状況であった。

※自己昇降式作業台船(Self-Elevating Platform)

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図版:洋上施工概要

洋上施工概要。
基礎工事を当社,海底ケーブル敷設工事を住友電気工業が所掌する分担施工方式のJVを組成

図版:欧州から輸送してきたMP(手前)・TP(奥)

欧州から輸送してきたMP(手前)・TP(奥)

図版:ZARATANによるMP施工

ZARATANによるMP施工

図版:ZARATANによる風車組立

ZARATANによる風車組立

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チームワークを何よりも大切に

本工事事務所はピーク時最大120名,10ヵ国以上の国籍の所員が集まり,欧州エンジニアも30名採用,国際色豊かな人員構成となった。現場を率いた田口浩己所長は「日本の施工技術が劣っているということは全く無い。仕事そのものはとてもシンプル。しかし,扱う材料・道具が非常に大型で,今の日本では経験することが少なく,ノウハウも乏しかった」と工事の難しさを振り返る。手探りの状況で工事を進める中,所員一人ひとりが社内外の様々な人の意見を聞き,常に学びながら工事を進めたという。

現場には海外での工事経験者が多く集まった。「所員一人ひとりが力を発揮できるような環境づくりを意識し,チームワークを何よりも大切にした」と田口所長自身は調整役に徹した。「工期は遅らせず,お客さんに寄り添って仕事をすれば,自ずと結果がついてくる」と言い続け,滞りなく完成を迎えることができた。

今後,国内では本プロジェクトの規模と比較して風車1基当たりの大きさが2倍,発電容量が3倍となるような洋上風力発電施設の計画も進む。「所員は初めてのことが多く苦労を伴ったと思うが,無事に工事を完遂させた経験,今回得た技術やノウハウは当社の大きなアドバンテージになる」と語った。

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田口浩己所長

誰か一人が主役ではなく,チームワークで完遂した工事。
その中でも,チームの中核を担い,牽引した3人の社員がいた。
奇しくも全員海外赴任を経験した,2005年の同期入社。
現場の「三羽ガラス」とも呼ばれた3人に工事を振り返ってもらった。

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浅香康弘 設計課長
(現:本社土木設計本部)

仮設の設計,揚重計画,艤装設計など施工に関連する技術検討を主に担当。また本設の設計要件を現場に繋げる役割を担う。基礎工事・風車設置時はZARATANにも乗船。

※各種設備などを船体に取り付けること

自分のアイデアが形になる

欧州洋上風力の標準的な検討に,日本固有の耐震検討といった特殊な項目を組み込んでいかなければならない点が特徴的でした。未経験の工種のため,海外の協力会社や,現場で採用した欧州のエンジニアにも学びながら設計を行いました。事前に十分検討したつもりが,見落としや機材不具合もあり,施工中の急な計画見直しが何度か必要でした。施工条件や工程に影響が出ず,安全で皆が納得する計画に変更するよう心がけました。

プレッシャーや緊張感がある一方で,やりがいもあり達成感はひとしおです。上司や同僚のサポートのもと,チームワークで困難を乗り越えました。

欧州も含めて年数が浅い工種のため,まだまだ改善や工夫の余地があり,自分のアイデアが形になりやすい工事です。また,多国籍で進めたプロジェクトということもあり,色々な考えをもった人と仕事ができ,私自身も楽しんで取り組めました。この現場にチャレンジさせてくれた会社にも非常に感謝しており,ここで得た知見を社内に展開するまでが仕事だと思っています。

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柄沢篤志 工事課長
(現:本社土木管理本部)

着任時はクリティカルとなっていた調達・輸送業務のうち,輸送を主に担当。輸送に目途が立った後,洗掘防止工関連の対応や,ZARATANへの乗船,風車設置の施工計画なども担当。

建設業以外の人,
色々な国の人と関わる

材料が欧州から現場に到着するまでの輸送業務は,建設業ではなく海運業のため,何も分からない状況からのスタートでした。一般的には現場への材料搬入時は,荷卸しの段階から考えますが,海外からの長距離輸送の場合,貨物がどういう荷姿で輸送されるか,破損したときにどの保険でカバーされるか,通関は誰がどこで行うのか,品質を担保するための管理や荷卸しの方法など,輸入通関的な海運業の視点,施工的な視点,工務的な視点といった様々な視点を持たなければなりません。社内でもノウハウの少ない分野のため,地元の港湾業者や船舶代理店,海運会社,海事弁護士,海外のエンジニアにヒアリングしながら,リスクを一つずつ減らしていきました。

建設業以外の人,色々な国の人と関わり,新しいことを習得しながら一つの目標に向かってプロジェクトを進めていくことに面白さを感じました。輸送については,今回得たノウハウをしっかり整理して,今後の担当者が一から始めなくてすむように,ナレッジを展開していきたいと思います。

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品田健太 工事課長
本記事のドローンによる写真撮影者

発注・原価管理が主な業務。情報の一元化を目的とした調達管理の仕組みを構築した。事務所横断的な情報収集・展開にも注力。風車設置の際はZARATANに乗船し,突発的な業務にも対応した。

見えないからこその探求心

ノウハウが少ない工種のため,内容を咀嚼して理解しないと,金額の妥当性も,発注に関する各所への説明もできません。現場を俯瞰しつつも一つひとつ単純化する観点が求められました。また,重量物を取扱う洋上施工は,日々の施工進捗などが発注や原価管理に大きく関わってきました。海外発注も多かったのですが,国内外の双方で発注・原価管理を行ってきた経験を融合させながら進めました。

施工船,本設資機材とも海外由来の中,工事序盤でコロナ禍となり,海外への往来が制限されたことも,プロジェクトを困難にした要因です。事務所内では意見を出しやすい雰囲気があり,立場問わず皆が完工を目標に協働しました。

初めての経験で,先が見えない苦しさもありましたが,見えないからこその探求心や,技術者としての醍醐味がありました。SEP乗船業務も多国籍の方々との仕事でしたが,互いに人物・立場を尊重し,話を傾聴し,所属問わず助け合う一体感がありました。今後も洋上風力建設に携わりたいと考えていますし,この現場の感覚を胸に刻み,仕事をして参ります。

  • #クリーンなエネルギー
  • #着床式(モノパイル形式)
  • #一般家庭の年間消費電力量約13万世帯分
  • #巨大なウミガメ

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